第29話 きみひこ2

 太刀原霊山、名前は男っぽいが、女性の霊媒師である。


「先生、今日はお願いがありお電話させて貰いました」


「吉永さんから今日、連絡が来ることは分って居ました」


 この前の木村の時と同じだ、今日正雄から連絡が来ることは、事前に守護霊から聴かされて居たと言う。


「そうですか、じゃあ、あのぉ……」


「吉永さん、まず初めに言っときますね。ハッキリ言いますが、キリがありませんよ」


「え?」


「確かに、きみひこちゃんは可哀そうだけど今この世の中に、きみひこちゃんみたいな霊は沢山居ます。 貴方はそんな霊を呼んじゃう体質だから次から次に来ます、それを一々他人に除霊を頼むのはキリがない事ですよ」


「はい、でも先生、私にはどうしてやる事も出来ないのです」


「そんな事はないですよ、貴方にはちゃんとその力が備わっていますよ。只その力の使い方が解らないだけです」


「じゃあ、どうやれば良いのでしょうか」


「それは自分で考えなきゃダメよ、どうせ私のやり方と貴方のやり方は違うはずだから、私のやり方を教えても意味の無い事よ」


「そんなモノなのですか」


「自分のやり方を確立しなさい、きっと貴方は出来る様になります。頑張りなさい」


 そう言われ太刀原霊山の電話は切れた。


 自分のやり方を確立するか……そう言われても正雄には見当も付かない。


 しかし、きみひこを成仏させてやりたい。


 きっと今日の夜も来るはずだ。


 何か手掛かりは無いモノだろうか。


 太刀原霊山は守護霊を使っているけど、正雄の守護霊はどうだろうか?


 いや、きっとダメだろう。


 あれ以来一度も現れた事は無いし、何となくあのおっさんは苦手だ。


 じゃあどうする?


 考えた結果、やはり自分が死んで居る事、成仏しないといけないのだと根気強く教えて行くしかないだろう。


 しかし、成仏など正雄自身も良く分からないのに、どう説明するのだろう。


 堂々巡りの状態のまま、また夜が来る。


「お兄ちゃん来たよ」


 いつもの様にきみひこが満面の笑みを浮かべてやって来た。


「きみひこ、今日はちょっと難しいお話しをしようか」


「むずかしいおはなし?」


「まずきみひこ、今の生活で何かおかしいなと思ったことはあるか、いつもと違うなと」


 暫くきみひこは考えて居た。


「おとうさんとおかあさんがいない」


 ヤバイ、両親の事を思い出させてしまった。


 きみひこは泣きそうな顔になった。


 しかし、ここで辞める訳には行かない、きみひこの為だ。


「お父さんとお母さんはいつから居ないの? 居なくなる前に何かあったか?」


 泣きそうな顔になりながらも、何か思い出そうとして居る。


 がんばれきみひこ!


「おおきなブーブーがピカってなった」


 成程そう言う事か、きみひこはきっと交通事故で命を落としたのだろう。


 おおきなブーブーと言うのはトラックの事だろう。


 可哀そうだが、ここからは心を鬼にしないといけない。


「きみひこ、お兄ちゃんの話を良く聴くのだぞ。 きみひこは、そのおおきなブーブーに引かれて死んじゃったのだよ」


「いきているよぉ~、手も足もうごく~」


 きみひこは、昨日と同じようにまた、両手足をヒラヒラとさせた。


 その可愛い動作を観て正雄は泣きそうになった。


「違うよ、きみひこは死んじゃったのだよ、だから、お父さんとお母さんに逢えないのだよ」


 とうとうきみひこは泣いてしまった。


 俺は5歳の子供に、なんて残酷なことを言って居るのだろう。


「きみひこは死んじゃったから、天国に行かないとダメなのだよ」


「いや~いきたくない~おうちにかえる」


 きみひこ分ってくれ、いつまでもこんな所に居てはダメなのだ。


 きみひこが居なくなるのは寂しいけど、ここに居てはダメだ。


 何の罪も無いのに、きみひこは成仏して幸せにならないとダメだ。


 ここに居ては両親とは逢えない、成仏すればいつか両親とも逢えるはずなのだ。


 分ってくれ、きみひこ。


 正雄は、泣きじゃくるきみひこを抱きしめて心の中で念じ続けた。


「お兄ちゃん、てんごくに、いく」


 さっきまで泣いて居たきみひこが、何かを決意したような顔付きで言った。


「お兄ちゃん、てんごくに、いく」


 きみひこは、もう一度同じことを繰返した。


「てんごくにいったら、おとうさんとおかあさんにあえるんだよね?」


「うん、いや、後から来る」


「じゃあ、きみひこ、てんごくいく」


「天国場所分かるの?」


「お空でしょ、光っているよ」


 心で念じた事が伝わったのだ。


 どうやったのかは覚えてないが、心に語り掛けると言うヤツだ。


 きみひこは分ってくれたのだ。


「わぁ~、いっぱい光っているよ~」


 正雄にはその光は観えなかった。


 きみひこは成仏しようとして居る。


 それは正解のはずだ。


「お兄ちゃん、ありがとう」


 きみひこの身体が段々薄くなって行く。


「お兄ちゃん、ありがとう」


 きみひこは、最後は消えて居なくなってしまった。


 本当に成仏出来たのだろうか。


 天国と言う所が本当に存在するのかは、分らない。


 しかし、天国は存在してきみひこはそこに行ったのだと思いたい。


 知らず知らずのうちに正雄は除霊と言うヤツをやってのけたのだろう、だけどもう一度やろうと思っても、出来る自信がない。


 部屋の隅には、きみひこの為に買ったおもちゃが転がって居た。

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