第3話
アウローラと暮らし始め一ヶ月が過ぎた、ある日の夜。
久しぶりに酒盛りをしようと、机の上を酒瓶を出した。
月を肴に飲もうと窓際の椅子に腰を降ろす。
「アウローラ。バレてんぞ」
寝室から音も立てずに出てきたアウローラが、びくりと肩を揺らした。
──気配を消してるつもりなんだろうが、バレバレなんだよなぁ。そこが子供らしくて可愛いんだが……。
寝室から姿を現した彼女は開き直ったのか、堂々と俺の側へ寄ってくる。
とてとてとローブを引きずって、彼女はちょこんと俺の足の上に座った。
可愛さに緩みそうになる口元を抑え、それを悟られまいと厳しめの声を出す。
「おい。子供は寝る時間だ」
「酒を飲むんじゃろう? 妾をにも注いでくれ」
「出来るわけないだろ。酒は大人の特権なんだよ」
「いつになったら妾が子供ではないと理解するんじゃ」
「はぁ? いつまで経っても子供は子供だろ?」
俺を見上げる少女は事あるごとに自分は子供ではないと言ってくる。
小さな子供はすぐに死ぬと聞いていた。
そのため、風呂に一緒に入ろうとすれば服を着ろ! 入ってくるな! と、烈火の如く怒られた。
料理を変わろうとしたら、このぐらいお茶の子さいさいじゃ! と豪華な料理を出された。……とても美味しかった。
ちょこまかと動き回る彼女に、俺の側から離れるなと怒った事もある。
「妾は一人前のレディじゃ」
「はいはい」
グラスに酒を注ぐ。グラスより一回り小さい氷が、カラカラと音を立てる。
俺を見上げるアウローラは、どこからどう見ても小さな子供だ。
グラスの縁を上から掴み、グラスに口を付けた。
アルコールが喉を潤す。
「いい酒だな。趣味が合いそうだ」
「そうじゃろう。そうじゃろう。カエルムよ。上等な酒を独り占めはどうかと思うんじゃが?」
「子供にはまだ早い」
俺を見上げたまま、アウローラは大きなため息をついた。
「のう、カエルム」
「ん? どした?」
「心を開いてくれているのは分かっとるんじゃが、だらしないとは思わんのか?」
「何がだ?」
彼女は俺の伸びた無精ひげを小さな手で触る。
くすぐったさに目を細める。
「ほんと、だらしないのぉ」
「あ?」
「髭ぐらい剃らんか」
「触るのが好きそうだったから剃ってなかったんだが……」
ソファに座っている時や、彼女を抱き上げている時にアウローラが楽しそうな顔で触ってくるものだから、その顔見たさに剃る機会が減っていたのだ。
黙り込んだ彼女を見れば、真っ赤に顔を染めていた。
「なんだ? バレてないと思っていたのか?」
「見るんじゃない!」
顎をグイグイ上へ押され顔が歪む。
照れ隠しだと分かっているので気が済むまでやらせれば、アウローラは少し落ち着いたのか、手を放しそっぽを向いた。
しかし、そっぽを向かれても、髪から覗く耳が赤く染まっているのが見て取れた。
これ以上突っ込めば明日の朝ごはんが出てこなくなるだろう。
無言で月を眺める。
しばらく酒を呑んでいれば、俺の膝から可愛らしい寝息が聞こえてきた。
「ふっ。なんだかんだ言っても子供だな。拗ねて寝落ちか」
グラスを机に起き、アウローラを抱き上げる。
寝室へと連れていき寝台へそっと下ろした。
もぞもぞと動いていたが、寒かったのか丸くなった状態でまた寝息を立て始めた。
安心しきった寝顔を見れば、ほわほわと温かな気持ちが募る。
「さて、酒盛りの続きを……ん?」
小さな手が俺の服を握っていた。
手を払い退ける気にもなれず、俺はそのまま寝台に潜り込んだ。
──俺の部屋は別にあるが……。手を離さなかったのはアウローラだもんな。
そんな言い訳を脳内でしながら、俺は眠りについた。
朝起きた俺が、アウローラからなぜ一緒に寝ているのかと平手を食らい、さらには酒瓶とグラスの始末をしていなかったと怒られたのは言うまでもない。
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