第3話 愛と友情。
川越デートは歪さを極めていく。
五代と二葉、2人で見て、2人で完結していればそれなりの相性だが、三橋と二葉の方が相性良く思える。
現に、二葉は三橋とカフェで呪文のようなメニューを唱えて、甘いコーヒーが出てくるのを待っている。
外でブラックコーヒーを片手に私の横にいるのは五代だ。
「どう?撮れてる?ポートフォリオに使うんでしょ?もし撮れてなかったら、ばらける事も二葉に言うから言って」
気遣いの五代は私の写真の撮れ具合を気にしてくれる。
そう、そこが二葉とは合わない。
二葉と三橋は周りを気にせずに、今も見る人が見たら恋人同士に見られる姿をしている。
私がチラッと二葉と三橋を見たからだろう。
「2人は別行動を悪く言わないよ。それとも、アカネの友達の俺が二葉と付き合った事…、それか…、今アカネと二葉が2人でいる事を見逃してる事が気になるかな?」
図星だった。
「全部」
「あはは。全部か…、そうだね。別行動なら六木さんと二葉は好みが違うから、ポートフォリオの撮影って言えば、何処かでのんびり休みたいって言うから平気さ」
まあ、それは私も思う。
二葉は本当に怠惰に磨きがかかった。
教師達も脱落者が出るのは困るのか、…困るのだろう。就職率だのなんだの説明会の時に熱く語られた。なのでデカい成績をくれる提出物は2人から6人のグループ制作にされていて、二葉のような寄生する怠惰タイプは名前だけ載せて来て遊んでいる。
私が二葉と組むのは、二葉が私に丸投げで、私は心のままにデザインが出来るからだ。
「次だね。俺、モテた事ないんだ。女の子から『付き合わない?』なんて言われたのは、今回が初めてでさ、アカネと友達だよ?って聞いたら、『何それ?知らないよ。私と付き合えるかで考えてよ』って言われたんだ」
なるほど、初彼女にするのは毒にも薬にもなる女、それが黒川二葉。
毒な部分は、色んな男の手垢がついた恋愛マスター(笑)。だからこそ、初めてが二葉で落ち込むところも沢山出てくる。戦歴を誇るように人前でも下品に語る。それはかつての男達の影響。
「なあ、俺のがキス上手いだろ?」と聞いた高寺武史、それに染まり「うん。ヒデオより上手いよ」と答えた二葉は、それ以降の男に平気で「ヨシノって誘い下手ー。もっとストレートに誘ってよ」なんて言うようになっていた。
薬になるのは簡単だ。
限度はあるが、性に奔放な二葉なら、大概のことは受け入れる。
こんな付き合い方をしてみたかったというものがあれば、二葉なら叶えてくれる。
お上品な付き合い方は無理だろう。
人は一度下品を知ると、上品に戻るのは至難の業だ。
頷いてしまう私を見て笑った五代は「最後だね」と言う。
「アカネと俺は高校で知り合った友達で、親友だと思ってる。それくらい3年間を一緒に生きたし、なんでも話したし、なんでも話してもらった。だから二葉に告白された日、一番にアカネに言ったし、アカネも付き合った報告も別れた報告もくれていた。アカネは祝ってくれたし、悲しくて泣いていた。それでもアカネとの仲は潰したくなくて、この形を求めた。アカネは『まだ未練が残るから、前みたいに近寄るぞ』って言ったけど、俺はOKしたし、二葉にもアカネとの仲を続けてOKなら付き合うと返事をしたよ」
壁に寄りかかりコーヒーを飲む五代。
なんか無茶苦茶な事をしてるなと呆れてしまう。
呆れながらも、成程なと思ってしまう。
「ねぇ」
「何?」
「愛ってあると思う?」
「哲学だね。今俺が二葉に感じているもの、アカネに感じているもの、それらは何もかもが違うけど、でも総じたら愛なんじゃない?」
「なるほど。友情ではないのか、ありがとう」
五代は「ふふ」と言ってから、「六木さんは本当に真面目だ」と続けて笑った。
別に真面目じゃない。
お前らが不真面目なんだ。
・・・
カフェの後、痩せマッチョな五代は若干不貞腐れながらポートフォリオの撮影に協力してくれた。
痩せマッチョと呼ぶのには理由ができた。
五代は呪文を唱えて手に入れた長い名前のコーヒーを持ってきた二葉に、「六木さん、もう少し写真撮りたいって。歩ける?」と聞くと、二葉は嫌がる。
「六木さんを1人にはしたくないよね。アカネ行ける?」
待て、嫌だ。
1人がいい。
私が嫌がるよりも先に、「えぇ?俺も疲れた」と言う三橋。
お前は二葉といたいだけだろう?
KY三橋は「コウ、お前は?」なんて聞く。
空気を読め。
お前と二葉はもうお別れしてるんだぞ。
五代は何を思ったのか、二葉の許可を貰って私の撮影についてきた。
こうなると遠慮する方がお互いに損をするので、気にせずに川越の景色を写真に収める。
五代は「撮れた?」とは聞くが、撮影を急かさない。
人の切間を待っていても嫌な顔はしなかった。
そんな中、どうしても納得のいかない写真が出てきた。
上からやや俯瞰の写真が欲しい。
私が作りたいモノを意識したが、一般的な身長の私には無理がある。
やはり依頼をもらっていたり、観光協会なんかが撮った写真は、良いものが多いし勝ち目はない。
唸る私に「カメラ貸してみて」と五代が言い、心の底から嫌な気持ちでカメラに謝りながら五代に貸す。
高身長の五代が撮った写真は、確かにやや上だが欲しいモノではない。言葉にできる自信もなくて唸ると、「六木さん、我慢してね」と言った五代は私を持ち上げてしまう。
苦しそうに「早く撮って」と言われて、慌てて撮るとややコレじゃないが、一番上手く撮れた。
「撮り直す?」
そう聞かれても、あの苦しそうな声と、脇腹に触れられた手を思うと、「平気、ありがとう」としか言えない。
「私、重くない?」
「人間って独特の重さがあるよね。アカネとやった引越しのバイトの方が楽だったよ」
これにより五代は私の中で細マッチョ五代になった。
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