第42話 スカル

 自分は元はスケルトンだった。

訳も分からず魔物として人間と戦えという命令に従っていた。

こっちは全然魔法が使えず弓や剣で攻撃するだけなのに、人間は魔法で攻撃してくる。


 悔しかった。あの力が私にもあればと何度も思った。

そうして魔法をくらうのを繰り返すうちに自分も魔法が使えるようになった。スケルトンウィッチに進化したのだ。ちょうどこの時にスケルトンたちを先導する魔族が人間に倒されていたので自分がこのスケルトン軍の指揮官になった。


 その際に魔王と会ったことがある。

「どうだ、いままでずいぶん人間どもに痛い目にあっただろう。

貴様が指揮官となりその恨みを思う存分返してやれ」


 それからは何度も敵の人間を殺してきた。

魔物のスケルトンを用いて、あるいは自分自身の手で屠ってきた。

そんな日々を過ごしていたある日のこと。


「はじめまして。魔族ミラと言います。

人の血も混ざっているので半人半魔族と言われたりもしますが」

 それはほぼ人の姿だが角や翼、人には珍しい目と髪の色をしていた。


「今回はどのようなご用件で」

「この戦いに援軍としてきました」

 どうやら魔族の指揮官としては有能らしい。

彼女は数種類のそれも全く近縁種でない個体を操ることが出来ていた。

操れる数は少なかったがとても伸びしろがある者だった。



「あのスカルさんはどうして私を人に似ていることで差別したりしないんですか」

「そんなことか。別にどうでもいい。他の魔族と全く違うというなら、私だって他の生物とかなりかけ離れているくらいだしな。人間に似ていようが、結果を出してくれるならそれでいい。最初はびっくりしたぞ。人間を殺すことに一々躊躇っていて」


「私実は昔人間だったんです。途中で捕食したものの性質を受け継ぐ魔物キメラに食われてしまってこんな姿になってしまいました。時間がたつほど様々な種族の考え方がごちゃ混ぜになってどんどん私でなくなっていくんですよ。その影響もあって最近は人を殺すことになれてしまったのかもしれません。それとまだ幼い娘がいるのでちゃんと仕事はしなくては」


「もう娘がいるのか。父親は誰だ」

「私が人間だったころにすでにおなかに赤ん坊が居ました。その状態でキメラ種に食われた後も私のおなかの中で赤ん坊として育ちました。なので人間の男ということになりますね。ですがもう人間の頃の記憶が少し不鮮明なので具体的に誰がとまでは分かりませんが」


「そうか、ならもっと活躍しないとな。

娘をかわいがりすぎるのはまるで人間のようだがな」



「スカルさん、魔族と人の違いはなんだと思いますか?」

「突然なんだ」

「最近、人だけでなく魔族の考え方が流れ込んできて、どちらもほぼ似ているような感じなんですよ。どちらにも喜怒哀楽があって傷がついた時の痛みや痛みを与えた者に対する憎悪も」


「何が言いたいんだ」

「あなたはなぜ人と戦い続けることが出来ますか?」

「そもそも、俺が魔物の時からずっと戦っているんだ。そういうものなんだよ。

もう数百年も個々の争いが日常的に起きている。そういうものなんだ」


「いや、異常だよ。そんなに長い期間戦いがあることが。

人間はせいぜい数十年しか同族間での戦争を続けることが出来ないんだ。

そんなに年月が経ったら、お互い自分の先祖の代から続く理由で自分たちも戦うことが馬鹿らしくなって和平を求めるものなんだよ。だが魔族は違う。本能的に上位種や魔族に逆らえないトップダウン型で末端は強制的な命令により戦いに身を注ぐ。それにほとんどの魔族が寿命が数百年から千年。これでは世代交代が進まず、行われたとしても全体で見れはたった一体の魔族の指揮官が変わるだけ、君みたいにね。

要するにこの人と魔族の戦争は魔族の生態系の影響も相まって続いている部分がかなりを占めていると思うんだ」


「つまり、あれか。俺のせいとでも言いたいのか」

「そういうわけじゃない。ただ誰かが変わらないと現状は変わらないんだ。

一人が名を挙げても意味がない。細々とみんなで共有しあって徐々にこの硬直した魔族の体制を変えないと。そしていずれ人と協定を結んで共存する道を模索していくべきだと思う。君だってこのままただ生まれた時から続く流れに従って生き続けることがいいのですか?

