第15話
「そ、それ本物の剣じゃないのか?」
「おい!ペク・ドジン!何やってるんだ、このバカ野郎!」
突如響いた怒声に反応した学生たちが目を見開いた。
まさか、同じ学生に本物の剣を振りかざして突っ込むとは。
ペク・ドジンの異名を知る者でも、信じがたい光景だった。
「くそっ!」
ドジンの同級生たち数人が素早く動き、見知らぬ緑髪の少年とドジンの間に割り込んだ。
1年以上共に学んだ仲間が「一線」を越え、取り返しのつかない事態に陥らないように、訓練用の【魔法工学武器】を構えた。
「ペク・ドジン!落ち着け!」
「どけろ!!」
ドジンの小柄な体が一瞬にしてかすみ、次の瞬間には消えた。
【瞬歩】
少年のファーストスキルだ。
移動距離が短く、座標を固定できないという致命的な欠点を持ちながらも、空間移動の特性を持つ最高級の移動スキル。
ドスン!ゴロゴロ!!
学生たちの後ろに現れたドジンの体が、何度も地面に跳ね飛ばされた。瞬歩の座標が運悪く斜めに設定され、顔面から地面に突っ込んだのだ。
「ロレェェェン!!」
骨が数本折れてもおかしくない状況だったが、ドジンは勢いよく立ち上がった。怒りで燃える瞳にロレンの姿を捉え、大剣を迷わず振り下ろした。
「あ...!」
学生たちがため息を漏らした。
あの狂人が、もう戻れない橋を渡ってしまったのだ。
緑髪の少年。
見慣れない顔からして新入生と思われたが、二人の間にどんな事情があろうと、学校側は情状酌量しないだろう。
私的な理由で本物の剣を振り回し、他人を傷つけた以上、処罰は免れない。
ゴァァァン!
血しぶきが舞い上がった。
緑髪の少年が斬られたのではなかった。倒れ込んだペク・ドジンが地面に顔をぶつけた衝撃で鼻血を噴き出していただけだった。
宙に丸い物体を浮かべたロレンは、巨大な大剣を容易に防ぎ切った。その色や形状は、魔法系スキルである【シールド】とは明らかに異なっていた。
「…骨?」
円形に近い防御壁の正体は、なんと骨の集合体だった。正確には、背骨が丸く曲がったような形状。
それを見た学生たちは、ある存在を思い浮かべ、改めてロレンの顔を凝視した。
そして、確認した。
少年の両目が黄金色に輝いていることを。
「血系スキルだ!」
「本物だ、オーストリアの…!」
シャリシャリシャリッ!
驚愕が渦巻く中、鞭のように展開した背骨がドジンの大剣を絡め取った。
「ドジン、相変わらず性急だね。久しぶりに会った友に、いきなり剣を振るうなんて。」
「黙れ…!お願いだから黙れ、このクソ野郎が!!」
背骨に絡め取られた大剣が一切動かず、ドジンは柄を支えにして体を宙に浮かせた。ロレンの顎下に狙いを定めて膝蹴りを放つ。
瞬時の判断力と実行力。
それこそが、カン・ジェヒョクがドジンの潜在能力を高く評価する理由だった。その頭脳の冴えが、彼を際立たせていた。
しかし、ロレンもドジンの長所を熟知しているようだった。
ドジンが飛び上がると同時に、ロレンは大剣を引き寄せた。
突然動き出した剣の柄によって支えを失い、ドジンの体の重心が宙で狂う。膝蹴りはロレンの顎には届かず、彼の肘に阻まれた。
「仲良くしようよ。君の両親の願いを忘れたのかい?」
「うあああああああ!!」
ドジンの叫びは、いつもの怒声とは違った。
それはまるで絶叫のようであり、事情を知らない学生たちの心をも凍りつかせるほど、深い怨念と怒りが滲んでいた。
ドン、ドン、ドン!
