揺れる距離感が生む物語
- ★★★ Excellent!!!
物語は、数学教師・沢谷敬介が2-A組の副担任となるところから始まります。冷静に生徒と接しようとする敬介ですが、特進コースのトップ生徒である水野奈央との出会いによって、彼の日常は大きく揺さぶられていきます。教師としての立場を貫こうとしながらも、奈央の奔放で掴みどころのない態度に振り回される敬介の姿が、この作品の面白さの一つです。
敬介は一見クールな大人に見えますが、奈央の前では完全に主導権を握られ、気づけば彼女のペースに巻き込まれています。理性を保とうとする敬介と、それをさらりと崩してしまう奈央のやり取りには、緊張感とユーモアが絶妙に交差しています。また、林田や貴島といったキャラクターも単なる脇役にとどまらず、奈央の過去や現在の姿を映し出す鏡のような存在として機能しており、物語に奥行きを加えています。
文章は敬介の一人称視点で進むため、彼の心の声がダイレクトに伝わってきます。彼は常に「冷静でいよう」と自分に言い聞かせながらも、奈央に翻弄されていく様子が細やかに描かれており、その心理描写に親しみを感じます。台詞の掛け合いもテンポがよく、奈央の小悪魔的な返しが敬介を追い詰めていく場面は、思わずクスリとさせられることも多いです。
この作品は教師と生徒の間にある「微妙な距離感」を巧みに描きながら、互いに影響を与え合う物語です。奈央の天才的な言動と、敬介の不器用な対応が生み出すコントラストは、一度読み始めると止まらない魅力があります。ストーリーが進むにつれ二人の関係も変化していきますが、最後まで読み続けたい物語です。