第2話
ガタン!
「痛っ。」
大きな揺れで私は目を覚ました。
真っ暗で何も見えない。
「す、すみれ。」
返事はない。
周囲の音から今車で運ばれていることはわかる。
私は小さな箱の中に入れられていて身動きが取れない。
ふと両親の顔が脳裏をよぎる。
私たちは売られた。
目頭が熱くなり、涙がこみあげてくる。
「我慢しなきゃ、私はお姉ちゃんなんだから。」
今は何よりもすみれが無事であることを祈るしかない。
ガタン!
また大きな音を立てて車が止まった。
気持ちの悪い浮遊感に見舞われた。そして今度は台車で運ばれているようだった。
外に出た一瞬、すみれの泣き声が聞こえた。
よかった、すみれは無事だ。
安心してまた泣きそうになる。
そんなことを考えていると少し箱が空いた。
「眩しっ、、、。」
いきなりスプレーのようなものを吹きかけられ、一気に眠気が私を襲った。
「オギャーーーーー!」
「はっ!」
すみれの泣き声で目を覚ます。
重くけだるい体を起こす。
そして私は絶望した。
目の前に広がるこの光景は地獄という言葉では足りない。
ひどい悪臭の中、すみれ以外にもたくさんの赤子の泣き声が聞こえてくる。
そして人間とは思えない、原形をとどめていない生き物たちの鳴き声も。
薄暗く、冷たい牢獄のようなこの場所は、人体実験の本拠地。
幼い私でもすぐに分かった。
すみれを抱き寄せ、端で縮こまった。
抱き寄せた手の震え、溢れる涙が止まらない。
「う、、ぐっ、、。」
少しづつ声にならない嗚咽が漏れる。
ガチャ。
全身が強張る。
コツコツ。
震えた手でそっとすみれの口を覆う。
ビクッ。肩に手が置かれた。
「賢い子は嫌いじゃないよ。」
「いや!」
抵抗する私の体を壁に打ちつけ、すみれを取り上げ去っていった。
「すみれ――――!」
叫んでも届かない。涙で視界が歪む。うまく呼吸ができない。
「す、すみ。う、、あぁ、、、。」
うまく声にならない。とにかく私は泣き叫んだ。
もう二度と会えないかもしれない。
どうしよう。焦りが止まらない。
ギエ――――――!!!
私の声に反応してさっきの生き物たちが鳴き出す。
薄暗い中でもわかる。
その生き物の手は不自然なまでに大きく首から生えている。
足は一本だけ、顔は歪んで原形をとどめてはいない。
「うっ、、おぇ、、。」
強烈な吐き気が私を襲った。
すみれもあんな風に、、、。
嫌のことばかり考えてしまう。
どうして。
昨日まであんなに幸せで、ごく普通の家庭だったのに。
神様、あなたは本当にいるんですか。
いるなら返事してよ。
すみれを助けてよ。
私たちの日常を返してよ。
小さく嗚咽がこぼれる。
大粒の涙で視界が歪んで、意識が遠のく。
力なく瞼を閉じた。
脳裏には温かい食卓を囲む家族との幸せな時間が浮かんだ。
次に目を開けたら、全部夢で、何もかも元通りになっているはず。
そんな淡い期待を抱きながら私の意識は途絶えた。
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