第16話

「口を慎め。今日の言葉を、いつか一生後悔することになるかもしれないぞ。」




これはあくまで未来を見据えた警告だった。




いつか自分が覚醒したら、どうなるかなんて誰にも分からないことだ。




『今のところは一方的にやられるだろうけどな。』




ネクロマンサーは、戦場と化したヨーロッパでもトップクラスの存在だ。




まさに一人で軍隊にも匹敵する存在であり、バオス家の家長は単独でS級ゲートを攻略し、同ランクのプレイヤーたちと互角に渡り合うと聞いた。




ロレンが血系スキルを修めた以上、力の差は明白だ。覚醒すらしていないジェヒョクは、対抗するどころか名刺を差し出すことすらできない。




それでも、ジェヒョクは緊張するどころか血が沸き立つような興奮に酔いしれていた。




『自分のステータスを正確に測る絶好の機会だ。』




そうだ。




ジェヒョクは自分のステータスがとても気になって仕方がなかった。




非覚醒者のステータス画面には情報がロックされているため、ステータスが知りたければ体を使ってあれこれ実験するしかない。




しかし、屋敷に侵入してきた夜盗や普通の学生たちは、ジェヒョクの限界を試す相手としては不適格だった。




一方でロレンは、ジェヒョクの実力を測るには申し分ない相手だ。




スッ。




知らず知らずのうちに微笑んだジェヒョクは、コートの内側に手を入れた。




カチャッ、カチャッ、カチャッ…




体に巻き付けた鉛の塊が、音を立てながら動き出した。そして、結び目が緩んで自由になる。




事情を知らないロレンが眉をひそめた。




『何をしているんだ…?あの音は何だ?』




その直前のこと。




骨の盾で受け止めた居合術の威力は、それほど大したものではなかった。




ロレンの目から見れば、ジェヒョクは決して卓越した存在ではなかった。覚醒して間もなく、レベルも低いようだった。




何より、血系スキルを開花させてもいなかった。




いくらカン家の威勢が失墜したといっても、名門中の名門だ。それでもジェヒョクには家門を再興する力量自体がまるで備わっていなかった。




それなのに「後悔することになる」という生意気な脅迫を投げかけ、怪しげな行動を見せるものだから、ロレンも内心警戒を強めていた。




『単なる虚勢ではないだろうな。』




名門の底力を侮るべきではなかった。




ロレンもまた名門の血筋であるため、逆にジェヒョクを高く評価した。




『とはいえ、相手はヤチャの息子だ。隠している切り札があるに違いない。』




ヨーロッパにまで伝わっていたヤチャの活躍を思い出しながら、ロレンは思案に暮れた。




『「棺」を取り出すべきか?』




いや、これは生死をかけた決闘ではない。




『平和な国で興奮しすぎたようだ。まずは探索戦から始めるべきだな。』




場違いに高揚しているジェヒョクと、緊張感を漂わせるロレンが互いに剣を向け合ったその瞬間だった。




「なんで他人のことに首を突っ込むんだよ! ロレン様が友人を作るのに、お前に邪魔する権利なんてあるのか?」




数十人の学生たちがロレンのそばに集まり、護衛するように立ちはだかった。




全国から選りすぐりの人材がサジャの城に入学する理由。




高度で安全な教育環境を求めているのも一因だが、何より人脈を築くためだった。




社会に出たときに必ず役立つ人脈。




ヨーロッパ屈指の名門、バオス家の若君の好意を得るチャンスを狙う学生は少なくなかった。




「遥か遠い韓国まで学びに来た貴人を助けようともせず、邪魔をするつもりか? カン・ジェヒョク、お前ごときが何様だ?」




「全くだ、あれは滑稽なやつだな。まさかバオス家に対抗するつもりか?」




「没落貴族の嫉妬だろう。卑劣なやつだ。」




訓練場にいた学生の半数近くがロレンの味方についた。




こうした状況に慣れているロレンは、これ見よがしに顎を突き上げた。




ジェヒョクに、無駄なプライドを捨てて引き下がれという合図を送るのだ。




ところがジェヒョクは平然としていた。




彼にとってもこのような状況は慣れっこだった。




納得できる理由もなく多くの人々に非難されることなど、毎日のように経験しているのだ。何とも思わなかった。




『…それでも勝算があるほど強いということなのか?』




数十人の学生に囲まれても動揺しないジェヒョクの態度に、ロレンの誤解がさらに深まったそのとき。




「ちょ、ちょっと待ってください!」




ジェヒョクのそばに立つ学生が現れた。




数十人の支持を得たロレンとは対照的に、ジェヒョクのそばに立ったのはたった一人の少女だけだった。




