第41話 裏切り

 駐屯地を出た後に私とサミエラ、バンは牧場に来ていた。

そこはやはりロックトータスだけとなっていた。


「本当に他の魔物は全部殺処分されちゃったんだ。

ロックトータスは攻撃が全くできないから、前回のように君が魔物を先導して帝国兵を混乱に陥れるという戦法は通用しなさそうだね」


「そうですね。でもなにも魔物を用いて敵そのものにダメージを与えるだけが必ずしも有効な唯一の手段でありません。川という構造を利用し敵が渡河した後に退避できないようにかつ補給ができないようにさえ分断させることができれば逆に私たちが勝つことが出来ます」

「ほう何か思いついたようだね。じゃあそこの部分は任せた。私は邪魔が入らないように陽動を仕掛けるとするよ」



 宿まで戻ってきた。ジョセーヌとランドールが言い合いをしていた。

「このまま帝国兵の指揮はラルゲン侯爵に任せてもいいのか!

奴には2年前の前科があるだろう」

「だとしても今までこの地域を守ってくれたのは彼だ。彼が適任だ」


「あのーすいません、何かあったのですか。

2年前といえば魔族ミラの討伐作戦ですか」

「ハンヌさん、お見苦し所をお見せしました。ランドール、もっと別の場所で」


「戦いに参加するものなら聞く資格があるだろう。

確かに2年前に私たちは少数精鋭の勇者パーティを結成して魔の山脈に穴を開け、魔族ミラを討伐したことがある。だがその場所以外でも戦いはあったんだ。ここのラルゲン侯爵と魔族スカルが両軍とか作戦などを行っていて熾烈な戦いも続いていたんだが、秘密裏にラルゲン侯爵と魔族スカルの間だけで条約を結んでいたんだ。双方適度に争わせるが、どちらも向こう岸まで侵入はしないと」

「そんなまやかし戦争があったのですか。ですがそれは何のために」


「ラルゲン侯爵は帝国からの金銭的な支援や食料の援助、スカルは魔族軍の援軍をとにかく、自分のところに呼んでほしかったらしい。とても歪な関係だよ。どちらも将来自分に損害が来る可能性があると言うのにな」

「あの時ノースランドの人たちは食糧難の影響で飢餓がおこっていたらしい。

ラルゲン侯爵は領民のことを思って仕方なくそんな条約を結んだんだろう。スカルが条約を結んだ理由が良く分からないが」


「だとしても少数の人たちのために人類全体を裏切るような行為に他ならないだろう!」

「だが結果的に魔族軍の主力は北のレーベル川周辺に集まり、討伐作戦はしやすくなった」

「それは結果論だろう。もういい。これ以上話していてもらちが明かない」


 信じられなかった。そんなことがあったなんて。

スケルトンウィッチのスカルは幼い時にあったことがあるが、そんな奴だったとは。

これではまるで私のお母さんを殺すための引き金を引いたようなものだ。


 

 私たち3人は宿に戻っていた

「ニョロいるか」

「はい。どうしましたか」

「スカルに連絡を取ってもらいたい」

「分かりました」


「なんだい。私に連絡を取りたいというものは」

「2年前ラルゲン侯爵と裏で条約を結んでいたということだが本当かい?」


「確かに、返答で了承したとは言ったさ。だがそんなもの本気なわけがないだろう。

相手が意味不明な条約をお願いしてきたから、乗ったフリをして攻撃しようと思ったわけだ」

「そうか、分かった。説明ありがとうね。

後、帝国兵の大規模侵攻が始まる。おそらく君の命が危うくなるくらいに派手な攻撃だよ」

「そうか」

「あまり、驚かないんだねもしかして知ってた?」

「いや、そんなことはない。君たちが何とかしてくれると考えていいかな」

「ああ、大船に乗ったつもりでいなよ。それじゃ」


 私は聞いていて気持ちが悪くなった。何が本当なのかわからない。

「すみません。危険分子は排除すべきではないでしょうか。そのスカルが信用できるとは思えないです」

「だが彼も長年この戦線に従事していた実績がある。魔族は能力主義だよ。強いやつが偉い。たとえ、方法が間違っていたとしてもあいつが今まで長くやってきているということは変わらない。これはたとえ本当だったとしても処分を下す案件ではないよ」


「ですが、実際に魔の山脈の中央に穴を開けて侵攻されやすくなったのも事実です。

魔族全体に迷惑が掛かっています」

「それがどうした。魔族は自分のことしか基本考えていないんだよ。

だから彼が普通だよ。君は今回の任務にだけ集中すればいい。私情を挟むな」


 スカル。私の中でひどく彼が自己中心的で不気味に思えた。

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