絶対幸せになれないと思う」


「今のは聞かなかったことにしておく。

これは立派な反逆行為だ。くれぐれも絶対に行うな」



 それからはどんどんとミラは功績を上げていった。

もうとっくに私が殺してきた人間の数を超えている。

とても人間と共存したいと言っていたやつとは同一人物とは言えなかった。

「スカル、ちょっといいか」


 それは一緒に戦場を共にした後のことだ。

「もう私は自分の頭の仲がかなり危険で残忍になってきている。

凶暴な状態の魔物や憎悪に満ちた人を食ったりしたからかな」

「そうか、では魔族としては立派になったんじゃないのか」


「だが、人との共存との立役者としてはふさわしくない。

私はもう人に憎まれすぎている。それに魔族からも半人半魔族だと毛嫌いされている」

「まだそんな考え方をしていたのか。あんだけ虐殺の限りを尽くしたのに」


「これ以上すべての生き物が暴力的な感情に支配されていくのが見ていられないんだ。そうなるほどあらゆる生物を食べる私はもう暴虐無慈悲を繰り返す。ただの化け物になってしまう。今ではかつて抱いた幻想と娘だけが希望なのだよ。

君が私の願いを引き継いでくれないか」

 

「誰がやるかそんなもの。他を当たれ」

「誰のせいでこんなことになったと思ってる。君が私と会うたびにお前は半人半魔族で人間に近しいから『魔族にもっと尽くせ』だとか、『人と裏で共謀しているんじゃない?』って堂々と言うから裏で魔族に人と共存していこうって思想が広めれなくなっちゃったじゃない。責任取ってよ」


「そんなことされて、魔王に君を殺すような命令が出たら困る。

君ほど強いとこちらも甚大な損害が考えられるかな」

「つれないな。でも私の身を案じてくれたと受け取っておくよ。

何かあったら私の希望はあんたに託すから」


「勝手にしろ。俺は何もしないからな」



 それから数か月後のことだった。魔王が俺を呼んだ。

「どうされましたか魔王様」

「今回は半人半魔族のミラについてだ。あいつと話したものからするととても人間らしく、将来魔族に仇名すスケルトンだった。

訳も分からず魔物として人間と戦えという命令に従っていた。

こっちは全然魔法が使えず弓や剣で攻撃するだけなのに、人間は魔法で攻撃してくる。


 悔しかった。あの力が私にもあればと何度も思った。

そうして魔法をくらうのを繰り返すうちに自分も魔法が使えるようになった。スケルトンウィッチに進化したのだ。ちょうどこの時にスケルトンたちを先導する魔族が人間に倒されていたので自分がこのスケルトン軍の指揮官になった。


 その際に魔王と会ったことがある。

「どうだ、いままでずいぶん人間どもに痛い目にあっただろう。

貴様が指揮官となりその恨みを思う存分返してやれ」


 それからは何度も敵の人間を殺してきた。

魔物のスケルトンを用いて、あるいは自分自身の手で屠ってきた。

そんな日々を過ごしていたある日のこと。


「はじめまして。魔族ミラと言います。

人の血も混ざっているので半人半魔族と言われたりもしますが」

 それはほぼ人の姿だが角や翼、人には珍しい目と髪の色をしていた。


「今回はどのようなご用件で」

「この戦いに援軍としてきました」

 どうやら魔族の指揮官としては有能らしい。

彼女は数種類のそれも全く近縁種でない個体を操ることが出来ていた。

操れる数は少なかったがとても伸びしろがある者だった。



「あのスカルさんはどうして私を人に似ていることで差別したりしないんですか」

「そんなことか。別にどうでもいい。他の魔族と全く違うというなら、私だって他の生物とかなりかけ離れているくらいだしな。人間に似ていようが、結果を出してくれるならそれでいい。最初はびっくりしたぞ。人間を殺すことに一々躊躇っていて」


「私実は昔人間だったんです。途中で捕食したものの性質を受け継ぐ魔物キメラに食われてしまってこんな姿になってしまいました。時間がたつほど様々な種族の考え方がごちゃ混ぜになってどんどん私でなくなっていくんですよ。その影響もあって最近は人を殺すことになれてしまったのかもしれません。それとまだ幼い娘がいるのでちゃんと仕事はしなくては」


「もう娘がいるのか。父親は誰だ」

「私が人間だったころにすでにおなかに赤ん坊が居ました。その状態でキメラ種に食われた後も私のおなかの中で赤ん坊として育ちました。なので人間の男ということになりますね。ですがもう人間の頃の記憶が少し不鮮明なので具体的に誰がとまでは分かりませんが」


「そうか、ならもっと活躍しないとな。

娘をかわいがりすぎるのはまるで人間のようだがな」



「スカルさん、魔族と人の違いはなんだと思いますか?」

「突然なんだ」

「最近、人だけでなく魔族の考え方が流れ込んできて、どちらもほぼ似ているような感じなんですよ。どちらにも喜怒哀楽があって傷がついた時の痛みや痛みを与えた者に対する憎悪も」


