第9話 消えた心の支え
優子は午前中、近所のスーパーに出かけていた。
気分転換になるはずだったが、ここ最近の出来事が頭から離れず、何を見ても色が失われたように感じる。
「モモに何かおいしいものでも買って帰ろう……」
そうつぶやいて、彼女はペットフードの棚からモモのお気に入りを選んだ。
モモだけが、今の彼女にとって心の支えだった。
買い物を終え、自宅のアパートに戻った優子は、いつものように玄関を開けて「ただいま」と声をかけた。
しかし、返事がない。
モモがいつも玄関まで駆け寄ってくる音も聞こえなかった。
「モモ?」
少し不安になりながらリビングに向かうと、部屋は静まり返っていた。
目の前の光景に、優子の息が止まった。
モモが床に倒れていた。
その小さな体の周りには血だまりが広がり、見るも無残な状態だった。
「モモ!」
優子は悲鳴を上げながら駆け寄り、震える手でモモを抱き上げた。
だが、その体は冷たく、優子の呼びかけに反応することはなかった。
「誰が……こんなことを……」
周囲を見回すと、窓は閉まっているし、玄関にも鍵がかかっている。
犯人が侵入した形跡は全くなかった。
しかし、リビングの壁に何かが書かれていることに気づいた。
――「これが始まりだ」
その言葉は、赤黒い文字で書かれていた。
優子の手からモモの体が滑り落ちそうになり、彼女はその場に崩れ落ちた。
「どうして……どうして……」
涙が止まらない。モモだけは、彼女が愛せる唯一の存在だったのに。
その存在が、残酷に奪われた。
頭の中で、これまでの恐ろしい出来事が一気に駆け巡る。
誰が、なぜ、自分を狙うのか――その理由を考える気力さえも削がれる。
しばらくして警察に通報し、事情を説明しようとしたが、優子の話は全く信じてもらえなかった。
「侵入の痕跡もないし、飼い犬が何かの事故で……」
そう冷たく言われると、優子の中で何かがプツリと切れた。
その夜、モモがいない部屋は静寂というより、空虚そのものだった。
優子はベッドに横たわりながら、これまで以上に深い孤独感に襲われた。
モモの温もりがないだけで、こんなにも世界が無意味に思えるなんて。
夜中、またあの音が響いた――
コツ、コツ、コツ。
今度は廊下ではなく、彼女の頭の中で鳴り響いているように感じた。
その音に合わせて、優子の中の何かが崩れ落ちていくようだった。
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