第28話 不可解な目覚め

優子が目を覚ました時、頭は鈍い痛みを訴え、視界はぼんやりとしていた。自分がどこにいるのかすぐには分からなかった。周囲を見回すと、そこは見慣れない場所だった。壁にはひび割れたタイルがあり、床は冷たく湿っていた。まるで廃墟のようだ。


「……ここ、どこ……?」


起き上がろうとしたが、体が重く、手足に力が入らない。全身が怠く、まるで何かに縛り付けられているような感覚だった。


突然、どこからか微かな足音が聞こえた。優子は体を動かそうと必死になったが、足音はどんどん近づいてくる。


「誰か……いるの……?」


声を出したものの、その声はかすれていて、ほとんど音にならなかった。


足音が止まると、代わりに低く唸るような音が響いた。それはまるで動物の咆哮のようで、優子の背筋が凍った。


「モモ……?」


その名前が思わず口を突いて出た。だが、そんなはずはない。モモはもういない。それでも、その音はモモが出していた低いうなり声に似ていた。


暗闇の中から何かが現れた。薄ぼんやりと見えるその輪郭は、確かにモモのように見える。しかし、その姿はどこか歪んでいて、目には赤い光が宿っていた。


「モモ……?」


震える声で再び名前を呼ぶと、その影は一歩ずつ優子に近づいてきた。


「違う……違う……!」


優子は必死に後ずさりしたが、背中は冷たい壁にぶつかった。


影が完全に姿を現した時、優子はその顔に見覚えがあることに気づいた。それはモモの姿を模していたが、どこか人間的な要素も混ざり合っていた。顔には傷のような線が走り、口元からは鋭い牙が覗いている。


「あなた……誰……?」


恐怖に震えながら問いかけるが、その存在は答えない。ただ優子をじっと見つめ、次の瞬間、異様に伸びた腕を彼女に向けた。


「やめて……来ないで!」


優子は叫びながら目を閉じた。しかし、衝撃は来なかった。代わりに耳元で囁き声が聞こえる。


「逃げられない……優子……」


その言葉を聞いた瞬間、彼女の意識は再び遠のいていった。


目を覚ますと、優子は自分のベッドの上に横たわっていた。


「夢……?」


起き上がって辺りを見回すが、何もおかしなことはない。ただ、自分が全身汗まみれであることに気づいた。時計を見ると、朝の5時を過ぎていた。


「あれは……何だったの……?」


混乱しながらも、優子はふと枕元に何かが置いてあることに気づいた。それは写真だった。以前玄関で見つけたモモの血まみれの写真――だが、今回はさらに文字が追加されていた。


「時間がない。」


優子の心臓が音を立てて跳ねた。その言葉の意味を考える間もなく、ふと部屋の奥からまたあの音が聞こえた。


「……誰か、いるの?」


恐る恐る声をかけたが、答えはない。ただ、風がカーテンを揺らす音だけが響いた。


優子は写真を手に取り、震える手でそれを裏返した。裏側にはさらにメッセージが書かれていた。


「モモは待っている。」


「モモが……待っている?」


優子は訳が分からなくなり、頭を抱えた。もはや現実と幻覚の区別がつかなくなりつつあった。


その時、スマートフォンが震えた。画面を見ると、「佐藤」という名前が表示されている。


「……なんで?」


通話ボタンを押すと、佐藤の声がいつもより低い調子で響いた。


「田中さん、大丈夫ですか?」


「……どういうことですか?」


「実は……また君の家の周辺で奇妙な目撃情報が出ているんだ。」


「目撃情報?」


「君の家の窓から、赤い目をした何かが見えたって。」


佐藤の言葉に全身が凍りついた。優子の視線は自然と窓の方へ向いたが、そこには何もいない。


「……もう限界……」


優子は電話を切り、部屋の隅で膝を抱えたまま震え続けた。


外からは再び、爪で床を引っかくような音が響き始めていた。







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