第17話
「どうしてそんなことができるの……?」
寮への帰り道。
チェ・ダヒは未だに呆然としていた。
「ロレン……。」
彼はなんと、バオス家の血継スキルを開花させた人物だった。
等級分類が無意味とされる【国宝候補】――。
レベルさえ上げれば自然と一国の国宝となるような存在。
断言できる。現役で活動している上級プレイヤーたちですら、ロレンと対峙することを恐れるだろう。
しかしジェヒョクは堂々と立ち向かった。
バオス家の血継スキルがいかに偉大か知らなかったのだろうか?
「まさか……。」
ジェヒョクもまた、偉大なる存在の息子だ。
その場に集まっていた数十人の生徒たちの中で、ジェヒョクこそがロレンの力の価値を最もよく理解していたはずだ。
それなのに、ドジンを守るために一人で立ち向かった。
最後には数十人の生徒たちに囲まれたにもかかわらず、まるでそれが当然であるかのように揺るぎなく立ち続けた。
恐れを知らないから?
そんなはずはない。
間近で見たジェヒョクの体は、かすかに震えていた。
「もしかして……あなたはすでに……。」
あなたの父に似てきているのですか?
決して届かない問いを胸の中で投げかけながら、ダヒの澄んだ瞳に決意が宿った。
* * *
「いや、本当に想像を超えるやつだな……」
結論から言えば。
今日一日でジェヒョクは医務室に九回も足を運んだ。
皮膚が裂け、筋肉がねじれ、骨が折れても何の躊躇もなく「瞬歩」を使い続けたトジンのせいだった。
治療を受けなければ体に障害が残ると判断した回数が九回もあり、ジェヒョクはトジンを背負って医務室を行ったり来たりするほかなかった。
『無茶苦茶にもほどがある。』
戦っている最中に手足がちぎれても、動揺することなく目の前の敵を倒すことだけに集中するやつだ。
一撃を食らうたびに気が逆立ち、瞬歩を使って突っ込む姿は、まるで怒り狂った暴れ馬だった。
『スキルが持ち主を間違いなく選んだな。』
スキルはただ手に入れるだけでは意味がない。
その使い方を完全に習得し、活用できるかどうかで真の価値が決まる。
特に「ファーストスキル」のような交換不可能なスキルは、より一層徹底して磨き上げる必要があった。
その点で、「瞬歩」のようにリスクが高いスキルは、両刃の剣と見なされる。
普通の人間なら、負傷を恐れて熟練度を上げることが難しいからだ。
だが、トジンは異常なやつだった。だからこそ、瞬歩を使うことに一切の躊躇がなかった。
『こいつは強くなるしかない運命だな。』
ジェヒョクがトジンを仲間に引き入れた理由は、純粋に「気質」に惹かれたからだった。
目標を達成するまで決して消えない気迫。
自分より強い相手と戦うときでも、ただ最善を尽くすために策を講じる執念深さと賢さ。
間違いなく強くなるだろうと確信できる人物だった。
だが、驚くべきことに、トジンのファーストスキルは最高ランクだった。
しかも、トジンの気質と完璧にマッチするスキルだ。
ジェヒョクは、自分が作るチームが予想以上に強力なものになるだろうと直感した。
何よりもポジティブな点は…。
『トジンとの対戦が、自分にとっても大きな助けになることだ。』
決して怯むことなく、常に突破口を探り、奇想天外な動きを見せるトジン。
彼は実戦経験の少ないジェヒョクにとって、理想的な対戦相手だった。
何度も裏をかかれるたびに、彼との戦いが骨身に染みる実戦経験として積み重なっていく感覚があった。
『あとは最後の一枠に誰を入れるかだな…。』
トジンとチェ・ダヒを説得したことで、残り一人を補充すればチームを結成できる。
ダヒは依然として黙り込んでいたが、さっき助けたことで事実上は了承しているようなものだろう。
しかし、最後の一枠に入れるべき人材が思い浮かばなかった。
本来なら、一人くらい適当に埋めても問題なかっただろうが、シンラ家に続きバオス家の血筋まで学校に入学してきた今、そんな安易な判断はできなかった。
『血継スキル…。』
血継スキルの素晴らしさは、「家系で代々使われてきたスキルが、そのまま子孫に継承される」という点にある。
時間の経過とともに、多くの人々の手を経て、より良い使い方が研究され進化してきたスキル。
事実上、人間以上に長い年月を経て生き続け、進化を遂げたスキルだ。
強家の血継スキルも例外ではない。
もしジェヒョクが、血継スキルを素直にスロットに装着し、覚醒していたとしたら。
彼は父親の戦闘データを基に、レベル1から圧倒的な実力を発揮していたに違いない。
『そして堂々と国宝候補と呼ばれていただろう。』
まず、自宅を取り囲むデモ隊が慌てて撤退する光景が目に浮かぶ。
国全体がジェヒョクを「韓国の新たな未来」として崇めるようになり、もはや強家を圧迫することはできなくなるはずだ。
その事実を十分に理解していながらも、ジェヒョクは血継スキルを拒否した。
強家の血継スキルと相性が悪いから?
