10. 一つの時代が終わったなぁと思う栗東退厩組(上):お疲れ様ドウデュース・セリフォス・シャフリヤール

 去る12月25日、滋賀県は栗東りっとう市に本拠地を置く西の競走馬育成場、栗東トレーニングセンターから、現役を無事に引退した競走馬たちが、それぞれの第二の馬生の地へと旅立ちました。


 北海道組はドウデュース、セリフォス、メロディーレーンが同じ馬運車に相乗りし(メンツが豪華すぎる)、それぞれ今後はお父さん、お母さんになる予定。

 元気な産駒たちを送り出してくれることを楽しみにしています。


 ドウデュースの種付け料、ラストランの有馬を回避したとはいえ、大台1千万円に乗った上で応募も一日待たずに満口になったということですから、やはり期待の高さが窺えます。

 有馬を走っていれば、もう200万ほど上乗せがあったかも……との声はチラホラ上がりますが、それを差し引いても、今は亡きハーツクライの血を次代に繋ぐ貴重な種牡馬の追加になるわけで、一足早く種牡馬入りしているスワーヴリチャードやサリオスに続く太い柱になってくれることを願ってやみません。


 しかし、厩舎関係者を以てして悪の権化(笑うしかない)と言われる気性難である一方、立って歩くだけで牝馬が(恋に)オチたという逸話の絶えない稀代のモテ男(女子に人気の細マッチョな父さん)として悪名高いハーツさんの直仔なのに、息子は引退するまで、ずーっと健全な中学男子みたいなパクパク属性(食べたら食べた分だけお肉になる)に育ったの、最後まで面白すぎました。

 もっとも、おドウくんの場合、溢れてくるネタが食欲のみならず、馬生三大欲求全てに忠実だったもようですが(笑)


 現役通算、16戦8勝うちG1・5勝。

 獲得賞金額のべ17億5千万は本当に立派です。


 ラストの有馬こそ、跛行はこう(歩様に異常のある状態を指す競馬用語)で取り消しになってしまいましたが、秋古馬三冠まで王手をかけた鬼末脚は見事でした。

 その分、やはり毎月ペースで繰り出した二ヶ月連続の後方一気のごぼう抜き(観ている分には圧巻ですが)は、体にも相当な負担だったんだなと振り返って思います。


 担当厩務員さんや調教師が、どれだけ気を付けていても、道中そこらの道草を食う(物理)、パドックの生垣や咲いてる花も食う、本番前にコースの芝を食う。

 お世話してくれるニンゲンさんが手に持っているものは、とりあえず何でも食おうとする。

 挙げ句の果てには、馬房の寝藁まで食おうとする暴食のUMAの食事、馬体重管理は、本当に大変だっただろうなぁ……と。


 輸送に強い(馬体重が減らない)体はアピールポイントですが、帯同の先輩馬の分の食事まで「あれれ〜? 先輩食べないんすか? じゃあ……ムシャァ」って勢いで食べて、現地に到着したら太ってるって……。

(※本来、馬は繊細な生き物なので、輸送で体重が落ちることの方が普通です)


 本当に、色々と出てくるパクパクエピソードが面白すぎる(胃腸も最強に)強いお馬さんでした。脚も大事ないようで一安心です。


 JRA公式ポスター(ヒーロー列伝)を模した、ある意味、競馬民のファンアート的ポスター「無限の食欲。」は、名作だと思っています(爆笑が止まらなくて腹筋が攣る)


 これだけ、関係者にもファンにも愛された名馬です。

 陣営にしてみれば、ラストラン有馬回避は本当に悔しい決断だったでしょうけれど、万に一つの悲劇が起こるのが競馬でもあります。

 無事に引退させて、次の馬生へと送り出すことが厩舎の一番のお仕事ですから、冷静に客観視しても、やはり大事を取ったのは英断だったと、ひっそりとエールを送りたい気持ちです。


 退厩時、馬房から出て記念写真を取って馬運車に乗り込む前にも大きな声で嘶いていましたが、おドウくんって割と入退場時に嘶いてる印象があります。


 プール調教のために建屋に入る前も、よく嘶いていたそうですが、もう態度が体育会系部員のソレっぽくて、いかにもおドウくんらしいです(笑)


