中編-④

「敵の決戦部隊、ですか?」


コーヒーを飲みながらメルメが素っ頓狂な声を上げる。バルバロッサ辺境伯が訪れるから失礼のないようにと、あれほどしつけたのは無駄だったようだ。


「そうだ。敵は追い詰められたように見せかけて、とあるグリッドに集結して大攻勢の準備を進めていたらしい。それが整う前に叩く」

「戦力ハどの程度でしょう?」

「正確には把握できてはいないが……新型の量産機を調達したようだ。全くあの武器商人め、見境のなさだけは立派だな」


メルメはすぐにロッカーからヘルメットを取り出し両手で抱えた。


「私たちにも出ろって事でしょう?」

「私の修理もすでに完了しています」

「残念だが、今回の君たちの任務は待機だ。ここにいてもらう」

「は、なんで?あんたのご期待通り、私たちが一番戦果を上げてるでしょう!?」

「……<月光>を失うわけにハいかない、というわけですか」


こほん、とバルバロッサ辺境伯が咳ばらいをする。


「そうだ」


メルメが私の端末を持ち上げる。


「どーいうこと?私たちが撃墜されたらみんなやる気なくなっちゃうし、もう戦力は十分整ったから私達はいらないよーだとか、そういうことが言いたいわけ?」

「辺境伯の話を要約すると、そういうことです」


辺境伯がもう一度大きな咳ばらいをして、私たちの注目を引く。


「もちろん勝機が見え次第、すぐに君らも戦場に出てもらう。早く戦争を終わらせたい気持ちも分かるが最近は出撃しすぎだ。実際この前の戦闘でも被弾していただろう」

「それはあんた達の報告のミスでしょう!?」

「被弾は被弾だ。それに戦場でのイレギュラーなど良くあることだ」

「メル。辺境伯に失礼の無いように」

「でも……」


なるほど。この前の戦闘はバルバロッサ辺境伯の仕組んだもので撤退した4機はいざというときの護衛だったというわけか。一杯食わされたな。


「この戦いが終われば戦争も一段落つく。君らにとっても母のもとに帰れるのは悪くない話なはずだ。然るべきときのためにしっかり英気を養うこと、これは命令だ」

「……りょーかい」

「エクストラ、メルメのことを頼むぞ」

「かしこまりました」


彼の言う通り、私としても願ったりな選択肢だ。でも私の用意したハーブティーを断った事だけはいただけない。辺境伯が来ると聞いて慌てて淹れたのに。


「安全に帰れることが決まったのです、まずは喜ビましょう、メル。辺境伯も私たちに気を遣ってくれたのです。好意は素直に受け取るのが大人のレディーというものですよ」

「それはまぁ、そうだけど……」


名残惜しそうに作戦概要の書かれた端末を触る。こういった所作もハルハに似てきている。<月光>の再来というのも、あながち間違いではなかったのかもしれない。


「ねーねー。敵の根城ってグリッド08-49-89にあるんだって。まさに八方塞がり四苦八苦って感じだね、ふふ」

「そうですね……って、おっと」


使命回路が突然起動し、今すぐそのエリアを調べろとまくしたてる。慌てて冷却材で回路を落ち着かせ、ネットワークに接続する。答えはあっけなく導き出せた。


「フレックス、どうかした?」

「メル、まずい。グリッド08-49-89ハ……」

「08-49-89は?」

「はルのいる第9コロニーのすぐ隣です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る