そんなことはあり得ない。
「おい、ブタ野郎が来たのか?」
トジンが気絶するまで模擬戦を続けてもなお余る体力。
ローレンとの戦いが実現しなかった悔しさが残る未練。
その未練を振り払うために、再び獅子の彫像の前で懸命に剣を振るっていたジェヒョクは、やってきた訪問者に気づき、顔を上げた。
獅子の彫像前に立つジェヒョクに向かって足音が近づいてくる。
「やあ、まだこんな時間に練習かよ?お前も大概しつこいな。」
声の主は予想外の人物だった。
「…ダヒ?なんでこんなところに?」
「その呼び方、やめてよ!ちゃんと『チェ・ダヒ様』って呼びなさい。」
ジェヒョクの呼び捨てに、ダヒが軽く頬を膨らませる。
「冗談だ。で、何の用だ?まさか俺を止めに来たわけじゃないよな?」
「そ、それもあるけど…。」
ダヒの声が少し震えている。
彼女がこうしてジェヒョクを探しに来るのには理由があった。
「危ないって聞いたから…。その、あなたがローレンと本当に戦うんじゃないかって噂になってるの。」
ジェヒョクは剣を振る手を止め、ダヒの方に振り返った。
「噂か…。誰がそんなこと言い出したんだ?」
「それは…、多分トジンが何か吹き込んだんじゃない?」
「そいつは面倒な話だな。でも安心しろ、今すぐ戦うつもりはない。」
「ほ、本当に?」
「まあな。」
ジェヒョクの目が静かにダヒを見つめた。
彼女はその視線に押されるように一歩後ずさったが、すぐに気を取り直した。
「それならいいけど…。ただ、ローレンと戦うときは、一人で突っ走らないで。私たちも協力するから。」
「協力か…。お前、少しはまともな戦力になれるのか?」
「ど、どういう意味よ!私は学年の次席なのよ!」
「次席か。ならせいぜい俺の足を引っ張らないようにな。」
「この…!」
ジェヒョクの軽口に腹を立てるダヒだったが、彼の冷静な眼差しに含まれる僅かな温かさを見て、言葉を飲み込んだ。
「…でも、あんたは強い。認めざるを得ないわ。」
「それはどうも。お前も少しは役に立つよう努力してくれ。」
ジェヒョクは淡々とした口調で言いながら、再び剣を構え直した。
「さて、練習の続きをするか。お前も見て学ぶんだな。」
ダヒはため息をつきながら、その場に腰を下ろした。
「仕方ないわね。じゃあ、少しだけ見ててあげる。」
夜風が二人の間を静かに吹き抜ける中、ジェヒョクの剣の動きが再び鋭さを増していった。
「グルルル……」
それはオークの群れだった。
もう何日目になるだろうか。毎晩のように出会う奴ら。
ジェヒョクは最近、一つの面白い事実に気付いていた。
初日は一匹、二日目は二匹、三日目は三匹……。
夜ごとに部下を引き連れて現れるオーク戦士が、初日に出会った奴と「同じ個体」だということだった。
奴の体に刻まれた傷跡から、三日目に気付いた。
「俺が殺さずに生かして帰すから、新しい奴に入れ替わらないのか。でもここまでくると縁ってもんじゃないか?」
「グゥウェエエェエッ!!」
モンスターと会話が通じるわけもなく、オーク戦士はジェヒョクの親しげな挨拶に咆哮で返した。
咆哮と共に何かの指令が下されたのか、五匹のオークが石斧を振りかざし、一斉に突進してくる。
「獣でも恩を知るってのに、お前らはなぜ知らないんだ?」
舌打ちをしながらジェヒョクは鞘を一閃した。
すると、一匹のオークが額を割られ、血をダラダラ流しながら地面に倒れ込む。
「……あれ?」
だ、駄目じゃん?
