中層攻略戦

第15話 開幕



 大陸の中央に位置する大穴――"魔窟"。

 そこは一から九までが段階的に層となっており、中層に該当するのは四層から六層。


 四層から六層までが迷宮のように複雑に絡み合い一つの形を成しており、全てのフロアボスを討伐して、核である〈魔晶石〉を奪い取るか破壊する。

 そうすれば攻略を失い、フロアは機能を失う。


 今回資格を得たのは二人の『勇者』とその同行者。

 〈魔晶石〉は国力となる。

 つまりこれは、北の『勇者』と東の『勇者』の奪い合いなのだ。


 しかし――


「あの、オーラム様。先に続く道は確保されておりますが、いかがなさいますか?」


「仕掛けるタイミングはオレが決める。オマエたちは待て」

 

 四層、機能不全。

 役割を果たした階層。


 即ち、フロアボスの討伐が既に為されていた。

 誰がそれを成し遂げたのかは分からない。

 しかし、オーラムにとってはどちらでも良かった。


 四層に駐留するのが、オーラムに取っての目的であったからだ。



「で、状況はどうなってる?」


「五層に北の『勇者』――キース・ヴァレンシアを視認しております」


「ああ、オレも感じるぜ。微かで揺れる、不安定な魔力。予想通り敵じゃねえな。わざわざ情報をばらまく必要も無かったか」


 オーラムは見たこともない『勇者』にそう評定を下し、自身にとっての脅威に成りえないと判断する。


「そして、六層の方ですが……。暗闇が深く確認が難しいですが、魔力反応からして件の人物ではないかと思われます」


「くくッ! そうか、やはり来たか! ――ラルカ・ルーヴェスト!!」


 オーラムは資格を持たない者でも、例外として彼女だけを受け入れるように伝えた。

 それが彼にとっての標的であり、もっとも楽しめる玩具――ラルカ・ルーヴェスト。


「お前ほど、オレにとっての人生の絶望はねえよ! 足掻いてもがいて、オレを楽しませてくれよ?」


 ハンモックに横たわり、高々と嗤うその様子を見て。

 近衛兵、副団長グリム・ホービットは隣の人物に耳打ちする。


「団長、良いんですか? あんなの」


「仕方あるまいさ」


 未だに傷が癒えていない騎士団長――レグルス・カインバードは苦虫を噛み潰したようにこぼす。


「俺達はどこまでいっても、使われる駒なんだから」


 ラルカ・ルーヴェストに失望され、見ず知らずの貧民街の男に打ちのめされた。

 そしてレグルスは、考えることを辞めたのだ。


 ◆◆◆



 五層。

 

 終わりの見えない道の中で、北の『勇者』――キース・ヴァレンシアは焦りを隠しきれなかった。


 狭い空洞に、至るところから魔物が襲いかかる。

 加えて、それらは通常よりも獰猛で手強い。


 ゴブリンやワーウルフなどの、見知った魔物にも苦戦を強いられる。

 時間が経つほどにジリ貧になるのは見えていた。


 そこから来る焦燥。

 加えて、前情報の齟齬があった。


「クソ! 情報が違うじゃないか!」


 五層は広い視界で、途中までは攻略されている。

 後は『勇者』が、フロアボスを倒すのみだと。


 要するに、お膳立てをされた状態だと。

 それが参加する、後押しの一つだった。


 エレインは眉を寄せ逡巡する。

 そして、一つの可能性を汲み取る。


「私達は、騙されたかもしれない」 


「は? どういうことだ!!」


「嘘の情報をばらまいて、おびき寄せられたかもしれない。東の連中に」


 なんだと?

 そんなことは有り得ない。


 エレインの発言に、リナが疑問符を浮かべる。


「四人の『勇者』は協力し合うはずじゃないの? なんでそんなこと……」


「建前だとそうだ。でも実際は違う。協力なんて更々する気はない。とはいっても、わざわざ潰しに来るような真似は想定外。国家間の問題になりかねない」


 四人の『勇者』は力を合わせ、魔物を打ち倒すと印されていたはずだ。

 表面上では、僕も敵対するような真似をするつもりなどなかった。

 それを東の『勇者』は、破ったのだ。


 筆舌に尽くしがたい、愚弄だ。


「……神に対しての、裏切りだ」


 目の前のサーペントを、真っ二つにしながら言い放つ。


「まずはここを突破し、〈魔晶石〉を手に入れる。その後に、東の『勇者』は断罪する。僕を騙したらどうなるのか、思い知らせてやるよ」


 許されない禁忌を犯した礼は、たっぷりしてもらうぞ。

 キースはそう決心して、その道を進んでいく。



 ◆◆◆


 六層。

 辺り一面の暗闇。


 並の人物なら、この状況で進む選択肢は取れない。


「真っ暗ね、でも……」


 ここに来たのが私で良かった。

 なんて言ったって、この状況は私にとってお誂え向きだから。


「『発光サンライト』」


 最初にたどり着いたのは、ラルカ・ルーヴェスト。


 属性魔術の中でも珍しい、光属性の使い手。

 彼女は螺旋状の階段を下り、四層から六層へとたどり着いた。


「それにしても、暗いのはどうにもならないわね」


 暗闇は深く、『発光』をもってしても周辺を照らすのがやっと。

 ただ丁寧に、冷静に階層の全体像を頭の中で組み立てていく。


「風が強くなってきた。フロアボスはもうすぐ……ってことよね」


 怖いという思いはある。

 けれど勇者になるために、進まなければならない。


 三者三様に――

 こうして、各々は思惑を巡らせ動き出すのだった。






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