「何が言いたいんだ」

「あなたはなぜ人と戦い続けることが出来ますか?」

「そもそも、俺が魔物の時からずっと戦っているんだ。そういうものなんだよ。

もう数百年も個々の争いが日常的に起きている。そういうものなんだ」


「いや、異常だよ。そんなに長い期間戦いがあることが。

人間はせいぜい数十年しか同族間での戦争を続けることが出来ないんだ。

そんなに年月が経ったら、お互い自分の先祖の代から続く理由で自分たちも戦うことが馬鹿らしくなって和平を求めるものなんだよ。だが魔族は違う。本能的に上位種や魔族に逆らえないトップダウン型で末端は強制的な命令により戦いに身を注ぐ。それにほとんどの魔族が寿命が数百年から千年。これでは世代交代が進まず、行われたとしても全体で見れはたった一体の魔族の指揮官が変わるだけ、君みたいにね。

要するにこの人と魔族の戦争は魔族の生態系の影響も相まって続いている部分がかなりを占めていると思うんだ」


「つまり、あれか。俺のせいとでも言いたいのか」

「そういうわけじゃない。ただ誰かが変わらないと現状は変わらないんだ。

一人が名を挙げても意味がない。細々とみんなで共有しあって徐々にこの硬直した魔族の体制を変えないと。そしていずれ人と協定を結んで共存する道を模索していくべきだと思う。君だってこのままただ生まれた時から続く流れに従って生き続けることがいいのですか?

絶対幸せになれないと思う」


「今のは聞かなかったことにしておく。

これは立派な反逆行為だ。くれぐれも絶対に行うな」



 それからはどんどんとミラは功績を上げていった。

もうとっくに私が殺してきた人間の数を超えている。

とても人間と共存したいと言っていたやつとは同一人物とは言えなかった。

「スカル、ちょっといいか」


 それは一緒に戦場を共にした後のことだ。

「もう私は自分の頭の仲がかなり危険で残忍になってきている。

凶暴な状態の魔物や憎悪に満ちた人を食ったりしたからかな」

「そうか、では魔族としては立派になったんじゃないのか」


「だが、人との共存との立役者としてはふさわしくない。

私はもう人に憎まれすぎている。それに魔族からも半人半魔族だと毛嫌いされている」

「まだそんな考え方をしていたのか。あんだけ虐殺の限りを尽くしたのに」


「これ以上すべての生き物が暴力的な感情に支配されていくのが見ていられないんだ。そうなるほどあらゆる生物を食べる私はもう暴虐無慈悲を繰り返す。ただの化け物になってしまう。今ではかつて抱いた幻想と娘だけが希望なのだよ。

君が私の願いを引き継いでくれないか」

 

「誰がやるかそんなもの。他を当たれ」

「誰のせいでこんなことになったと思ってる。君が私と会うたびにお前は半人半魔族で人間に近しいから『魔族にもっと尽くせ』だとか、『人と裏で共謀しているんじゃない?』って堂々と言うから裏で魔族に人と共存していこうって思想が広めれなくなっちゃったじゃない。責任取ってよ」


「そんなことされて、魔王に君を殺すような命令が出たら困る。

君ほど強いとこちらも甚大な損害が考えられるかな」

「つれないな。でも私の身を案じてくれたと受け取っておくよ。

何かあったら私の希望はあんたに託すから」


「勝手にしろ。俺は何もしないからな」



 それから数か月後のことだった。魔王が俺を呼んだ。

「どうされましたか魔王様」

「今回は半人半魔族のミラについてだ。あいつと話したものからするととても人間らしく、将来魔族に脅威とある存在になるかもしれないという声が多数上がっている。

よって今回ミラを殺すことが決まった」


「待ってください。彼女はとても前線で活躍していて、人と通じているようには見えません。それに彼女は強すぎます。こちらにも被害が出ることが予想されます」

「心配ない。魔族の軍団をミラ領周辺に集め攻撃に入る」


 もう決定事項なのか。人と戦っている最中なのに同族に戦力を向けるとは馬鹿らしい思った。


 それからだ。ラルゲン侯爵に秘密裏に接触し、軽微な損害で緊張度を上げる合意をしたのは。そのかいあって複数の魔族軍をこの戦線に釘付けにすることが出来た。

 もっとも、ミラは魔族にではなく、人によって倒されてしまったわけだが。

魔族からも人からも標的とされた彼女はさぞ大物になったものだ。まるで世界が彼女の存在を許さなかったようにも感じた。


 それから私は魔族軍も魔王も信用できなくなった。

自分の行っていた戦争が本当は一部のものによって操作されている者なのではないかと思いだした。この場合魔王が有力だが。


 ラルゲン侯爵とは一時的にも秘密裏に協定を結んだ関係からか定期的に連絡を取り合うようになり両方が和平するにはどうしたらよいかと考えだすまでになった。

私は結局彼女の希望とやらに答えようとしだしたわけだ。いやはやとても過去の自分じゃ信じられないようなことをしてしまっているわけだ。

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