第3話 佐藤 竜胆(さとう りんどう)視点
眼を開けると白い天井が視界に広がる。
体を起こそうとすると全身に激痛が走った。
「ちっ、いってぇな。」
悪態をつきながら体を起こす。
いつの間にか床で寝てたらしい。
床に散らばった空き缶を蹴飛ばし時間を見る。
――14時—―
二日酔いのせいか頭も痛い。
机の上に置かれたパソコンに目を向ける。
真っ白の画面が映しだされ憂鬱な気分になる。
「はぁ。」
記者なんて名ばかりで、最近はずっと家に引きこもっている。
何もかもこの退屈な世界が悪いんだ。
リモコンを手に取りニュースをつける。
速報です。近年、違法な人体実験が行われていることが発覚しました。警察は今後も取り締まりを続けることを公表し、詳しい情報は...
「またこれかよ。」
最近のニュースは違法な人体実験で持ち切りだ。
どうやら、より正確な実験結果を求め、遂に人間に手を出したらしい。
マウス実験ですら批判が殺到している中、
人間に手を出すというクレイジーさは魅力的ではある。
主な手口として、金銭で幼児・児童を売買、または拉致し、人体実験を行っていることがわかっています。対策として...
リモコンの電源ボタンを押し、乱暴に床に投げた。
「売るくらいなら産むなよ。」
プルルルル――。
電話が鳴り、スマホの画面をみてため息をつく。
「、、、はい。」
「やっと出た!今何時だと思ってんですか?」
「、、、。」
「何時になっても出勤しないからてっきり死んでるのかと思いましたよ。」
「、、、。」
「別に書けてなくても来てくださいよ。先輩いないと僕何もできません!」
「いや、俺がいなくても働け。」
「とにかく来てくださいよ!!いいニュースがあるかもですし!では失礼します!」
プツッ。
一方的に切られた。
だるい体を引きずりながら洗面台に向かう。
鏡に映ったのは三十代とは思えないほど薄汚れた男だった。
とりあえず顔を洗い、髭を剃る。
部屋の隅に丸めてあった上着を手に取り家を出る。
「さみー。」
もう秋も終わり、そろそろ冬が来る。
重い体を引きずりながら、生意気な後輩のもとへ向かった。
「あ!!先輩やっと来ましたね!!」
「、、、あぁ。」
「見てください、これ!!先輩が好きなやつですよ!!」
「はぁ?」
催促されるようにスマホの画面を向けられた。
そこに映っていたのは12歳くらいの少女だと思う。
フードを深くまでかぶっているが骨格などからして少女だと思った。
「今からこの世界を爆発します。」
少女と目が合った気がした。
背筋に悪寒が走る。
動画はたった数秒しかなく、セリフもこれだけだった。
だがフードから覗く真っ黒な瞳には禍々しいなにかが込められていた。
それは並々ならぬ復讐心のような、深い悲しみのようなもの。
「ね!先輩好きなやつでしょ!!」
なぜこんなに得意げなのかというと、俺が前に追っていた事件に似ているからだ。
15歳の少年による国会議事堂爆破テロ。
事件は未遂で幕を閉じたが、真相は闇に葬られたままだ。
この事件を俺はかれこれ五年は追っていた。
子供は何をしでかすかわからない。
その予測不能な動きこそに惹かれたが、別に子供が好きなわけではない。
ただ、今回の少女の瞳に俺の心は確かに奪われていた。
横で得意げにニヤニヤしているコイツは気に入らないが、
今のところ仕事のない俺にとっては確かにいいニュースだった。
しかし、
「あまりにも情報が少なすぎる。」
世界を爆破するなんてあまりにも規模がでかいしいかれてる。
しかしなぜかこの動画の再生数は恐ろしいほどに多い。
普通ならいたずらだと思うほうが妥当だが、俺にはどうもあの瞳が引っかかる。
12歳ほどの少女から感じていい雰囲気ではないことは確かだ。
あれは普通じゃない。
いったい何があの少女をそうさせたのだろうか。
考えを巡らせ、頭を働かせる。
「そういうと思ってましたよ!!僕仕事できちゃうんで!!」
ドヤ顔でこっちを見てくる。
それと同時にスマホの通知が鳴る。
送られてきたのは動画のURLと興味本位で作られた解説サイトだった。
タップしコメ欄を開く。
アンチが8割、1割は宗教染みた団体。
残りの1割は俺のようにこの少女から何かを感じた奴らだった。
解説サイトのほうを見てみる。
「こんにちはー!今回はこの動画について解説していくよー!」
ウサギのお面をしていて年齢は不詳。
機会音声のような声は一応女性のようだが、がたい良い体つきは男のように見える。
「この子は四葉ちゃん!年齢は12歳くらいかな?特定班のみんなが頑張ってくれたけどつかめた情報はこれだけ、、、。」
「あとはこの子が7歳の時に行方不明届が出されていて、その翌年にご両親は他界してるみたいだね、、、。悲しいなぁ、、、。」
「でもでも、ビックニュース!!この五年間この子はどこにいたのか!!
どうやら今話題の人体実験が関与してるらしい!!
さて、具体的なことはまた次回!!チャンネル登録よろしく!!」
ふざけた動画はここで終わっている。
だがなかなか有益な情報ではあった。
「先輩、さっきまで死にそうな顔してたくせに、何ですかその顔!!」
そういわれて気づく。
いつの間にか俺の口角は上がっていた。
久しぶりにわくわくしている。
いいのが書けそうだ。
「僕に感謝してくださいね!!ラーメンでいいですよ!!」
生意気な後輩だが、今回ばかりは感謝している。
「書き終わったらな。」
心臓が鳴りやまない。
俺はいつの間にかこの少女の虜になっていた。
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実験 lana @la_na
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