訓練場の隅でしゃがみ込んで状況を見守っていた1年生の次席、チェ・ダヒである。




「やめてください! みんな、もう少し冷静になりましょう! 集団で争ったら事態が大ごとになったらどうするつもりですか?」




「いや、あいつがペク・ドジンを渡さないって言ってるじゃないか。」




「私がドジンを連れて行くのに、君の許可を求める必要はない。」




「ほらな。全然話が通じないやつなんだよ。」




「分かりましたから、とにかく静かにしてください!」と、ダヒはジェヒョクに目配せをし、次にロレンに向き直って諭した。




「えっと、ロレンさん... 状況を考えると、ドジン先輩をそちらに渡すわけにはいきません。私はドジン先輩があなたを嫌っているのを目の当たりにしましたし、何よりあなたはドジン先輩をボロボロにしたじゃないですか。どうしてあなたにドジン先輩を任せられるって言うんですか?」




「...私はドジンを攻撃していない。」




「え?」




よく考えると確かにそうだった。




思わず沈黙したダヒの様子を見て、ロレンを支持する学生たちは勢いづいて騒ぎ立てた。




「そ、そうだ! あのチビが勝手に暴れて怪我をしただけだろう! ロレン様はむしろ被害者だ! チェ・ダヒ、お前が何様のつもりでロレン様にあれこれ言ってるんだよ!」




「私はドジンとは兄弟同然の親友だ。当面は誤解があるせいでドジンが私を遠ざけようとしているが、誤解というものはいずれ解けるものだ。」




母国語ではないため、言いたいことを伝えるのにどこかぎこちなさがある。




そのため、一つ一つの単語を慎重に選びながら発音していたロレンだったが、突然言葉を止めた。




ジェヒョクとダヒのそばに並ぶ学生たちの数が急激に増え始めたからだ。




ドジンを止めようと最初に行動を起こした2年生たちだった。




ロレンを支持する学生たちは全員1年生であったため、状況の流れが逆転した。




「ロレンさん、ドジンの反応を見る限り、あなたの話を全面的に信じるのは難しいです。今日はここで退かれてはいかがでしょうか。この場でさらに騒ぎが大きくなれば、きっと教師たちが駆けつけてくるでしょう。その場合、あなたがドジンと向き合う機会はますます減ることになりますよ。」




「...」




ロレンの金色の瞳がさらに冷たさを増した。学生たちは自分の体に鳥肌が立つ理由を理解できなかったが、ジェヒョクは大いに驚いていた。




すれ違うように放たれた殺気を正確に捉えたのだ。




同年代の少年がこれほどの殺意を放つには、これまでに多くの人を殺した経験があるということだろう。これには衝撃を隠せなかった。




ヨーロッパが様々な国家が交錯する激戦地だからだろうか。




オーストリア最高の名家の令息は、実戦経験も豊富なようだ。




『...だいぶ落ち着いたみたいだし、そろそろ終わらせるか。』




そっと鉛の重りを再び身に付けたジェヒョクは、ドジンを支え起こした。




「少しは空気を読んで諦めて帰れ。」




「強国の公爵の御子息...君が私の好意を得るのは難しいことを覚えておくべきだ。」




「うん、反射。」




ふぉいふぉい。




「どけ」というジェスチャーで手を振りながら、ジェヒョクはドジンを背負って訓練場を後にした。




ロレンを支持する学生たちは脅し交じりの不満を口にしていたが、ジェヒョクは「どこかで犬が吠えているな」とでもいうように耳を掻くだけだった。




チェ・ダヒがジェヒョクについてきた。




「治療が必要そうですね?」




「うん。医務室に行く必要があるな。骨折だらけだ。」




「ダメですよ。そんなことをしたら先生たちに知られたらどうするんですか?」




慌てた様子でチェ・ダヒは懐から小さな薬瓶を取り出した。




安物ではあるが確かにポーションだった。




「おい、なんでポーションを常備してるんだ?お金持ちか?」




「Aクラスの授業課程には、来週からモンスター狩りが含まれるんです。それで事前に支給された補給品なんですよ。」




「じゃあ、お前はどうするんだ?」




「当分、狩るモンスターはレベルが低いので大丈夫です。後でBクラスにもポーションが支給されたらその時に返してください。」




「ペク・ドジンの借金にしとけ。」




ジャバジャバジャバ。




ジェヒョクはドジンの体のあちこちにポーションをかけた。




「手は盾のせいでボロボロになったとしても、自分で転げ回って肋骨にひびが入り、鼻骨が折れるなんて...」




「...馬鹿なのか?」




「瞬歩は性能が優れている代わりに、制御が難しいスキルですからね。韓国の歴史上、瞬歩を持つ者は三人しかいなかったそうですが、彼ら全員が生涯でマスターできなかったと聞きます。」




