第8話 酷評。

光お姉ちゃんはキッチンから戻ってくると、ザッと見て「んー…」と言う。

そして悩んだ顔で「一馬くんの方はよくわかんないけど、翠ちゃんの方は、綺麗だけど読むの疲れちゃうかな」と言った。


「その通りすぎる意見だな。流石は光」

「お姉ちゃん?」


姉は赤ペンを取り出すと、先に私の原稿にチェックを入れて行く。


「観光協会のパンフレットを見て【自分なら】で作ったな?情報が多すぎる。キャッチがデカいのに長いから、他のパーツの大きさがおかしくなって読みにくくなる。それに地図も細かすぎる。興味を持ってもらうタイプじゃなくて、旅のしおりになってるからよくない」


バシバシバシバシと赤字が積み上がり、自信がバッキバキにへし折れていく中、「だが、これだけやれれば一年目はいい。後はアタシの赤字をどれだけ反映できるかだな」と言う。


言われてみるとそんな気がする中、次は白井一馬のポスターになる。


「これはなんのポスターだ?」

「え?祝日の…」

「そりゃ、デカデカと書いてあるから見ればわかる。光にもわかる」


姉はそのまま「白井くんのデザイン力がいいのは見ればわかる。機能も使えてる。でもこのポスターで何を見せたいんだ?何をさせたいんだ?」と質問をしながら赤ペンで「これはなんだ?」と書く。


「多分、見る人は『この子はキチンと操作できている。機能を知っている』と思う。就職の制作物なら、その会社に採用されるが、コンペなら落ちるよ」


姉は言うなり「なんだこれは?」を量産していく。


これはなんだ?まみれになった原稿を見て肩を落とす白井一馬に、「だが、白井くんは一年生。翠よりも時間がある。今からこれだけ出来れば来年には賞だって狙えるだろうよ。まあ、アタシはそんなコンペは出た事ないからわからんけどな」とフォローを入れるのだが、白井一馬は「それじゃダメなんです。早くしないと」と言うばかりだった。


「よくわからん。だが、早く賞が取れるようになりたいのか?なら今日は夕方まで付き合ってやる。背中の荷物、マシンが入ってるんだろ?翠はアタシの赤字校正を指示通りに直してみな。白井くんには沢山のものをやらせてやる。手が早くないと折角の機会が台無しだ」


姉はお茶の支度をしている光お姉ちゃんを呼ぶと、「ユーイチに電話してくれ。ユーイチに人助けに興味があるだろう?と聞くんだ」と言い出す。


「お姉ちゃん?優一さんにはお姉ちゃんから電話してもいいのに」

「アイツはアタシからの電話をクレームの類だと思ってビビるからダメだ。早くしてやってくれ」


光お姉ちゃんは椅子に腰掛けてスマホを取り出すと、「優一さん?今平気?今日はごめんなさい。お姉ちゃんが人助けに興味があるだろうって聞いてくれって…」と言って、彼氏さんに連絡した時に、姉がスマホを奪い取ると「今日は悪いな。後進を育てるチャンスだったんだ。それでな、お前の動画のサムネールに使ってる画像、アイキャッチの素材なんかを貸してくれ。それが人助けになる!お前が人を助けるんだ!3分で頼む!」と言い出し、電話先からは「3分!?アップロードだけで終わっちゃいますって!?」と聞こえてきてしまう中、「おい、アタシはやれって頼んだんだ。返事は?」と姉が凄む。


「はい。わかりました」

「よーし、頼んだぞ!」


姉が「光、ケアは任せた」と言って光お姉ちゃんにスマホを渡して、光お姉ちゃんが「ごめんなさい。今度説明するね」と言って電話を切る中、姉はタブレットPCを操作する。


「白井くん。これは仕事だ。今からこの動画編集者のサムネール写真やこのアイキャッチ、このページ名のロゴなんかが届く。チラシと名刺を作るんだ。時間内で、今のマシンでやれる範囲でだ。後はアタシが前にやったお客様の会社の製品パネルを見せてやるから、自分ならでやるんだ。17時半締め切りだからな。仕事でやるなら、早く沢山やりたいなら時間を切って頑張るんだ」


なんだその無茶振りは?

私がギョッとする中、白井一馬は「はい!」と言ってタブレットPCを借りて動画サイトを観ている。


「翠、無茶振りとか私たちはまだ学生なんて思うなよな?翠も17時半に校了しないと間に合わないくらいだと思うんだぞ。作業開始だ。ちなみにお茶と茶菓子とケーキを食べないと恨むぞ」


更にやることが増えて愕然とする中、光お姉ちゃんは生来のいたずらっ子の顔で、「お茶が入りましたよー」と声をかけてきて、「えぇ!?」と思わず言ってしまった。

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