第37話 ノースランド

 休憩後2時間歩いてようやく目的地のノースランドに着いた。

「ようこそ。ここが北端の城塞都市であり、帝国の首都に次いで2番目に栄えている主要都市でもある」

 町の周りは壁に囲まれており、南北東西にそれぞれ周囲を監視するための大きな塔が壁に接続するように付いてある。


「これから、東の塔に向かう。付いてきてくれ」

 ジョセーヌの言われるまま私たちは塔を登った。監視をしていた衛兵が見えた。


「お疲れ様です。調子はどうですか」

「ジョセーヌさんお疲れ様です。

そちらの活躍は聞いていますよ。

なんでもエルフの集落に来た魔族たちを迎撃したりとか」


「ああそうだね。南の戦線では少し大変だったよ。

こっちの北の戦線はどう?」


 この大陸は中央にある魔の山脈を境にして、東が魔族、西が人や人に近い種族と別れている。

そしてこの両者が衝突しているのは西と東で行き来できる二つの領域、魔の山脈の南の端と北の端。

南はエルフのいた魔の森で小規模の小競り合いが起きている。

北はレーベル川を挟んでちょうど魔族と帝国兵が対峙している。

 今いる塔からはちょうどそのレーベル川が見える。


「こっちはただにらみ合いをしているだけですよ。

どっちも小規模な魔法や弓で攻撃しているだけです」 

 塔から見えるが、言われた通りどちらも川を挟んで整列しているだけだった。


「そうらしいね。でもこの戦況ももうじき変わる。それも劇的にね」

 そうジョセーヌが言って、塔を下った。


「さっき、言っていたことだけど何かするの?」

「こちらから仕掛けるんだ。

エルフの用いていた混合魔法などを幅広く運用してね」


 今度はジョセーヌが帝国兵の駐屯地へ向かった。ここは壁や塔の外側にあった。

多くの魔術師に弓兵、剣士に騎馬兵、帝国は長い間まがいなりにも北で魔族と戦闘を経験していた。

そこにこの帝国兵を引きている指揮官であるラルゲン侯爵がいた。

ジョセーヌと少し話した後全員に向かって話しかけた。

「ジョセーヌさんが来られた。内容はこの戦線に関する重要な内容だ。

心して聞くように」


「ラルゲン侯爵ありがとうございます。

帝国兵の諸君。私も師匠のロンメルと一緒に帝国に魔術師として所属していたのであなたたちの魔族の脅威を抑えている帝国の役割、そして痛みを理解しています。

北の戦線が膠着状態にあるのはレーベル川があるため、どちらも遠距離攻撃しかできないからです。

しかもその川幅が大きく、ほぼぎりぎり届くような状態です。

よってどちらかが土魔法で敵側までわたる土の橋を作ろうとしても、その橋だけを攻撃すれば侵入を防げます。

川幅がだいたい50m、魔術師の攻撃できる距離もだいたいそのくらいです。橋を25m作ろうが敵は後ろに25m下がれば50mの距離で橋を攻撃。

この時敵が橋の破壊を邪魔しようとしても対岸からは75mありますので攻撃できません。

この原因によって長らくこの川で膠着状態が続いてました」


 全員がしっかりと子の戦域の背景を聞いていた。

「いわばこの膠着状態が続いている原因は魔法や弓の射程にあります。

ならば圧倒的に遠距離から強力な攻撃を続けて、敵陣を粉砕もしくは川からかなり遠くまで移動させることができれば、川を渡れる橋を作り上げ敵陣地に侵入することができます」


「しかしそんな攻撃一体どうやって、もしかしてジョセーヌさんの魔術によって行うのですか?」

「いやそんな特定の個人に頼る戦術じゃない。戦争は個人の点からの攻撃ではなく、面での攻撃で決まる。

ここ数週間私は君たちに混合魔法について教える。

ここの魔術師にそれを行ってもらい超遠距離から攻撃を行う」


「その混合魔法とは何ですか」

「聞くより、見る方が早い。ソラ、ランちょっとこっちに来てくれ」


 私たち三人が帝国兵たちの前に集まった。

「ラン、ストーンボールを作ってくれ」

大きな岩の球を私たちの目の前で作っていた。

「ソラ、私が風魔法、君は火魔法を扱い爆発魔法であの大きな岩をスケルトンがいる対岸まで吹っ飛ばして」


 言われた通り行う。

三人の魔法によって吹っ飛ばされたストーンボールは対岸まで飛びはした。

魔物のスケルトンが数体吹っ飛んだ。


「ここの駐屯地から着地点まではおおよそ500m従来の魔法の飛距離の10倍だ。この魔法を私はキャノンと呼んでいる」

「すごい!だがいったいなぜこんなに飛ぶんだ」


「魔法には主に二種類に分かれる。

魔力を現象や物質に変換する変換魔法。物質や現象を魔力で操作して動かしたり変形したりする操作魔法だ。

例えば今までよく使われていた相手に大きな岩の玉をぶつける魔法ストーンボールは変換魔法の魔力で大きな岩の球を作り出し、操作魔法で宙に浮かし相手のいるところまで飛ばす。この時に相手のところまで魔力を用いて移動させているから絶えず魔力を消費する。

しかも魔法は自分の知覚できる近距離では扱いやすいが、自分から距離が離れるほど魔力を供給しにくくなる。この理由からだいたい50mまでしか魔法を扱えることができなかった」


 また今までの魔法の復習について話している。私もあいまいな理解だったからとてもためになる。

「だが先ほど行ったキャノンは自分の近くでストーンボールを作り出し、火と風の混合魔法で爆発を起こし得られた運動エネルギーによって飛ぶ。

今までの旧式の攻撃とは全く異なるのだよ。魔法は最初に土や火、風に変換させる瞬間にしか使わない。

移動に魔力を使わず、瞬間的な爆発エネルギーの推進力によって飛ばす魔法、これがこの戦争を終わらす鍵になる」


 周囲の帝国兵たちは歓声を上げた。

私でも劇的にこの戦争の体形が変わると思ってしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る