第17話 疑念の深まり
病院の白い天井を見上げる優子の視界はぼんやりとしていた。横たわる自分の体が、まるで自分自身のものではないように感じられる。栄養失調という診断結果は理解できた。しかし、それだけでは説明できない何かが彼女を苛んでいた。
佐藤さんが部屋を出て行った後、優子はゆっくりとベッドの上で起き上がろうとした。腕に力を入れるたびに、関節がギシギシと音を立てるような錯覚に陥る。
「こんな体になるまで、どうして気付かなかったんだろう……」
優子は自分の問いに答えを出せず、首を横に振った。
視線をふと窓の外へ向けると、薄暗い空が広がっていた。病院の窓ガラスに映る自分の顔を見つめる。その表情は疲弊しきっており、以前の自分とは別人のようだった。
「……戻りたい。」
彼女は呟いた。だが、何に戻りたいのかすら、はっきりしない。
その夜、看護師が点滴の確認に来たあと、病室は静寂に包まれた。時計の針が動く音すら聞こえるほどの静けさだ。
不意に、優子は病室の扉の向こうから足音がするのを聞いた。こんな夜遅くに、誰かが来るのだろうか。
「……佐藤さん?」
優子は小声で呼びかけたが、返事はない。
足音はゆっくりと近づいてくる。その音がやけに重たく響き、胸の鼓動が速くなる。
扉の下から差し込む光が一瞬、影に覆われた。そして扉がわずかに軋む音を立てる。
「誰……?」
優子は声を震わせながら問いかけた。だが返事はない。
その時、扉が突然開いた。優子は反射的に息を飲み、布団を握りしめる。
しかし、そこに立っていたのは病院の看護師でもなく、佐藤さんでもなかった――それは、モモだった。
モモは病室の中に一歩踏み出すと、まるで何事もなかったかのように、優子の方へゆっくりと歩み寄ってきた。
「モモ……?」
優子は目をこすり、何度も瞬きをした。だが、視線の先には確かにモモがいた。
「どうして……」
優子は手を伸ばし、モモに触れようとする。だが、その手はモモに届く直前で空を切るようにすり抜けた。
「幻覚……?」
優子は呆然とするしかなかった。
モモは優子の目をじっと見つめ、口を開くことなく何かを伝えようとしているかのようだった。その瞳の奥に映るのは深い悲しみと、何かしらの訴えだ。
優子は震える手で頭を抱えた。何が現実で、何が幻覚なのか、もはや自分には区別がつかない。
「やめて……もう、やめて……」
声にならない叫びを胸に抱え、優子はただその場で涙を流すしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます