第13話 戻らぬモモ
優子はアパートに戻るのが怖かった。
夜風に当たりながら、外でしばらく震えていたが、外もまた安全とは言えない。
モモがいなくなった世界は、どこにいても薄暗く息苦しかった。
「帰らないと……」
小さく呟いて、自分を奮い立たせるように建物の中へ足を踏み入れた。
エレベーターはどうしても乗る気になれず、階段を一歩ずつ登る。
そのたびに背後に誰かがいるような感覚がして、何度も振り返った。
自室の扉の前に立ち、手を伸ばした瞬間、また耳元で声がした。
「帰ってきてくれてよかった。」
「やめて!」
優子は泣きそうになりながら扉を開け、明かりをつけた。
部屋の中は変わらない。物音一つしない静けさが広がっている。
だが、リビングに足を踏み入れたとき、優子の目はある一点に釘付けになった。
そこに――モモがいた。
「モモ……?」
思わず名前を呼ぶと、モモは優子の方を見て尻尾を振った。
いつものように愛らしい瞳で、彼女を見つめている。
「嘘……そんなはずない……」
震える声でつぶやきながら、優子はモモに近づいた。
手を伸ばし、その毛並みに触れようとした瞬間――指先が空を切った。
モモはそこにはいなかった。
幻覚だったのだ。
「そんな……そんなはず……!」
優子はその場に崩れ落ち、床を叩いた。
だが、次の瞬間、モモの声が聞こえた。
振り向くと、モモが再び現れ、リビングの端でじっと座っている。
「モモ……帰ってきたの……?」
優子は再び手を伸ばそうとしたが、モモは何も答えない。
ただ彼女を見つめるその瞳は、いつもの温かさではなく、どこか冷たく感じられた。
「ねえ、どうして……何も言わないの?」
問いかけるが、モモは動かない。
そして、静かに姿を消した。
優子は混乱と恐怖に襲われた。
モモの存在が、彼女の心の奥深くに巣食う何かを目覚めさせているような気がした。
彼女の頭の中では、あの低い囁き声が繰り返される。
「ほら、気づいたでしょ。」
優子は耳を塞いだが、その声は止まらなかった。
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