ドジンが繰り出す止まらない拳撃は、すべて骨の盾によって阻まれてしまった。
「……」
訓練場に重い沈黙が降りた。
皮膚が裂けるたびに強さを増していたドジンの拳は、ある瞬間から明らかに弱くなった。大きく腫れ上がったその手を見る限り、骨が折れているのは明白だった。
ドン、ドン、ドン……
それでも、ドジンは拳を振り続けた。
自分の弱さに苛立ち、情けなさに打ちのめされていた。涙を噛み殺しながら小さな体でオイオイとすすり泣く姿は痛ましいものだった。
ついに、ドジンの拳が完全に止まったとき。
「やっと熱が冷めたか? まずは治療を受けに行こう。俺がちゃんと面倒をみるから、安心して休め。」
ロレンがドジンを抱きかかえ、優しく囁いた。彼が骨を収めると、その金色の瞳は元の色を取り戻した。
この展開に理解が追いつかない学生たちがざわめく中。
「……」
ドジンを支え歩いていたロレンが、不意に立ち止まった。
訓練場の入り口に斜めに寄りかかり、長い足で入り口を堂々と塞ぐ少年がいたからだ。その態度は明らかに意図的だった。
「オーストリアの公爵家の子息が、どうしてここにいる?」
「ライオンの城サジャエソン側が便宜を図り、交換留学生として来た。どけ。」
「交換留学生? 理事長って奴は、世話好きだと思ったけど想像を超えてるな。国立機関なのに外国人を受け入れるなんて。」
「一介の学生が口を出す話ではない。」
「ああ、まあ。お偉いさん同士の取引があったんだろうよ。」
「……なぜ道を塞ぎ続ける? 疲労で倒れた我が友の傷が見えないのか? 邪魔をやめて、どけ。」
「お前、言葉遣いは変だけど、韓国語やけに上手いな。ペク・ドジンと幼少期を共に過ごしたとか、そんな感じか?」
「そうだ。ドジンと俺は幼馴染だ。」
「ペク・ドジンがドイツ語を最後まで覚えられなかったから、お前が韓国語を覚えたんだな。あいつ、頭は良いけど、勉強向きじゃなさそうだし。」
「奇妙な奴だな。」
道を塞いで言葉を重ねるジェヒョクの態度に、何とも言えない敵意を感じ取ったロレンの瞳が、再び金色に染まった。
すると地面から突き出た脊椎が手の形を作り、ジェヒョクの足首を掴もうとした。
だが、ジェヒョクが刀の柄を引き寄せる速度がわずかに勝った。
ドガンッ!
手の形をした脊椎が瞬時に盾へと変わり、斬撃を完全に防いだ。
「……抜刀術? 強家カンガの……」
「友達とかどうでもいいけど、あいつはお前が嫌いって言ってたぞ。俺に渡せ。」
「強家の御子息もドジンの友人であられるのか?」
「友達……ってわけでもないな?」
「ならば口を挟むな。我々の関係に第三者が介入するのは不愉快だ。」
「いやいや、そもそもあいつはお前を嫌ってるっての。お前、会話を習うときに話すだけ覚えて聞くのはサボったのか?」
「友人でもないのに、なぜそこまで干渉する?」
「俺のチームメンバーだからさ。」
ドジンを初めて見たとき、ジェヒョクはその鋭い眼差しに引き込まれた。
隠しきれない怒り、憎悪、そして毒気がかすかにその瞳の奥で燃え上がっているのを見て、まるで自分自身を映す鏡を見ているような気分になった。
自然と惹かれた。もし一緒にいれば、お互いを理解し、支え合うことができるのではないかという漠然とした期待を抱いた。
友達かどうかなんて、どうでもよかった。
「俺の仲間は俺が守る。」
「貴族らしい発言だ。しかし、私もまた貴族。ドジンはそなたの仲間である前に、私の仲間だ。」
「話が通じねえな。オーストリアの貴族ってのは耳が詰まってんのか?」
「韓国の貴族は下品なのかもしれんな。」
ロレンはため息をつきながら、ドジンをそっと地面に横たえた。
「どかないのなら、私の力を行使することになる。その程度では外交問題には発展しないだろう。」
シャリシャリシャリ!
