第19話
"また泥まみれで転んでるな。泳ぎたければ海かプールに行けばいいだろう?どうしてわざわざ沼にはまってもがくんだ?それが楽しいのか?汚水が美味しいのか?全然理解できないな。”
『こいつ、ふざけてるのか。』
困難の中で友情が芽生えると言うが、1年Bクラスの学生たちは皆一斉にジェヒョクを睨みつけた。
先週より2時間延長された地形適応訓練のせいで悲鳴を上げたい状況の中、あえて煽ってくる彼の態度に怒り心頭だった。
「よーし、素晴らしい。見事だ。腰をそんな風に使うから、すぐに転ぶんだな。集団で反面教師の資格でも取るつもりか?」
「あー!いい加減にしろ!お前が背中を踏みつけて行くから腰が伸びないんだろうが!くそったれ!俺たちがこんな風にしてるのは好きでやってるわけじゃない!」
我慢の限界に達したイ・ジンソンが声を荒げた。だが、その代償は悲惨だった。激しく動いたせいで、なんとか保っていた体のバランスが崩れ、前に倒れ込んでしまったのだ。
瞬く間に沼に沈み、尻だけが突き出るジンソン。その尻に乗ったジェヒョクが心底感心したように言った。
「こいつのファーストスキルは[椅子生成]か?」
「うぐっ!ぷわぁぁぁ!」
軽薄な態度ながらも、ジェヒョクの姿には妙な絵になる魅力があった。ジンソンの尻を椅子代わりにして座ったジェヒョクは、泥と汚物にまみれた地獄絵図の中でただ一人輝いて見えた。そのまま写真に収めて雑誌の表紙を飾ってもおかしくないほどだった。
「顔がまともだから余計にムカつく。」
「なんで神様はあんな奴にあんな顔を…。」
「もう我慢できない!覚悟しろ、カン・ジェヒョク!お前も一度ぐらいは耳から汚水が出る体験をしてみるべきだろう!」
騒ぎは最高潮に達した。
他の生徒たちは泥と汚物にまみれているというのに、ジェヒョクだけは清潔なままだ。その姿にイライラが限界を迎えた学生たちは発狂寸前だった。
ジェヒョクを一度でも沼に突き落とすために、彼らは一致団結して協力することを厭わなかった。
「…」
キム・ジンミョンは、ただ生徒たちを見守るだけだった。
ここ1週間、Bクラスの生徒たちが自主的に達成した成果は素晴らしいものだったため、軽々しく介入する気にはなれなかった。
キム・ジンミョンが教師生活を送る中で、これほどまでに急速に成長する生徒たちは断言するが初めてだった。
見よ、沼地で見事に協力し合う彼らの姿を。まるで、近いうちに沼でサッカーでも始めそうな勢いだ...いや、転ぶ様子を見る限り、それは言い過ぎか。
とにかく、この驚くべき成長の中心にはカン・ジェヒョクがいた。
彼が沼地に適応したスピードは、何度思い返しても驚異的だった。
訓練中、足場になってくれた同級生たちの崇高な(?)犠牲のおかげでもあるだろうが…
『たった2日目で沼の特性を理解し、抵抗を減らすように動きを調整していった。』
まさに生きた教科書と言えるだろう。
他の生徒たちは、リアルタイムでジェヒョクの影響を受けている最中だった。
ジェヒョクが執拗に嫌がらせをし、煽り続けたため、自然と彼の動きを観察し、真似しようと努力しているのだ。
ただし、魔力の運用能力だけは真似できず、結果的に差が開いている状況だったが。
『頭が良く、自分の体を完全に扱う術を知り、魔力運用能力は上級プレイヤー並みだ。』
挑んでくるほど喜んでいるジェヒョク。
そんな彼を黙って見つめるキム・ジンミョンの表情は、次第に暗くなっていった。
何度考え直しても、ジェヒョクの魔力測定結果には残念な気持ちが残る。
『天はなぜ、このような天才にこんなクソみたいなスキルを与えたのだろうか。』
その性格の悪さだけで満足してほしかったものを…
「...さて、さて。みんな落ち着いて集合しなさい。」
時間を確認したキム・ジンミョンが生徒たちを集合させた。
生徒の半数以上が失神しており、辛うじて正気を保っている生徒たちも這うようにしてようやくジンミョンの前に立った。
唯一、ジェヒョクだけは息一つ乱さず平然としていたが、それを不思議に思う者は誰一人いなかった。
「明日、沼地にモンスターを放つ。」
「じ、じじじ、じつですか?」
「まだ沼地でまともに走ることもできないのに、もうモンスターを...」
進度が早すぎるのでは?
