第49話



 物心ついた時にはもう首には首輪が嵌めてあり、喉は潰された後だった。


 …うるさかったらしい。

 記憶には無い。


 成功しても失敗しても、上の人の機嫌が悪ければ殴られる環境の中で育った。


 ご飯も偶にしかくれないから常にお腹は空きっ腹。


 自然と盗む技を覚えたけど、匂いの出る物を持っていれば(果物、肉系や野菜)先輩に取られるんで、常にカチコチのカビの生えてる位のパンを懐に常備するようになった。


 …それも戯れ半分に奪われて、泥まみれの靴とかでべっちゃべちゃに踏み潰されるなんて事も日常茶飯事であった。

 ゲラゲラ笑ってたけど、何が楽しいのか理解不能。

 完全に嫌がらせだったけど、戦闘能力も力でも劣る俺は皆のサンドバッグ。

 耐えるしか無い日々に、自然と心は死んでいった。


 …だから今、自分の瞳から溢れ続ける熱い水分の存在に、驚きを隠せないでいる。


 …自分ってまだ、泣ける様な感情があったんだって、びっくり!




 ———事は組織に大きな仕事が入った頃に遡る。


 大口の相手で、成功報酬もいつもの10倍はあるって皆が大はしゃぎしていたのを覚えている。


 …俺は奴隷だしそんな恩恵には与れない立場なんだけど、上の機嫌が良ければ殴られなくて済むんで、いつも以上に息を殺していたかな。


 強襲する際には必ず引っ張り出される。

 …その為に居ると言っても過言じゃないし。


 【気配遮絶】スキル持ちだから買われたからな、俺。

 これ、自分だけじゃなくて周囲の人にも掛かるから重宝しているって誰かが言ってたけど…それならもうちょっと殴る回数減らして欲しいって思う俺はおかしいのかな?


 スキルで身を隠せって?


 それもやった事があるけど、それはそれで生意気なんだって余計殴られるから直ぐに辞めた。


 奴隷は先輩の機嫌が悪い時に殴られるのも仕事だとかなんとか言ってた気がするけど……忘れたな。


 あの2人の人。

 先輩は大した事ない雑魚って笑ってたけど、俺には目の前の先輩達よりよっぽど怖く感じたけどな…喉潰されてるから言え無いけど。

 …潰されて無かったとしても、どうせ殴られただろうから口はつぐんだんだろうけどさ。


 近づきたく無かったけど、命令は絶対。

 逆らえばこの首輪が首と胴体をチョッキンしてくるし。

 同じ奴隷の奴が逆らってそうなってるのを見た事がある…。

 思わず、首輪を触っちゃったからな。怖すぎるだろ、これ。


 …先輩達は報酬を何に使うかって話ばっかりしてたけど、俺は行った先で壊滅しないかの心配をしていた…流石に未だ死にたくはないんだけど…無理かなぁ〜。諦め。




「お前戦闘には役立たずなんだから、あの子でも攫って待ってろ」


 と言われた先に居た女の子は、今まで見て来た中でもトップクラスに可愛くて。


 命令されたから実行に移すけど。

 可哀想で、でも自分側に堕ちて来てくれるとなると嬉しい気持ちにもなったかも?

 初めての感情でちょっと良く分かんなかったな。

 ちょっと胸のところがチクっとした気がしたけど、何だったんだろう?


 先輩に言われた通り、途中あった樹洞(うろ)草の中にあった石を持って誘導する事に。



 …そこにもっと怖い人が居たなんて知らない。



 気付いたら首輪が無くなっていて、潰れた喉も治ってた。

 …喋った事ないから、リハビリ?して出せるよう訓練するんだって。


 温かいスープとか、初めて食べた。

 …味は良く分かんなかったけど、かなりしょっぱかったのは俺が泣いてたからなのかな?

(↑アズマが作った激まずスープだっただけ。後でイチが嫉妬して、今後はイチが作った物しか食べ無い事になった。寧ろ良かった)


 修行はキツかったけど、殴られないし食べ物くれるし良い所に来られたなって喜んだけど。


 あの女の子に覚えられていた事とか、その子のお父さんがクッソ怖い人だった事とか、今後色々な事を経験していくんだけど、今は未だそんな事知らないでいる。


 




 

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