「ドウデュースです! 失礼します! ありがとうございました!」

——みたいに見えてくるから不思議です。


 そして、電撃の引退速報が続いてバタバタしていた陰で、12月21日の阪神カップ(G2)を最後に、ひっそりとこちらも引退を決断していた同期のセリフォス。


 3歳時の成績は、特に輝かしいマイルCS(G1)の覇者、古馬戦線でも惜敗しながらも掲示板は確保する堅実な走りを続けて通算成績17戦5勝、獲得賞金額のべ5億3千万を稼ぎ、こちらもまた、場所が異なりますが北海道新冠町の優駿SS(スタリオンステーション)にて種牡馬となる予定です。

 種付け料は速報で150万とも言われていますが、中小規模の牧場も手の届く手堅い価格帯と考えれば、手堅いオファーに期待したいところです。


 そうそう、同じ栗東組で一つ先輩のシャフリヤールも引退が正式に発表されましたね。


 陣営の煮え切らない反応に、まさか、もう一年続行かと驚きましたが、無事に引退できて何よりです。

 同じ馬運車には乗れなかったようですが、おドウと同じく社台SSさんでの種牡馬入りになるそうで、馬房が賑やかになりそうですね(笑)


 印象に残っているのが2歳新馬戦での晴々しい勝利、そして3歳で東京優駿(G1)、海外遠征したドバイシーマクラシック(G1)で人気がピークに達したように思います。

 古馬になって惜敗が続いても、なんだかんだと通算成績18戦4勝のうち、掲示板を外したのって一度だけなんですよね。誠に堅実です。

 そのため、獲得賞金もばっくり8億円お稼ぎになりました。

 世代の層が厚かったが故の惜敗と思えば、それもまた致し方なし。

 まさしく「偉大なる王シャフリヤール」の名に相応しい名馬です。


 今のところ、発表されている種付け料は250万円となっているようですが、ディープインパクト直仔で海外輸送にも強く結果を残すタイプとなれば、中小規模の牧場からのオファーもそれなりにあるでしょうし、まずはお手頃価格で数を確保する戦略と思えば、これもまた堅実な判断と言えそうです。

 そこまで大きな馬体とはいえない中で一定の成績を上げている点でも、小柄な牝馬にも需要がありそうだなあと、ほんのり思っています。


 ——って書いている間に、社台SSさんでの馬房の配置がざっくり決まったみたいですね。


 ドウデュースのお隣は同期のイクイノックス、反対側のお隣がオルフェーヴル(え、マジで?)。

 シャフリヤールは、おドウのお向かい。

 その隣はキタサンブラック(イクイノックスの向かい)という配置になるみたいで、これが本当なら率直な感想——


 よかったね!

 キタサンの治安の良い方の馬房並びで!(言い方)


 いや、稼ぎ頭のキズナおじさん側の馬房が悪いというわけじゃないんですよ。

 色々と(気性、性格的に)面倒くさいやかましいメンツが、ぎゅうぎゅうの魔境ってだけですから(だから言い方)


 もはや、キタサンが色んな意味で頼れるパーフェクト男(人に対して穏やかで従順だけど、仲裁もできて他馬からの信頼も厚く、ボス馬としての器量もある上に引退後も自ら鍛えて体づくりを続けているとかで、馬体も大きくて見栄えもするし、とりあえず、一言でまとめるとカッコ良)すぎて、新種牡馬たちのお世話係みたいになってるの、何かもう、本当にお疲れ様です(笑)


 おやおや、若々しい新人たちの馬房並びに、気難しいおじさん(オルフェーヴルくん16歳)が混じってますね(色々と何かを察する目)


 おドウもイクイも漏れ聞こえてくる性格が「かまって系男児」みたい(おドウはデカい声で嘶くごはんクレクレ男児だし、イクイは構ってくれる相手を求めて夜中でも一頭だけ馬房から顔出してる系男児……ホラーかな?)なんですが、騒がしいのが嫌いなオルフェ(※普段は放っておいてほしいけど、自分が構ってほしい時は構えという暴君)がキレ散らかさないか、その辺りの動向が少し気になりますね。

 今後の続報にも注目したいところです。


 兎にも角にも、お疲れ様、おドウ、セリフォス&シャフ。

 みんな、健やかに長生きしておくれ。

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