第16話 監視の影

病院のベッドで、優子は目を覚ますたびに体の重さを感じ、恐ろしいほどの孤独感に襲われた。身動きひとつできないまま、時間だけがゆっくりと流れているようだった。佐藤さんの訪問は、もはや優子の日常の一部となりつつあった。


「食欲、戻ったか?」

佐藤さんが聞いた声は、心配そうに聞こえたが、どこか押し付けがましい気がした。


「うん……少しね。」

優子は目を閉じ、嘘をつくのも疲れたと思いながら、そう答える。


「無理しなくていいんだぞ、ゆっくりでいいからな。」

佐藤さんはいつものように笑顔で言ったが、その笑顔もどこかぎこちない。


「本当に大丈夫?いつも言ってるけどさ、無理しすぎだよ。」

佐藤さんはベッド脇に座り、優子の手を取って握る。


優子はその手をじっと見つめ、言葉を探すように唇を動かす。


「……佐藤さん、私のこと、本当に心配してる?」


その問いに、佐藤さんは一瞬驚いたように目を見開いた後、少し考えるように黙った。


「もちろんだよ、優子さん。」

彼の声は穏やかだったが、どこか心がこもっていないような気がする。


「でも、最近のあなたは……なんだか様子が違うんだ。」

優子はその言葉を聞いて、またもや違和感が胸に広がる。


「どういうこと?」

優子はゆっくりと顔を上げ、佐藤さんをじっと見つめた。


「何かあるんじゃないかって、ちょっと心配でさ……まあ、気のせいかもしれないけど。」

佐藤さんは苦笑いし、視線を外す。


「気のせい?」

優子はその言葉にかぶせるように言った。

「それ、私が勝手に思ってるだけってこと?」


佐藤さんは黙って、またため息をつく。


「違うよ、そんなつもりはないんだ。ただ……少しだけ心配してるだけだよ、優子さん。」


「でも、気にしてくれるなら……もっと言ってくれればいいのに。」

優子は腕を組み、視線を落とす。


「それは……ちょっと。」

佐藤さんは一瞬口を開き、言葉を探しているようだったが、結局何も言わなかった。


「佐藤さん、私は……」

優子は言葉を続けることができず、ただその場に座っているしかなかった。


「何か隠してる?」

優子はやっとの思いで口に出したが、その声は小さく、震えていた。


佐藤さんは少しだけ動揺したように見えたが、それでも優子を見て、優しく微笑んだ。


「そんなことないよ、優子さん。心配しすぎなんだよ。」


「でも……」

優子は声を絞り出すように言った。

「最近、なんだか見てるような気がするんだ。私のこと、ずっと。」


その瞬間、佐藤さんの表情が一瞬だけ曇り、硬直する。


「見てる?」

彼は呟くように言った後、急に立ち上がり、部屋を見回すように辺りを見渡した。


「な、何か隠してるの?」

優子は不安そうに問いかける。


「いや、そんなことはないよ。君のことを心配しているだけだよ。」

佐藤さんは顔を俯かせ、優子から目をそらす。


「でも、最近のあなたの様子……少しおかしいんじゃないかって、気になって。」


「もういい!」

突然、優子はベッドから起き上がろうとするが、体がついてこない。痛みが走り、結局床に倒れ込んでしまった。


「大丈夫か?」

佐藤さんがすぐに駆け寄り、優子の体を抱き寄せる。


「大丈夫じゃない……」

優子は涙をこぼしながら、声を絞り出す。

「私、何もかもわからない。助けて……。」


佐藤さんは黙って、彼女を抱きしめる。


「大丈夫、すぐに良くなるから。少し休もう。」


その言葉に、優子はうなずき、眼を閉じる。心の中で何かが崩れていくような感覚があった。

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