第11話
俺は天井をしげしげと見まわす。知らない天井だ。
ああ、昨日の事を思い出して、納得する。ここは酒場の2階、確か207の部屋の筈、店の名前は知らない。随分寝てしまったようだ。窓の外は結構明るい。
部屋は片付いている。盾はいつもどうり手にくっついているし、短剣もある。金もちょっとあったし、どうやら酔っ払ってそのまま寝たようだ。
時計は無いが、さっき薄っすらと鐘の音が聞こえた気がしたので、鐘の音が時計がわりなのだろう。
とりあえず下に降りて見る。マスターはいないようだ。奥さんが昼の仕込みでもしているのだろうか?
「すみません、お水もらえますか?」
「え、ああ、昨日のお客さんだね、ちょっと待っておくれ」
仕込みの手を止めて、俺の為に水を用意してくれた。
「作業を中断させちゃってすいません」
「いいのよ、慣れたもんだから、それより良く眠れたかい?」
「はい、お陰様で」
「なんだかしっかりとした子だね、ウチの子なんて全然挨拶も出来やしないのよ、あなたお名前は」
「ゆうやです」
「ゆうや、珍しいお名前ね、夕方から夜の間に名前を付けたのかもしれないね」
「…確かにそうですね、こちらのお店、名前はなんて言うのですか?」
「カーリーの酒場よ、カーリーはウチの旦那、昨日変なヤツが来たって笑ってたわよ、私はノーラよ!ゆうやさん。今夕方の仕込みを始めちゃったから何も出せないけど正門近くの市場に行けば何かあると思うわよ」
「ありがとうございます、また寄らせて頂きますね、あと昨日の小さな女の子は居ないですか?兄さんからの預かりモノがあって」
「…それならリリィちゃんね、夕方にはまた来ると思うわよ」
再度お礼言いカーリーの酒場を出た。とりあえず腹ごしらえがしたい。
匂いに釣られて市場はすぐに見つかった。皆んな夕飯の準備に買い物をするのだろうか?ここでは昼間は贅沢なのかもしれないな。いや軽食なんかが結構売っているので、適当に済ます感じなのかもしれない。
何かの肉の串を二つと、野菜炒めを買った。700ベリーしたが、たったゴブリン二匹分なのでそんなもんかと思う。
ベンチなどなかったので、歩きながら串の肉をほうばった。ギルドに行くのがお約束だよなーなどと思っていると、俺の後を付いてくる気配がする。
自然と路地を曲がり、すぐに壁に寄りかかって野菜炒めを食べる。すると足音が近づいてきてガバっと顔出す追跡者と目が合う。
「何してんの?」
「…い、いや、間抜けそうなヤツだったから、騙して金でもせしめるか、飯でも奢って貰おうかと。…って、俺何言ってんだ⁇」
「知らんがな」
「…俺はいつか大物になって、皆んなを見返してやるんだ」
「肉食うか?」
「…へ、く、くれんの?」
「ありがとうって言ったらな」
「…ありがとう!!」
素直になった少年はロジャーという。俺の鑑定で見たので間違いはない。なんだかとても大物になりそうなヤツだ。正直羨ましい。背は俺の頭二つ分くらい低いので10歳前後だろう。
ギルドや教会やいろいろな店の場所や情報を教えてもらって、1000ベリーを渡した。決して善意ではなく、将来の大物に恩を売っておく為だ。
「教会に住んで無いの?」
「スラムで家族と住んでいる。まだギルドにも入れないから、いろいろな店に頼んで雑用をさせてもらっているけど、なかなか無いから」
「マリアさんは知ってる?」
「教会のマリアさんは有名人だよ、とっても綺麗なんだ。だけど人気があって忙しい人だから、俺も遠くでしか見た事がないんだ。なんでマリアさんの事を聞いたの?」
「ああ、俺の友達が教会に住んでたようでマリアさんの知り合いなんだよ、そいつの盾を見てもらいたくてな」
「そうなんだ。なんか困り事があれば俺に言いなよ!まだ街の外には出られないからこの辺をフラフラしているわずさ!」
「お前に助けて貰おうとは思わんが、何かあれば大物のロジャー君で探して見るわ」
「「はははは」」
別れ際、ロジャーは少しだけ不思議そうな顔をしたが、何が不思議なのかわからないようでいい出さなかった。
俺は腹ごしらえも済んだし、防具屋を見てからギルドに行く事にした。行き当たりばったりに行動するのは楽しい。
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