展開された脊椎が盾から剣へと姿を変えた。
「そなたの目は抜刀しても開眼しない。才覚が足りず血系スキルを得られなかったのだ。我々の力量差は明白。今からでも引き下がれ。」
「子供を置いて行けと言ったら剣を抜くとは。狂ったサイコ野郎だな。」
「剣を最初に抜いたのはそちらだ。」
「あれは防御だっただろ。この厚顔無恥が。お前が先に仕掛けたんじゃねえか。」
「……そなたと長話をする気はない。」
完全な金色に染まったロレンの瞳は冷たい金属を彷彿とさせた。ただ見つめられるだけで骨の髄まで冷え込むような感覚。
ジェヒョクは舌打ちをした。
『新羅家に続いてバオス家かよ。』
学生たちの顔ぶれがあまりに華々しいではないか?
頭痛がしてきた。
チーム単位で行われる訓練や大会で最高の成績を収め、霊薬を集めるという計画が早くも大きな壁にぶつかった気分だった。
つまり、ロレン相手に勝算を論じるのは難しいということだ。
金色の瞳。
血統で受け継がれるスキルを覚醒した証だった。
韓国基準で10人ほどだろうか。
ごくわずかな者だけが祖先のスキルをそのまま受け継ぎ、それを血系スキルと呼ぶ。
ジェヒョクが二番目に開花させたファーストスキルも血系だった。
だが、ジェヒョクはそれすら拒否し、覚醒を延期した状態だった。
オーストリアを大国に押し上げたバオス家の【ネクロマンサー】を相手に勝算を論じるなど、夢の中ですら不可能だった。
『ちょっと恥をかきそうだな。』
ジェヒョクは苦笑しながら上体を傾けた。
彼は父と家門の名誉を回復しなければならない者だ。
これほど多くの人々の前で無様な敗北を喫するのは避けたい。争いを避けるのが最善であることは理解している。
だが、力尽きた状態で涙を流すドジンを見捨てるつもりは微塵もなかった。
ドジンが抱える憎悪と怒りがロレンに向けられていることに気づいていたからだ。
8年前、ジェヒョクからすべてを奪った者たちが、ドジンにとってはロレンそのものであるのかもしれない。
それを見て見ぬふりをする?
嫌だ。
もし自分がドジンと同じ立場に置かれたら。
つまり、仇敵の手の中に首を掴まれているときに、そばにいる仲間たちが見て見ぬふりをするのは、あまりにも悲しいことではないかと思ったのだ。
「奇妙だ。」
ジェヒョクが退く気配を見せないため、ロレンは首を傾げた。
「その生涯は我が国でも有名だろう。屋敷に閉じこもって人と交流を持たず、ドジンと知り合ったのもほんの数日間であったはず。それなのにわざわざ私と対決するとは理解に苦しむ。何ゆえ他人のために名誉を賭けるのか?」
「名誉なんて失っても、いつか取り戻すチャンスはあるさ。でも後悔は一生残って、永遠に自分を苦しめると思う。」
「貴族らしいという言葉は取り消そう。愚かで鈍く、不快になるほどだ。愚昧な君が理解できるよう補足すれば、今日君が私に失った名誉を回復する機会は永遠に訪れないだろう。」
二人の少年は年齢がほぼ同じだ。
だが一方は血系スキルを高い水準で磨き上げており、もう一方は金色の瞳すら開眼していない。
才能の差は天と地ほどであり、その差は永遠に縮まらないというのは誰の目にも明らかだった。
ただ一人を除いて。
ジェヒョクだけは、そうは思わなかった。
「口を慎め。今日の言葉を、いつか一生後悔するかもしれないぞ。」
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