第13話

「公子様、お元気でいらっしゃいますか?私は公子様のことが心配で、夜も眠れません。」




『ホァン執事も本当に…。』




サジャの城に入学して初めて迎える週末。




朝早く起きたジェヒョクは、届いたメッセージを見てほほ笑みを浮かべた。




家を出てたった6日しか経っていないというのに、もうこんなにも自分を恋しく思っているのか?心配で眠れないほどだなんて?




『まったく、俺のことが大好きすぎるんだよな。まるで自分の孫だとでも思ってるみたいだ。』




やっぱり一生面倒見てやらなきゃな。




ジェヒョクの笑みが次第に濃くなっていったが、それはまるで嘘のように消えた。






「公子様が学友に暴力を振るっていないか、または教師とトラブルを起こしていないか、いつもハラハラしながら胸を締め付けられる思いで眠れません。私は公子様が勉強をよくできることは期待していません。ただ、友人関係だけでも円満に築いていただきたいのです。公子様があれほど嫌う長男様でさえ、学生時代には友人が一人くらいはおりました。」






「ここのご飯、すごくおいしいよ。おかげでホァン執事のことなんか、ほんの少しも思い出さないね。じゃ、また。」




長文のメッセージをスクロールして一気に読み飛ばし、返信を送ったジェヒョクは、ひとりため息をついた。




『なんで急にカン・デソンの話が出てくるんだよ。』




いや、それ以前に勉強は期待していないって?




ホァン執事は俺のことを意外と知らないな。




『ホァン執事、遅く始めたってことは欠点じゃない。遅れた分だけ一生懸命努力すれば解決できる問題だ。俺は勉強だってもちろん1位を取るつもりだ。』




勉強に関しては「だけ」1位を取るつもりだというのが、もう少し正確な表現だった。




新羅家の後継者が勉強まで得意だという保証はないからな。




『それにしても、俺が学友をいじめたり、教師と喧嘩するって?おや?』




…もうやってるか?




やっぱりホァン執事…。




俺のことを本当によく知ってるんだな。それだけ俺への愛情が深いってことだろう。




またしても気分が良くなったジェヒョクは、顔を洗って服を着替えた。




普段なら食堂へ駆け込むところだが…。




「4階からが2年生の寮だったよな?」




ジェヒョクはロビーには向かわず、むしろ階段を上がっていった。




「えっ?はい、そうです。」




2年生の学生たちは丁寧に頭を下げた。




2年生の生活スペースにやって来て、いきなりタメ口をきいてくる見知らぬ相手が1年生だとは、まったく想像もできなかったのだ。他の建物を使う上級生だと思い込んでいた。




「で、ペク・ドジンの部屋は何号室だ?」




「ペク・ドジンですか…?あいつ、Bクラスだから6階を使ってるはずですけど、部屋番号までは…」




「どこか行って聞いてくればいいだろ?あ、君たちがちょっと調べてきてくれない?」




「はい…」




寮監室に行けばいい話だろ?




学生たちは首をかしげながらも、ジェヒョクの頼みを聞いてやることにした。




サジャの城において、3年生の立場は格別だった。




授業の内容がほとんど狩猟に重点を置いているため、経験もレベルも、現役プレイヤーとほとんど変わらない。




実際、3年生になるや否やギルドや協会に派遣される実力者も少なくない。そのため、下級生にとって3年生とは同じ学生ではなく、プロとして認識される傾向があった。




「なんだ?どうした?」




男子寮本館の寮監室。




朝から学生たちがぞろぞろ押しかけてくるのを見て、髭を剃っていた男は驚いた。




男の名前はイ・ギブク。




見た目はどう見ても30代だが、実はまだ青臭い学生だった。




とはいえ10代というわけではなく、実際には30代の2年生だ。




「3年生の先輩がペク・ドジンを探しているんです。部屋番号を教えてほしいって。」




「3年生?」




どうせ朝食の時間がすぐそこなのに、食堂に向かう途中で会えばいいものを、わざわざ本館までやって来るとは。




「先輩がわざわざ足を運んだってことは、相当急いでるんだな。ペク・ドジンのやつ、まったく…」




ペク・ドジンがまた何かやらかしたのか。




3年生がペク・ドジンを探す理由なんて、それ以外に考えられるか?




