第10話 束縛系彼女。

ポートフォリオに載せるメイン部分が出来たので、後はチラシやショップカードを作っていく。

あの日の事が転機になり、今までとは色々なものが変わって見える。それは白井一馬も同じで、週明けには姉のところに校正を出していたらしい。


私の方は姉から連絡がきて、「校正用のPDF。タイムスタンプ付きで、これから送るメアドに入れてきな。お姉ちゃんからの大サービスだ」と言われたので、指示通り、姉の家に行く前のデータと、姉の指示で直したデータを送ると、暫くして、これでもかとPDFファイルが返送されてきた。


その数は10点もあって、中を見ると筆跡でもわかる。違う人が書いてくれた校正紙。


[はじめまして。赤字修正版は雨空の好みがモロに出てますね。僕なりに赤字を入れてみました。参考にしてください]


中にはそんなメモ書きが付いているものもあり、姉が何も言わなかった写真写りや色味を気にする意見や、文字のサイズ、文字量を気にする意見。文字色や書体を気にする意見なんかもある。


そこに入る姉からのメッセージは、[晒されたと怒るか、プレゼントと思って感謝するかは翠次第だ。営業さんを含めた現役8人と、校正者と部長様の赤字だ。活かしてくれ]で、恐れ多くて卒倒した。

詳しく聞くと、閑散期で余裕があるから暇つぶしにやってくれたという事だった。

私は感謝して、全てを赤字通りに直してみて、姉にお礼と共に返送をした。


就活は順調だった。

ポートフォリオさえ出来てしまえば、後はガンガン応募をして面接をする。


そんな中、必死に居残りをして、光お姉ちゃんのチラシを作っていた白井一馬と学校を出た時にトラブルに見舞われた。


「一馬!」


声の方には、若い女の人。

今ここにいるのは私と白井一馬。

そうなれば一馬は白井一馬になる。


「…四葉」

「なんで?早く帰るって、もう何日も帰ってきてないよ!」


凄く鬱陶しそうに女の人の名前を呼ぶ白井一馬。


「四葉にはそれ以上言われる事はないよ」


四葉と呼ばれた女の子は、私を睨みつけて「あなたなんですか?」と聞いてくる。


嫌な予感。

修羅場。


私は無関係です。

後はお若いお二人で。


そう言えたら良かったのに、白井一馬は迷惑そうに「先輩だよ。居残り仲間なだけ」と言ってしまう。


仲間。

ナカーマ。


面倒ごとのフラグが立った音がしたよ。


私は最大限の敵意を感じて、「はじめまして、六木翠です。二年生で、白井くんとは居残りでよく一緒になります」と挨拶をした。


相手の子は「青山四葉あおやま よつば、青い山に四つの葉です」とキチンと名乗った。まあ、目は睨んでいて、敵意はビンビンに漏れてきている。


名前がよくない。

二葉を思い出す。

なんか私は葉っぱが名前にある奴とは、うまくいかねーんじゃないかと思ってしまう。


「一馬がお世話になってます。でも、一馬は毎日居残りとかやめさせてますんで、今度見かけたら帰るように言ってください」


いきなり言われて、束縛系彼女?と思いながら、「んー、白井くん、彼女さんと帰りな。私とはいつも駅までだし、迎えにきてくれたんだしね」と言って、私は無害です。安全ですとアピールしながら先に歩くと、後ろから「やめてくれよ。六木先輩は何も知らないんだ!」と、初めて白井一馬の荒々しい声を聞いた気がした。



・・・



翌日から白井一馬を見なかった。

居残りもしていない。


そんな夏休み前。また嫌な事が舞い込んでくる。

二葉と五代が別れ、三橋が二葉の彼氏に戻った。


何やってんだよ。

就活しろよ。


ただ、二葉はご不満一色で歯切れが悪い。

普段なら聞いてないことまで話してくる二葉が黙っていて、その癖、話を聞かない私に腹を立てて絡んでくる。


だが、卒業制作の仲間にしてしまっている以上、落ちこぼれ街道を爆進中の二葉は、面と向かって私に敵対はしてこない。


「気になんないの?」


そんなことばかり言ってくる。


「なんない。卒業制作とかポートフォリオの方が大事」


そう言って、軽くあしらっていたら、二葉から説明してきた。


呆れてものも言えない。

それを大っぴらに教室で話す頭の悪い二葉。

聞いている周りはドン引きで、「六木さんもよく友達やれるよね」なんて陰口まで聞こえてくる。


本当、もう卒業。

だから卒業したら会いたくない。


今回は、二葉から振るのではなく、五代から振っていた。

しかも、それの理由を二葉に言わせると、川越のデートで、五代が自分じゃなくて私の撮影に着いて行ったのが悪い。

私がいると五代を独占できないから、すでにアッくんと呼び名を戻した三橋に私と付き合えとけしかけたのに、三橋を振った私が悪い。


そんなやり取りから不和が始まり、就活を理由に距離を感じるようになった頃、人生初黒星?五代から別れようと言ってきた。


五代は懲りずに二葉にアプローチをしかける三橋との仲、三橋をキープするように扱う二葉との仲、そこら辺が理由だったらしい。


五代は様々な事を広い視野で見て、最適解を出したんだと思う。



二葉は振る経験には溢れていたが、振られる経験はなく慌てた所に、三橋が「俺とどうだ?」ともちかけて、キープくんを本命に変えて延命し、夏に備えていた。


どうでも良かった。

それよりも、自分のポートフォリオが形になってくると、二葉はどうやって就活するのかの方が気になった。

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