第18話 繰り返される囁き

翌朝、優子はふとした物音で目を覚ました。病室の薄暗い光の中、視界はぼやけており、頭が重く感じられる。昨夜の出来事が夢だったのか、それとも現実だったのか、区別がつかなかった。


「モモ……?」

名前を口にすると、胸の奥に鈍い痛みが走った。モモが現れたあの瞬間を思い出すたび、頭が混乱してくる。


ベッド脇の床に目を落とすと、白い病室には似つかわしくない泥のような汚れが点々と続いていた。それはまるで、昨夜モモが歩いた道筋をなぞるように、ベッドの周囲に広がっていた。


「何……これ?」

優子は息を呑みながら、その汚れに触れようとしたが、手を止めた。妙に生温かい感触を想像してしまい、全身に鳥肌が立つ。


「夢じゃない……?」

優子は声を震わせながら呟いた。もしこれが幻覚ではないなら、昨夜の出来事はいったい何だったのか。


その時、不意に誰かの囁き声が聞こえた。


「……どうして……」


優子は耳を澄ませたが、囁き声はそれ以上続かなかった。周囲を見回しても誰もいない。


「誰?……佐藤さん?」

優子はベッドから起き上がろうとしたが、体が鉛のように重く、再びシーツの上に崩れ落ちた。


囁き声は徐々に大きくなり、耳の奥に直接響いてくるようだった。


「どうして見つけてくれないの……?」


その声ははっきりと優子に語りかけていた。女性の声だったが、それが誰のものかはわからない。


「見つけて……何を?」

優子は恐怖で喉が詰まりそうになりながら問いかけた。


すると、今度はベッドのそばで床が軋む音が聞こえた。振り向こうとしたが、首が動かない。


その場に縛りつけられたかのように、優子は体を動かすことができなかった。ただ、視線だけで部屋の中を探るが、何も異常は見当たらない。


しかし、音だけは確実に存在していた。誰かが優子のベッドの周りをゆっくりと歩いているような足音。


「……誰かいるの?」

優子の声は震えており、自分の耳にも届かないほど小さかった。


足音は一度止まり、次の瞬間、優子の耳元で囁き声が聞こえた。


「――早く見つけて……」


その言葉と同時に、背筋に冷たいものが走り、優子は叫び声を上げそうになったが、声は出なかった。


その時、扉が開き、看護師が部屋に入ってきた。


「田中さん、大丈夫ですか?」

看護師の声に、優子は体の力が一気に抜けた。


「あ……あの……」

優子は何かを言おうとしたが、何を説明すればいいのかわからず、口を閉じた。


「少し顔色が悪いですね。大丈夫ですか?」

看護師は優しく声をかけ、優子の体調を確認するためにベッド脇に近づいてきた。


優子はかすかに頷くだけで、何も言えなかった。看護師が部屋を出ると、再び静寂が訪れた。


「……何かがおかしい。」

優子は心の中で呟きながら、再び窓の外を見つめた。鏡に映る自分の姿が、どこか歪んで見えるような気がした。


「……気のせいか。」

そう呟く

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