『本館で騒ぎを起こされたら、こっちが面倒なことになるだけだってのに。』




少し考え込んだイ・ギブクは、自ら動くことにした。




「俺が案内するから、君たちはもう戻っていい。」




「はい…」




学生たちは互いに視線を交わした。




どうやら面白い展開になりそうだ、という顔をしていた。




3年生がペク・ドジンを探す理由?




もちろん、あの狂犬をボコボコにするためだろう。




イ・ギブクとしては、放置しておくわけにはいかない。




寮内で騒ぎが起これば、寮監も罰点を受ける可能性があるため、非常に気を遣う問題だった。




『これ、もしかするとギブク兄貴が3年生と一戦交えることになるかも…』




年長者のギブクは当然、Cクラスだ。




そして、Cクラスの学生は大きく二つのカテゴリーに分けられる。




一つ目は、普通に生活しながら趣味として適度に、しかし地道に修練を積んだ結果、遅ればせながらも「ファーストスキル」を開花させた人々。




二つ目は、特定のスキルを得るために「意図的に遅れて覚醒した」人々。




後者はファーストスキルを2つから3つまで開花させ、その中から一つを選んで覚醒したケースだ。運任せにせず、数十年以上もの修行を経た者たちである。




イ・ギブクはまさに後者に該当する。




しかも、魔力測定器を赤色に染めた、上級プレイヤーの素質を持つ人物だった。




だからこそ、上位成績を収めた学生だけが志願できる寮の寮監に選ばれたのだ。




たとえ相手が上級生であろうと、自分の領域で好き勝手させるつもりは毛頭ない。




「なんで食事しに行けって言ってるのに、ついてくるんだよ?」




後をついてくる学生たちのせいで、イ・ギブクの負担は大きくなっていく。




上級生をうまくなだめて、ひとまず寮の外へ出すつもりだったが、見物人が増えてしまい、対応が難しくなってきた。




「若造に頭を下げてる姿なんて、見せたくないのに…」




イ・ギブクは、上級プレイヤーになるという信念一つで20年以上の修行を耐え抜いた男だ。




その努力は実を結び、良い結果を得ることができたが、他人よりスタート地点が遅れていたことは否定しがたい事実だった。




だからこそ、サジャの城で過ごす3年間を何よりも大切にしていた。




若い同級生や後輩を引っ張り、しっかりとした人脈を築き上げ、卒業後はその人脈を基にギルドを設立するのが彼の野望だった。




そのためには、イメージ管理を徹底しなければならなかったのだ。




「ん…?」




目的地に近づくにつれて足取りが重くなるのを感じていたイ・ギブクは、ふと足を止めた。




ジェヒョクを発見したのだ。




週末ということもあり、私服姿の少年。体格がよく、くっきりとした顔立ちのため成熟して見えるが、よく見るとどこかあどけなさも残っていた。




「3年生にしてはちょっと幼いような…新入生か?」




ソル・スアはカン・ジェヒョクの入学にあたり、様々な便宜を図り、心を尽くしていた。




寮に入る際も、寮監に任せず、秘書に直接案内させたほどだった。




そのせいで、イ・ギブクにとってもカン・ジェヒョクの顔は見覚えがなかった。




そもそも、男子寮本館には部屋が千部屋以上もある。




管理することが多く、寮監も複数名体制で、担当エリアが重ならない限り、学生同士で顔を合わせる機会も少ない。




「いや、ちょっと幼いどころか、かなり幼いぞ?」




もちろん、3年生の中にも10代の学生はかなり多い。




運良く優れたファーストスキルを一度で開花させた者や、平凡なファーストスキルを得て、それに満足して覚醒した者たちだ。




しかし、彼らですらほとんどが10代後半である。




「ペク・ドジンの部屋はどこかって聞いてるのに、なんで余計な人を連れてくるんだ。誰だよ?」




「さ、寮監です。寮監が部屋の管理をしているので、ペク・ドジンが使っている部屋をこの方が案内してくれるはずです。」




「…執事みたいなもんか?じゃあ、さっさと案内しろよ。」




1年生か、3年生か。




イ・ギブクはその間で迷っていたが、結論に至った。




『3年生だな。』




先輩だから堂々とタメ口をきいてくるのだろう。




「先輩、ペク・ドジンにはどんな用件が?」




「なんでだ?人に会う理由をいちいち説明しなきゃいけないのか?」




部屋が千室もあることからもわかるように、男子寮の本館は想像以上に広大だった。




寮監を呼びに行った学生たちが戻ってくるまでに、実に20分近くもかかった。




20分あれば、剣を何百回も振れる時間じゃないか?