「おい!気をしっかり持て!死んじゃダメだって!」
いや、またステータスが上がったのか?
頭を割られたオークの出血量が尋常じゃない。
慌てたジェヒョクは、自分の服をビリビリと裂き、オークの頭にぐるぐると巻き付けた。
「死ぬな!生きるんだ!家族を思い出せ!お前にも豚みたいな奥さんと子供たちがいるだろう!」
「クゥ、クゥェエッ……」
え、あれ?止血がうまくいってないぞ。
バサッ。
ジェヒョクは上着を脱ぎ、それをオークの頭全体に巻き付け、しっかりと締めた。窒息しないように鼻の付近には息が通る穴も作っておいた。
「…一山越えたか?はぁ、くそ。まさかオークのために応急処置を覚える羽目になるとはな。」
冷や汗を拭きながら安堵のため息をついたジェヒョクは、オークの群れと目が合った。
「…」
グルルル…。
オークたちは依然として怒りを露わにしながらジェヒョクに斧を振りかざそうとしていたが、オーク戦士が手を伸ばしてそれを制止した。
『もしかして知能があるのか?』
それで部下の治療を待っていたのか?
優れたモンスターは特に知恵があると授業中に聞いたことはあるが…たかがオーク戦士ではないのか?
首を傾げるジェヒョクは、なんとなく納得した。
『Dランクモンスターでも学習能力くらいはあるだろうな。』
オーク戦士は何日も連続してジェヒョクに挑み、叩きのめされては気絶するのを繰り返してきた。
しかし、それでも毎回生き延びた理由を理解できなかったようだが、今さっきジェヒョクがオークを治療してやる姿を見て、ついにその理由を悟ったようだった。
「グェッ!グワルル!」
ミイラ状態になったオークとジェヒョクを交互に見ながら何か叫ぶオーク戦士。
ジェヒョクの耳には豚が喉を掻き切られたような声にしか聞こえなかったが、少なくとも敵意がないことは感じ取れた。
「グワル、グワル。」
斧を下ろしたオークたちは負傷した仲間を抱えて茂みの向こうへと消えていった。
仲間意識が強いモンスターとして有名な理由があった。
「グルル…」
腕を組んだままジェヒョクをじっと見つめていたオーク戦士が、顎を軽く動かして合図を送るとその場を去って行った。
「なんだあの生意気な態度は…」
感謝の意を表して頭を下げても足りないくらいなのに、剣を軽く振る仕草だけして行くだと?
腹が立って石でも投げつけようかと思ったジェヒョクだったが、すぐに頭を振って気を落ち着けた。
『豚相手に怒ったって損なだけだな。』
どうせ殺しもしない立場なのだから、余計な波風を立てる必要もない。
「シュパァーン!」
心を静めたジェヒョクは再び修練に取り掛かった。
オークたちが素直に退いてくれたおかげで、平穏に集中することができた。
---
[<獅子の城>の意思が、あなたとオークの関係を見て戸惑っています。]
[隠された報酬としてステータス補正を獲得します。]
---
城門上の獅子は今日もジェヒョクを興味深そうに観察している。
そして…。
「シュッ。」
ジェヒョクが獅子に向かって首を回した。
苔むした獅子の両目を真っ直ぐに見据えた。
偶然に起きたことではない。
ジェヒョクは確実に気配を感じ、その根源まで把握していた。
ステータス画面を見ることはできないが、獅子の城に入学して以来ほぼ毎日上昇してきたステータスのおかげだった。
今まさに一定のレベルに到達した「洞察」ステータスが、彼の感覚を鋭敏にしていたのだ。
「…お前は何なんだ?」
...
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