怯えた生徒たちが泣きそうな顔をすると、キム・ジンミョンが彼らを安心させるように口を開いた。
「...沼地で走り回る方がおかしいんだ。とにかく、Cクラスと合同訓練を行うから危険なことはない。万が一の事態が発生しても、教師が安全を保証するから心配するな。」
「は、はい...」
まったく安心していない生徒たちとは対照的に、ジェヒョクは最初から目をキラキラと輝かせていた。お尻に尻尾が揺れる幻が見えるほど、興奮している様子が丸わかりだった。
思わず笑みがこぼれたキム・ジンミョンは、生徒たちを解散させた。
* * *
- 今回の合同訓練でカン・ジェヒョクを挑発しろ。
- それが答えですか? その行動一つで20学点を稼げるというのですか?
- そうだ。卒業後すぐに協会攻略チーム3にデビューする君に、私が嘘をつくはずがないだろう? 馬鹿げたことに巻き込まれるのは不本意だろうが、今回だけは私を信じて従ってほしい。上層部の方々も君の協力を忘れないはずだ。
1年Cクラスのパク・シウ。
赤色評価を受けた有望株だ。
教師や生徒たちからも非常に好意的に扱われている。
だが、パク・シウが本当に必要としているのは、単なる好意ではなく実利、すなわち物理的な報酬だった。
例えば学点。
学点は多く持てば持つほど価値がある。霊薬やアイテムに交換できる貴重な通貨だったからだ。
『カン・ジェヒョク... 噂通り協会出身の教師たちの目に留まっていないようだな。』
協会長を半身不随にして国外に逃げたカン・デソンの弟。
協会出身の教師たちがカン・ジェヒョクを嫌うのは当然のことだった。
もし自分がカン・ジェヒョクを挑発したなら、間違いなく彼には悪いことが起こる可能性が高い。
だが、それがどうした?
『他人がどうなろうと、俺の知ったことじゃない。俺には俺の人生がある。』
パク・シウの年齢は28歳だ。
最上級のファーストスキルを獲得して覚醒した割には若い方だった。
覚醒したばかりのためレベルは低いものの、運と才能においてはAクラスの生徒たちと比較しても遜色ない。
そのため自然と野望を抱いていた。
協会のエースとなり、年収数百億ウォンを稼ぎ、一生裕福に暮らす夢。
その夢を実現するためには、卒業前にできるだけ強くなる必要があった。
たとえ若い少年を踏みつけることになったとしても。
「今日の訓練、よろしくお願いします。」
「ハハ、そうですね。」
湿地帯にBクラスとCクラスの生徒たちが集まった。
まずキム・ジンミョンとCクラス担任が挨拶を交わしたが、表面的には和やかだったものの、Cクラス担任の態度は傲慢だった。キム・ジンミョンが丁寧に挨拶する一方で、彼は軽く頭を動かすだけだった。
『うちの担任より若いくせに、態度が悪いな。』
『協会出身だからだろ。協会出身の教師たちは人脈で団結してギルド出身の教師たちをいじめてるって話だ。』
『生徒の前でこの態度なら、教師同士の場ではもっとひどいんだろうな。』
『...でもこれが態度悪いっていうのか? カン・ジェヒョクと比べたら天使じゃないか?』
『あいつと比べたら誰だって天使だよ。』
腕は内側に曲がるものだと言わんばかりに、Bクラスの生徒たちはCクラス担任を横目でちらちらと睨んだ。
一方で、ジェヒョクはキム・ジンミョンをじっと睨んでいた。
『まったく、キム・ジンミョン。普段の行いが悪いからこんな扱いを受けるんだよ。チッチッ。』
『...』
生徒たちがCクラス担任から視線を外し、ジェヒョクを睨み始めた頃だった。
「君たちも知っての通り、この湿地帯は訓練用に作られたものだ。本物の湿地帯は黒い森の奥に広がっている。まもなく教官たちが森に入り、モンスターをおびき寄せてくる予定だ。」
キム・ジンミョンが訓練内容を説明した。
「皆、よく覚えておけ。今回の訓練の目的はモンスターを狩ることではなく、‘モンスターが活動する湿地’に適応し、無事に突破する方法を体得することにある。危険を冒してモンスターと戦う必要はない。ただひたすら湿地から脱出することに集中しろ。」
「はい!」
『雰囲気からしてモンスターをせいぜい6体くらい放つ程度だな。』