「できなかったんじゃなくて、やらなかっただけだろ。練習中のリスクが高すぎて、ビビったんだよ。」




「そ、その...君たち、ドジンを助けてくれてありがとう。」




ジェヒョクとダヒを追いかけてきた2学年の生徒たちが感謝の言葉を述べた。




「ロレンって子、バオス家のネクロマンサーだよね?正直言うと、私たちは怖くて軽率に動けなかったんだ。君たちのおかげで勇気を出せたよ。」




「ドジンの友達か?」




「いや?」




2学年の生徒たちは即座に否定した。あんな奴の友達なわけがない、と。




ジェヒョクは苦笑を漏らした。




「友達でもないのに、どうして手を出した?それで礼を言うってのもおかしな話だな。」




「...それでも仲間だから。」




「...」




友達と仲間か。




屋敷に閉じこもって暮らしていたジェヒョクには馴染みのない概念だった。




しかし、何か心に響くものがあった。




ジェヒョクはふと気づいた。




この8年間、自分は否定的な概念ばかりを学んできたのだということに。




「う、うぅ...」




ドジンが意識を取り戻そうとしているのか、微かなうめき声を漏らした。




すると、ぎょっとした2学年の生徒たちは逃げるようにその場を去り、ドジンのそばにはジェヒョクとダヒだけがぽつんと残った。




「こいつ、普段どれだけ性格が最悪なら、会いたくないってみんな逃げ出すんだ?」




「わたしは気持ちが分かる気もしますけど。」




「お前もこいつの性格がそんなに悪いと思ってるのか?」




「いいえ?」




ダヒは丸い目をさらに大きく見開き、そんなつもりで言ったわけではない、と暗に表情で示した。しかし、ジェヒョクは表情だけでは彼女の本心を読み取ることができなかった。




「で、なんでお前が出てきたんだ?お前はこいつの仲間ですらないだろ?」




「それは...」




あなたを見て、誰かを思い出したから。




「...で、では。わたしはこれで失礼します。」




「味気ない奴だな。」




急いで立ち去るダヒに、ジェヒョクは適当に手を振るだけだった。そして彼は横たわるドジンを見下ろした。




ドジンはすでに目を開けていた。大の字になり、ぼんやりと空を見上げているだけだった。




ジェヒョクはその隣にゴロンと寝転がった。




強い日差しが、なんだかロレンの金色の瞳のようで、今日は妙に気に障った。




「...何も聞かないのか?」




結局、太陽から視線を外したドジンが尋ねた。




「わざわざ聞くほどのことでもないし。」




ジェヒョクは興味なさげに答えた。




「言いたくなったらその時言え。聞いてやるから。」




「...あの...」




「ん?」




「あのさ...」




「あのさって何だよ。外国人と付き合ってたら舌が変になったのか?」




「もうっ!訓練行こうって言ってんだよ!強くしてくれるんだろ?俺は強くなる!いつか絶対にロレンをぶっ潰してやるんだからな!」




ドジンは突然立ち上がり、声を張り上げた。その顔はどこか赤く染まっていた。赤い髪に赤い顔。まるで熟れたトマトのようだった。




「えっと...ああ、分かったよ。」




ネクロマンサーをどうやって倒すつもりだ?




ジェヒョクは少し呆れたが、何も言わずに体を起こした。




彼はこの世に不可能なことはないと信じていた。




その信念がなければ、とっくに挫折していたに違いない。




「行くぞ!誠心誠意ボコボコにしてやるからな!」




「訓練だって言ってんのに、なんで殴る話になるんだよ。頭おかしいのか?」




「お前は意外と頭がいいから、殴られてるうちに自然と強くなるさ。」




まずは瞬歩の使い方に慣れるのが急務だけどな。




ジェヒョクが不敵な笑みを浮かべると、ドジンは背筋に寒気を感じた。




「お前...誰か教えたことあるのか?」




「ああ、子供の頃に。」




「今より子供の頃って、何歳の話だよ?」




「それはいいから。これからは考えて動け。ロレンに挑む時に鉛玉を外さなかったろ。」




「あ?ああ...どうりで体が重いと思った...」




「なんだその馬鹿は。ったく。」




なぜだろう。




ジェヒョクは今日、とても機嫌が良かった。

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