第30話 女の子の霊

 きみひこの時にやった除霊だが、結局あの一回だけで後は成功していない。


 何度か試みたのだがダメだった。


 佐代子にも試みて見たが、「無視しているのか」と怒られてしまう始末だった。


 結局あの時は、純粋な気持ちできみひこに解って貰いたいと思った。


 そんなピュアなパワーが働いたのだろう。


 雑念が混じって無いから、直接心に語り掛ける事が出来た、そんなところだろうか。


 どうでも良い事だが、さっきからスイッチをオンにしているのだが電気が付かない。


 電気代は払っているので止められる事は無いのだが……


 疲れて仕事から帰って来たところなので、電気が付かない状態と言うのも困るなぁ。


 そう思って横を向いた瞬間ビックリした。


 女の子が背中を向けて座って居るのだ。


「おわぁっ!」


 真っ暗な部屋に独りで座って居たのだ。


 勿論人間では無いだろう。


 まだ心臓が早鐘を打っている。


 霊には慣れたつもりだが、こんな登場のされ方だと流石にビックリする。


「なになに、何の用よ」


 すると女の子の霊はゆっくりとこちらの方を向いたのだが、またビックリしてしまった。


 顔が無いのだ。 顔の部分が真っ暗だ。


 その瞬間電気がバチッと大きな音を立てて点いた。


 女の子の霊は消えて居た。


「なんやねん!」


 思わず正雄は自分自身に突っ込みを入れてしまった。


「おいおいマジ勘弁、こっちは仕事で疲れて帰って来たばっかりやで……」


 電気も大丈夫かな、変な音がしていたけど。


 こいつら(霊のこと)本当に意味が解からない。


 用があるなら普通に出てくれば良いじゃないの、それもあんな登場の出方をしといて、どうやら用は無さそうやし。


 もしかしたら、俺を驚かそうとしていたのかもしれない。


 霊の中には人間を驚かして喜ぶヤツも居ると言う。


 何十年、何百年とこの世を彷徨って居れば、そんな考えに成るのかも知れない。


 それにしても今日は疲れた、早めに眠る事にしよう。


 昨日は結局眠りに付いたのは十二時を過ぎて居た。


 人間疲れ過ぎると中々眠れない。


 寝不足のせいで仕事場では凡ミスが続き、工場長から大目玉を貰ってしまった。


 お陰で残業をする羽目に成ってしまい、体力的には限界が来てしまいそうでヤバイ。


 アパートに着くころには八時を過ぎるだろう、外はもう真っ暗である。


 やっとの思いでアパートに帰り着いて、電気を付けようとスイッチを入れるが、また点かない。


 部屋に入った瞬間から分かって居た。


 こちらに背中を向けて女の子が正座して座って居るのが観えたからだ。


 何なのだろうこのガキは、正雄をビックリさせたいのだろうか?


 それとも何か意味があるのだろうか?


 女の子の霊がゆっくりとこちらを振り向こうとして居る。


「コラッ!このガキ、何の用や!」


 正雄は大声で怒鳴り散らしてやった。


 その瞬間、女の子の肩がビクッとなって居た。


 いきなり大声を出したのでビックリしたのだろう。


 こちらを振り向きもせずに消えた。


 ビックリして慌てて消えたようだ。


「幽霊もビックリするんやなぁ、肩ビクッなっとったわ」


 驚かしに来といて、逆に驚かされて逃げていった。


 人間を驚かそうとして色々試行錯誤して、こいつら(幽霊のこと)も大変なんやなぁ、そう思ったら考え深いモノがある。


 暫くするとバチッと音がして電気が点いた。


「おわっ!こっちの方がビックリするわ、あのガキきっと何処かで笑いよるんやろなぁ」


 結局はまんまと驚かされてしまったが、正雄は女の子の霊を許してやろうと思った。

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