第5話 お酒はほどほどに
デズの街に着いたのは夕暮れも遅く、軽く露店で食料と酒を買い込んでホテルの一室に入った。バスタブに浸かったまま寝落ちしたが、まだ浅い夜にやたらうるさい音で目覚めた。特にすることもないので、髪を乾かしがてら窓に腰を掛けていると、慌ただしく馬が駆け抜けるのが見えた。
「夜くらい寝ろよ」
呟いて、蒸留酒のボトルに口をつけた。冷えたパンとベーコンを食べながら見ていると、今度は幌馬車が通り過ぎようとしていた。誰か乗っているのかと何とか覗こうとして落ちかけた。酔っ払って風呂に入った挙げ句、全裸で落ちて死んだバカ女になるところだった。荷袋から洗った服を出して着込んだ。二泊ほどする予定なので、バスタブで着ていたものを洗い、固く絞ってから洗濯紐に干した。洗濯や料理を教えてくれたのはシュミットだった。かれこれ十年ほどになるのか。まだロペが十歳になるかならないかの頃だろうか。風呂に入ること、歯を磨くこと、料理を作ること、洗濯をすることを教えられた。妙だ。確か魔法使いの弟子になったはずなのに、新しく開発した拳銃を持っている。そろそろ撃鉄にも寿命が来ているかもしれない。街のどこかに見てもらえる工房でもあるのか。朝になったらフロントで尋ねてみようと考えた。
シュミットが言うには、
「誰もが魔法を使えるようにした。でもいいことだとも思わない。ただおまえにも仇を打てるチャンスができるということだ」
翼を彫られた美しい拳銃をもらった日は何度も回転式のロックを外してカチカチと音を楽しんだ。弾はもらわなかった。初めて弾をもらったときは、いつだ。もう今の格好に近かったような気がする。
「何の翼に見える?」
「天使」
「そうか」
いつも早撃ちの練習をした。確か十五歳くらいのときだ。それまでは重さに四苦八苦していたし、惚れ惚れと眺めていたくらいだった。
撃たれる日を待っていた。
ロペは引金を引いた。ロペの中のもう一人が撃つなと命じたのに、もう一人の自分が引金を引いた。
ロペは目覚めた。
「また同じ夢だ」
人を殺して金を貰える。いつの間にか賞金稼ぎになっていた。戦争孤児である自分が生きていくためにはしようがないとも言えた。
「シュミット、話したいよ」
朝日が窓越と板壁の隙間から差し込んで、埃が舞うのが見えた。
「頭痛え」
蒸留酒のボトルがほとんど空になっていた。己の胃ではなくてバスタブに流したと思いたい。バスタブに流して二日酔いにはならない。
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