第6話 死刑と花嫁
デズの街は白い板を横に長く張り巡らされた建物が多い。二階にはバルコニーが備えられ、雨の日でも濡れずにぬかるみは避けて歩ける気がする。青い空に白い建物が映えるが、ぬかるんだ道は歩きたくはない。マイラバは好んで歩いているが、途中で寝転んで泥浴びなどしないかハラハラする。人が乗ってても気に入らないと転がる。ちょうど広場で集会が開かれているところに出くわした。
「死刑だよ」
後ろから近づいてきた軒下の老人が教えてくれた。みすぼらし格好だった。
「裁判で言い渡された。盗賊の一味だそうだ。死刑台の前にある仮面が証拠だ。昨夜に早馬で執行書が届けられて、幌馬車で裁判官と執行人と誰かが運ばれてきた」
人混みの肩越しに覗くと、ロペが森で見た仮面が置かれていた。黒いローブをまとった巡回裁判官が告げると、絞首刑台に顎の筋肉を締めて一点を見つめる青年がいた。
「奴はな」老人が呟いた。「デズの息子が惚れた女の男だそうだ」
「仮面は?」
「いつもの仮面だよ。たいてい処刑されるのは森の強盗だ。保安官は買収されている」
「保安官に化けてたわね」
古びた軍服のような三つボタンの制服を着たナマズ髭の小男だ。腰には保安官御用達の拳銃と手にはライフルがある。ロペは四つに折りたたんだ手配書を広げた。
「本人だな」老人が覗いた。
「乙女の手紙見ないでよ」
「わしが密告するかもしれんしな」
「似てるわ。コルク。ウラガタで農夫一家殺人で逃走中。賞金二ゴルベルね」
「やめとくんだな。帝国保安官までは話は通らん。テズの取り巻きに殺されるのがオチだ。この街では正義なんてものはドブに沈んどる」
「彼女は何も言えないわね」
「言えるもんかね。自分の命を捨ててまで愛というもんを信じ通せる奴などおらんだろう」
激しい音とともに絞首刑が執行された。どこかで悲鳴が聞こえ、わざとらしく倒れる女がいた。絞首刑はすぐには死なないから、しばらくバタバタと魚のように死刑台を叩く音が響いた後、やがて人々が三々五々死刑台から離れ始めた。やがて馬車が近づいてきて一人の洒落た服を着た不細工に肥えた男が降りて、馬車から着飾られた女を引きずるように降ろした。
「わしの店にでも入れ。珈琲とパンくらいは焼いてやる」
「朝ごはんがまだなのよね」
「あれがデズの息子だ。デブのデズだな」
隅の小さなテーブルで焼きたてのパンと珈琲を出してくれた。
「あれが花嫁さんね。わたしと同じくらい美人だわ。笑うところよ」
小さな窓から覗いていると、花嫁はデブデズに抱き締められた。誰にでも聞こえる乾いた音が響いた。
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