第7話 酷評コメントを貰いに行く。
夏休み前、コンペに出してもどうにもならない白井一馬は憤って焦っていた。
「まだ一年目でしょ?大丈夫だよ。マズいのは私だよ、就活に使えるポートフォリオが納得いかないよ」
自虐に思えるような言い方で、白井一馬の気持ちを紛らわしたかったが、「ダメなんです」と言って真剣な顔をする白井一馬。
その顔は男の顔でドキッとしてしまった。
ここで気がついたが、存外教科担任達は責任を負いたくないのか、「一年目にしては十分だ」と言うばかりで、役に立ってない。
それは私のデザインも一緒で、模倣以上になれていない部分、モヤモヤする部分にはコメントが付かない。
真剣な白井一馬を応援したくなっていた私は、本来それどころではないのに、「白井くん。酷評かもだけど、受けに行く?」と誘ってみた。
「え?六木先輩?」
「私の知り合いに、デザイナーではないけど、印刷物の制作を仕事にしてる人がいるんだ。デザイナー目線とは違う、実用面でのコメントで、しかも酷評で良ければだけど、行ってみる?」
私の提案に、白井一馬は前のめりで「よろしくお願いします」と言ってきたので、私は明日の土曜日に約束をしてから姉に連絡をする。
「大体なら、いきなりでもアタシはいる。家出でもなんでも言ってこい。前もっての連絡は邪魔だ」
そう言ってる姉なので、先に白井一馬と約束をしても問題ない。
パソコンルームを出て、姉のスマホに電話をかける。
仕事中だが「遠慮すんな。その代わりクソ電話なら許さん」が姉なので、堂々とかけると、6コール目で「どうした翠?」と言って姉が出た。
「お姉ちゃんにしかできないお願いがあるの」
「どうした?言ってみな」
私は自分のポートフォリオの事も、白井一馬の事も説明して、一度見て欲しくて、時間が押しているから明日行きたいと言うと、「任せろ。14時に来い。相手は男の子なんだろ?部屋掃除をさせろ。
光は下の姉。
「え?光お姉ちゃんいるの?」
「社会勉強で、アタシの家で家事手伝いをしている。奴も中々いい目をしてるから同席させる」
しばらく連絡をしていない間に、姉達も色々あるのだなと思いながらお礼を言い、白井一馬に現地集合で13時30分を指定する。
遠慮したり、慌てたりするかと思ったが、「ありがとうございます!六木先輩!」と言った白井一馬の顔に本気を見た気がした。
直後に、姉から[本番のつもりで校正紙を持ってこい。2部な。本当なら3部だが、今回は2部でいい]と言われて、白井一馬とコンビニでプリントをして明日を待った。
ちなみに、今更白井一馬と連絡先の交換をした私は、[明日よろしくお願いします。今回はありがとうございました]の言葉に何故か照れた。
翌日、姉の住む東十条の駅で待つ私と白井一馬の前に現れたのは、姉は姉でも光お姉ちゃんだった。
「翠ちゃん」と声をかけてくれて手を振る光お姉ちゃんは、頑張って歩いてきてくれたが、ヘルプマーク付きの杖をついている。
「光お姉ちゃん!?」
「うん。お姉ちゃんが、昨日の夜に帰ってくるなり、『今日の予定は全バラシしろ。彼氏にも有無を言わせるな。明日はアタシの言う通りに動け』って言い出して、もう、大掃除だよ。今もお姉ちゃんは『光、お迎えも光が行け。歩行距離を稼げ』なんて言われて頑張ったのよ」
なんとまあ。
光お姉ちゃんは一昨年、足の病気で手術をした。病気が見つかった時は見ていられないくらい憔悴して塞ぎ込む事もあったが、もう1人の姉が「アタシがいる!」とうるさいくらいに言って、外に目を向けさせて、それからは自分なりの道を見つけていた。
私はそこまでしか知らない。
だが、今再会した光お姉ちゃんはとてもニコニコキラキラとしている。
心配する顔の私に「無理をするとまた悪化するって言われてるから無理はしてないよ」、「杖は、あると安心して動けるから使ってるんだ。だから大丈夫よ」と言って笑う光お姉ちゃん。
私も驚けば白井一馬も驚いてしまい、簡単に経緯を説明しながら、姉の住まいに向かって歩くと、背中からマイバッグを出して「お茶とお茶菓子を頼まれたの。翠ちゃんはお煎餅よね?一馬くんは何が好き?遠慮しないでね」なんて言い出す。
おいマジか?と思ったが、スーパーマーケットで杖をつきながら器用にお茶とお菓子をカゴに入れてお会計をしてしまう光お姉ちゃん。
手を出そうとしても、「お姉ちゃんに『翠に頼るな。光ならやれる。アタシの期待を裏切るな』って言われてるからダメよ」と微笑まれてしまい何もできない。
手持ち無沙汰な白井一馬と協力してケーキを買って行くと、姉の住まいはエレベーターもない2DKの3階。杖をつきながら階段を上り、玄関ドアを光お姉ちゃんが開けると、腕組みをしたまま仁王立ちの姉がジッと光お姉ちゃんを見て、「ヨシ、やり切ったな。見事だぞ。ユーイチにも我慢させた甲斐がある」と言うと、私と白井一馬を見て「よく来た。上がんな」と言って招いてくれた。
私はユーイチが気になってしまい、挨拶もそこそこになるが質問をすると、姉が「ユーイチは光の彼氏だ。付き合って一年と少し。毎週会ってるから、家からの外出だと、母さん達がうるせー。だからウチに住まわせてる。以上。さっさとやる事やるぞ」と言い、私と白井一馬の荷物を見てニヤリと笑う。
目が合った姉は「よし、いいぞ」と言い、生活スペースに通されると、とても綺麗に片付いていて「綺麗だねお姉ちゃん」と言ってしまう。
「バカヤロウ。昨日の夜は戦争だ。光が大活躍だ。ちなみに、隣の部屋を犠牲に掃除したから、隣は魔境と化した。翠が帰った後はまた戦争だ」
姉はそう言うと「光、茶と菓子、2人の土産の用意を頼む。だがまだいらん」と指示を出して、光お姉ちゃんは素直にキッチンへと行く。
「挨拶からだな。アタシは
姉の挨拶から、白井一馬は挨拶をするなり、鞄からポスターの原稿を出して「お願いします」と言って出した。
ニカっと笑った姉は「よし、翠と遊びたいとかゴミみたいな事を言いながら、理由づけに来たならぶん殴るが、キチンと原稿を出したから本気なんだな。翠も出しな。見てやるよ」と言って私と白井一馬の校正紙を見た。
「成程、翠はパンフレットで、白井くんはポスターなのな」
姉はそのまま頷くと、「光、先にパッと見て意見してくれ」と言った。
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