ジェヒョクは眉をひそめた。
彼はすでに湿地帯という地形に完璧に適応していた。
モンスターが本格的に妨害してこない限り、湿地で泳ぎ、肉を焼いて食べ、さらには寝ることすらできる。
つまり、さらなる進度が必要だという意味だ。
大量のモンスターがうようよ跳ね回る湿地を体験してみたかった。
しかし、訓練の雰囲気からして穏やかな授業になりそうで大いに失望していた。
『...まあ、覚醒者の半数以上が一生1レベルに留まるって言うし、安全第一になるのも仕方ないか。』
覚醒してプレイヤーになること自体は簡単だ。
しかし、レベルを上げるのは難しい。
ゲートは危険な場所であり、モンスターは強力だからだ。
生涯ゲートに一度も近づかない覚醒者が山ほどいる。
勇気を出してゲートに挑戦した結果、不具になったり命を落としたりする覚醒者も少なくなかった。
世界各国がプレイヤー養成機関を運営しているのも当然のことだった。
「来るぞ!」
張り詰めた学生たちが一斉に叫んだ。
森から飛び出してきた教官たちを、3体のモンスターが追いかけていた。
湿地ヒル。
湿地帯で最もよく見られるE級モンスターだった。
「うわ、気持ち悪い。」
「あれ、一度体にくっつかれたらミイラになるまで血を吸い続けるんだって。」
顔が真っ青になっている学生たちの中で、
「三体?」
ジェヒョクが舌打ちした。
「いや、モンスターたったの三体放して何をするつもりだ?湿地が物足りなくて泣き出すぞ。」
「随分と自信満々だな。湿地ヒルはE級モンスターの中でも特に速い方だ。今は地面を這っているから本来の速度を出せていないが、湿地では次元が違う速さになる。侮ったら痛い目を見るぞ。」
ジェヒョクを注意深く観察していたパク・シウが皮肉っぽく言った。
ちょうどその時、現場に到着したヒルたちが湿地に入った。
学生たちがざわついた。
湿地に入るや否や目に見えないほどの速度で動き、姿を消したヒルたちの様子に驚愕したのだ。
「どうだ?速いだろう?」
パク・シウは短時間でジェヒョクの性格を見抜いていた。
忍耐力がなく、礼儀も知らない。少しでも刺激すれば目を光らせて飛びかかってくるタイプだ。
自分の役割がなぜジェヒョクを挑発することなのか、明確に理解した。
パク・シウはジェヒョクがすぐに湿地へ飛び込むだろうと考えていた。
Cクラスの担任も同じ考えだった。
彼はジェヒョクが事前の知識もなく突っ込み、恥をかいた挙句、パク・シウに八つ当たりする展開を期待していた。
『その瞬間に即座に罰点を与える。』
入学して2週目で罰点30点を受ける?
退学を提案するのに十分な理由だった。
Cクラスの担任の口元には濃い笑みが浮かんだ。
その瞬間だった。
「緊張してるのか?さっきからヒルが速いだのなんだの言ってばかりだな。」
ジェヒョクは予想外の行動に出た。逆にパク・シウを挑発したのだ。
「怖くなって昨夜必死に勉強したみたいだが、それで挑戦できると思ってるのか?」
そして、赤い評価を受けた有望株らしく、パク・シウは非常にプライドが高かった。
「...E級モンスターごときに怯えるわけがない。俺が先に行ってやるから、しっかり見て学べ。」
『挑発しろって言ったのに、逆に挑発されてどうするんだ。』
最初から計画が狂い始めたことで、Cクラスの担任は嫌な予感に襲われた。
一方、黒い森の内部。
『…や、ヤバい。終わった。』
凶暴に暴れ回るモンスターを倒しながら湿地を進んでいたAクラスの数名の学生たちは、真っ青になっていた。
地図を誤って見てしまい、【湿地ヒルの王】のエリアに足を踏み入れたことに、後になって気づいたのだ。
キャオオオオオオ!!
気づいたときにはもう遅かった。
王の咆哮とともに、数百匹のヒルがあふれ出した。湿地の気配を追い、大規模な移動を開始した。
ここで最大の問題は…。
ニョロニョロッ!
ヒルの群れの一部が森の外、別の湿地の気配を察知したという点だった。
その場所こそ、BクラスとCクラスが合同訓練を進行中の場所だった。
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