第10話

ビルフォートの正門の手前にキャラバンがいた。


丁度いいので、魔石を換金する。


「ひとりで旅をしてるんでゲスか?」


キャラバンの商人が聞いてくる。


「ああ、不自然か?」


「いいえ、お強いんでゲスね」


「まあな」


「最近はこの辺りもゲスな野党や変わったモンスターまで出て来てるようでゲス」


「ゲスゲスうるさいな」


「すみませんでゲス」


「いや、いい、ごめん」


「色をつけて5万ベリーで如何でゲスか?」


商人の目を覗いて見るが、ここで揉めても時間の無駄だ。


「ありがとう」


「変わった人でゲス、あなたの道程に輝きがありますように、でゲス」


鐘が鳴り、そろそろ門が閉められてしまう。少し速足で受付に並ぶとすぐに憲兵が対応してくれた。


ビルフォートの街に入るには千ベリーかかるようだ。今の俺様には余裕である。冒険者ギルドに入ればそれもタダになるらしい。お勧めの宿なんか適当に聞いて、旅慣れた風を装う。


旅の途中でおかしな事はなかったか尋ねられた。何も無いと答えようとしたが、アイツに恩でも売っておこうと、


「もしかしたらゾンビに助けられてたかもしれない、うーん、気のせいだな」


「ゾンビ⁈またゾンビか、うむ、ありがとう助かった。あなたの道程に輝きがありますように」


なんかいろいろケビンはやらかしているのかもしれない。そして俺はその当事者なのかもしれない。なるべく目立たないほうがいいな。


正門を難なく抜け、今晩の宿を探す。ふと頭巾を被った女の子に目がいく、決してストーカーではないし、小さい子が好きな訳でもない。女の子は冒険者達御用達のような酒場に消えた。宿屋も兼務してそうだ。


俺は静かに酒場に入り、カウンターに座る。ガヤガヤとうるさい店で、繁盛してそうだ。


マスターらしき人が俺に気づき、オーダーをとる。


「この店のお勧めとなんか冷たいヤツ、そして空いてたら部屋も用意して欲しい」


「7500ベリーだ」


「ああ、…あるのか?じゃこれで」


「207の鍵、今日のお勧めは若鶏の煮込み、そしてビール」


ちょっとかまして言ってみたかった冷たいヤツは本当に実在した。異世界にもあるんだね冷たいビール。俺は16歳だが頼んだ手前、冷たいビールってヤツをちびりと飲んだ。冷たいモノに飢えていた俺はこのビールというヤツが不思議とあったようだ。「苦味と炭酸の辛みが冷たさで緩和され、食道を冷やし、胃の奥を温め。若鶏の煮込みも柔らかくはあるが弾力もあり、俺好みだ。更にこの出汁はなんだ。まるで味わったことの無い旨みが溢れ出す。ここは天国か? マスター!ビール追加だ」


「ごちゃごちゃ五月蝿い!もう顔も真っ赤だ。早く寝ちまえ!!」


俺は久々のベッドを堪能して、朝までグッスリと眠った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る