第4話
平手を食らった夕方。
森の恵みである林檎を抱え家へ帰っている最中に、ずっと疑問だったことを聞いてみた。
「魔法を使えば護衛なんて必要なかったんじゃないか?」
「ふむ。そうじゃな。そろそろお主には話しておくべきか」
「なんだ?」
林檎を落ちないよう抱え直し、続く言葉を待つ。
真剣な眼差しの紫紺の瞳から目が離せない。
「魔法は、命を削る」
「は……?」
語られた事実に、持っていた林檎が散らばった。
「ちょ、ちょっと待て。命を……?」
「そうじゃ。この姿をしているのにも理由があるんじゃよ。魔法を使うなら若い方がいい」
「どういう?」
「ふふっ。乙女の秘密じゃ」
「はぁ!? 教えろよ」
「やーじゃ。さて、
落とした林檎を浮かせたアウローラに目を剥く。
「っおい! 今、命を削るって言ったところだろ!? 林檎ぐらい俺が……!」
「よいよい」
「よくねぇ!」
「今日はタルトタタンでも作ろうか? それともアップルクーヘンがいいかの?」
けらけらと笑いながら先を行くアウローラを追いかける。
林檎と共に先を行く彼女に大きなため息をついた。
幼女のくせに歩くのが速い。大柄な男の俺ですら駆け足でないと追いつけないほどだ。
「いつも思うが、速すぎるんだよ」
「ほぉ? 遅くするか?」
試すような目を向けられ、むっとする。
「いい。ついて行ける」
「ふふっ。
アウローラが目を細め笑った。
彼女と暮らし始めて分かった事がある。
彼女が目を細め笑うのは、森に侵入者が入ってきた時だけだ。
最初は器用なやつだと思ったが、今では分かりやすい合図だと関心している。
「……行ってくる」
「頼んだぞ」
「あぁ」
アウローラは案外優しい。
迷い人であれば森の出口まで案内しろと言うし、盗賊であれば二度と悪事ができぬよう懲らしめるだけ。
けして命までは奪おうとしない。
──愛いやつなのはどっちだよ。
時を共にするうちに、俺はアウローラを手放したくなくなっていた。
世間知らずの彼女を俺が守らねば。
この感情までもが魔女の手のひらの上なのであれば、俺は道化でいい。
森に迷い込んだ男を街まで案内し、家へと帰った。
「おかえり。アップルパイが出来ておるぞ」
柔らかな笑顔を向けられ、温かな気持ちが胸を包んだ。
「ただいま」
◇◆◇
俺は久しぶりに街へと出て来ていた。
もちろんだらしがないと言われた髭を剃り、最低限の身なりを整えてから出て来た。
──パンは買ったし、肉も買った。野菜も少し調達したし、塩も砂糖も買った。買い忘れは……ないな。
森の獣を狩るのにも限度がある。ストックが沢山あった調味料も底をついた。
そのため街へと買い物へ来たのだ。
しかし、なんだか街の様子がおかしい。
──……なんだ? やけに兵が多いな。なにかあったのか? これは早く帰った方がよさそうだ。
辺境の街ゆえに兵が常駐しているのは理解が出来る。
しかし、いささか数が多すぎる。
まるで今から何かを討伐に行くかのようだ。
道行く兵を横目に、彼らの横を早足で通り過ぎる。
早足で歩いていれば、ヒソヒソと小声で話す主婦の声が聞こえてきた。
「あの森に魔女が隠れ住んでたみたいよ」
「聞いたわ。魔女だなんて……嫌ねぇ」
アウローラの存在がバレた!? 一体どこから……!?
「領主様が討伐隊を送ったらしいわ」
「そりゃそうでしょうね。魔女なんて、汚らわし――」
全てを聞く前に俺は走り出していた。
抱えた紙袋全てを放り出す。
パンや野菜が散らばるが知ったことか。
全身全霊の力を込めて走る。走る。
──無事でいてくれ!!
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