第11話 囁く声

モモを失ってから数日が経過した。優子は外に出る気力を完全に失い、部屋の中で過ごす時間が増えていた。

テレビの音も、スマートフォンの通知も煩わしく感じ、唯一の娯楽だった読書すら手につかない。


部屋の中には奇妙な静寂が漂っていた。それは単なる「静かさ」ではなく、何かが隙間から忍び寄ってくるような不気味な感覚だった。


ある夜、優子はリビングのソファに腰掛けて、モモの遺影を見つめていた。

「モモ……どうして、あんなことに……」

かすれた声でつぶやく彼女の目から、再び涙が流れる。


そのとき、不意に背後で物音がした。

振り返ると、棚の上に置かれていた一冊の本が床に落ちている。

「……?」

優子は立ち上がり、本を拾い上げた。それは彼女が学生時代に読んだ文学作品で、しばらく触っていなかったものだった。


棚に戻そうとしたとき、背後で再び音がした。

今度はキッチンの方から――金属が軽く擦れるような音だ。


「誰かいるの?」

彼女は勇気を振り絞り、キッチンの電気をつけた。

だが、そこには誰もいない。


「疲れてるだけ……」

そう自分に言い聞かせてリビングに戻ったが、その瞬間、耳元で低い声が囁いた。


「……まだ気づかないの?」


優子の心臓が跳ね上がる。

「誰!?そこにいるの?」

振り向いても、部屋の中には誰の姿もない。だが、確かに耳に残る声がある――それは彼女を責めるような響きを持っていた。


その夜、優子はほとんど眠ることができなかった。部屋の隅々まで確認したが、異常は何も見つからない。

それでも、誰かが自分を見ているような視線を感じ続けていた。


明け方近く、彼女はうとうとと眠りに落ちたが、夢の中で同じ声が繰り返される。

「逃げられないよ。」


目を覚ましたとき、優子の頭の中にはその言葉だけが残っていた。


これまでの出来事はただの偶然なのか、それとも何かが自分を追い詰めようとしているのか――答えのない問いが、彼女の胸をさらに重くする。

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