第10話 迫る影

モモがいない生活が始まった。

優子は食事を取ることもままならず、ただ部屋の隅で時間をやり過ごしていた。

モモの毛布やおもちゃが目に入るたび、涙が溢れて止まらない。


「なぜこんなことに……」

声に出してみても、虚しい反響が返ってくるだけだった。


数日後、優子はモモの遺品を片付ける決心をした。

お気に入りのボールや首輪を触るたびに、彼女の中の記憶が鮮やかに蘇る。

だが、その作業中、奇妙なことに気づいた。


モモがよく使っていた小さなクッションが、なぜか床に置かれていた。

そのクッションは、確かに棚にしまったはずだった。


「どうして……?」

優子は不安を覚えながらも、その場をやり過ごそうとした。

しかし、その夜、さらなる異変が彼女を襲った。


深夜、1:33

部屋の中が異様な静けさに包まれていた。

優子はうつらうつらしていたが、突然、耳元で誰かが囁く声を聞いた。


「また会えるよ。」


その声はモモのものではなかった。

低く、どこか冷たさを感じさせる声だった。

優子は布団の中で硬直し、声のした方向に目をやることができなかった。


しばらくして、部屋の片隅にある鏡が不自然に光り始めた。

鏡には誰も映っていないはずなのに、そこに影のようなものが浮かび上がっていた。


「……だれ?」

震える声で問いかけると、その影はゆっくりと動き出し、彼女に向かって伸びてきた。


恐怖で息が詰まりそうになる中、優子は思わず目を閉じた。

次に目を開けたとき、影は消えていた。

だが、鏡の表面には何かが書かれていた。


――「お前が招いたんだ。」


その文字を見た瞬間、優子は叫び声を上げ、鏡を背にして床に座り込んだ。

部屋は静寂に戻ったが、彼女の胸は激しく波打っていた。


「私が……招いた……?」

頭の中でその言葉を反芻するたびに、背筋が寒くなった。

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