「腹が減って死にそうなのに、待ってやったらこれだよ。で?用件を説明しろって?まったく、人が優しすぎるのも罪だな、罪だよ。優しいから利用されるってわけだ。」




まだ朝早い時間にもかかわらず。




廊下で待つ間、たくさんの学生がジェヒョクのそばを通り過ぎていった。




だがジェヒョクは彼らにペク・ドジンの所在を尋ねることなく、黙々と彼らを待ち続けた。




彼らが先に(?)ドジンの所在を調べてくれると言ったから、それを信じて応じたのだ。




なのにこの扱いでは、ため息が出るばかりだった。




「…」




イ・ギブクは2年生たちに視線を送った。




こいつにどんな借りがあって、こんなことをしているのかという問いが込められていた。




しかし、学生たちは首を横に振った。




皆一様に、わけがわからないという顔をしていた。




『なんだこれは…わざと難癖をつけているのか?』




ともかく、こんな生意気なやつは久しぶりに見た。




サジャの城では、学年の上下関係が年齢以上に重視されているが、イ・ギブクは30代半ばの年齢と、ただ者ではない印象を持っていた。




そのため、上級生でも適切な礼儀を守るのが普通だったが、目の前のこの生意気なやつには、そんな配慮はまるでなかった。




『いくら3年生でも、限度があるだろう。』




イ・ギブクは激しく不快に感じたが、怒りをぐっと抑えた。




3年生でありながら若く、性格がひどいとなれば、ある事実を示している可能性が高かったからだ。




実力者。




それにもかかわらず顔が見覚えのないのは、それだけ派遣が多かったからだろう。




『稀に、驚異的な実力を持つ者は2年生の時点で派遣に出ることもあるしな…。』




下手に刺激して若造に恥をかかされないようにしよう…。




息を整えたイ・ギブクは、ジェヒョクに丁寧に謝罪した。




「すまない。先輩のお立場を慮ることができなかった。すぐにペク・ドジンを呼びに行くので、外でお待ちいただけますか。」




こんな奴がミチンケ(狂犬)と出会うだと?




絶対に一悶着起きるに違いない。




計画通り、建物の外に追い出さなければ。




イ・ギブクは素早く判断を下したが、ジェヒョクは協力的ではなかった。




「俺に外で待てって?なんで?」




「…寮内で不和を生じさせれば、他の学生たちが不安に感じる可能性があるので、どうかご理解ください。」




「俺がペク・ドジンに会うことが不和を生じさせることになるって?いや、世の中にこんな理不尽があるのか?お前、執事だとか言って実は教師なんじゃないのか?やってることがまるでキム・ジンミョンそっくりで、本当に運が悪いったらないな。」




『いや、クソッたれ。』




なんだ、このお喋り野郎は?執事ってなんだよ?




見た目だけなら、静かにモデルでもして歩いていそうなやつが、場違いにおしゃべりだ。




『待てよ?教師だと?』




サジャの城では、寮監は教師ではなく学生が務めている。




だが、3年生にもなるやつが、その事実を知らないというのか?




「カン・ジェヒョク?そこで何してる?」




イ・ギブクが違和感を覚えたそのとき、廊下の向こうから真っ赤な髪をした小柄なやつがトコトコと駆け寄ってきた。




すると、正体不明の3年生(?)が不満そうに訴えた。




「俺がちょっとお前に会おうとしたら、建物の外に出ろってさ。こんなことする人間がいるかよ?朝っぱらから集団でわらわらと押しかけて、一人をいじめるなんて。」




「狂ってる奴らだな。どうせチンピラばかりだ。とりあえず飯でも食いに行こう。早く腹を満たさないと、訓練も早く始められないし。」




「うん。」




「…ちょっと待て。」




二人の少年を引き止めるイ・ギブクのこめかみに血管が浮かび上がった。




「お前…ひょっとして新入生か?」




「うん。」




「なのに、なんでタメ口なんだ?」




「ああ、教師だったんですね?ごめんなさいごめんなさい。でも、どう見ても学生だと思いましたよ。」




「…」




俺が作るギルドにこんな奴はいらない。




そうだ、それに違いない。




頭を何度も頷かせるイ・ギブクの目つきは、徐々に凶悪なものへと変わっていった。

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