第15話 憧れの先輩と付き合っている世界
古代人がさっきまでいたロボットの場所へと戻るとそこはもぬけの殻だった。
人のいる気配がまったくといっていい程ない。
いったい奴はどこへ行ったんだ?
辺りを見回してもどこにもいない。
エアスイミングで空に昇ってみて地上を見回してみてもどこにもいやしない。
……帰るとするか
アイツがどこに消えたのかはわからない。
ただ、なんとなくもう二度と会えないような気がした。
結局のところ、俺はこの世界についてなにもわからなかった。
パラレルスフィアがなぜ俺をこの世界に連れて来たのか。
大吾との直前の会話のせいだろうか。
だとしたら、色々と納得なんだがそうじゃないだろう。
古代人のアイツはどうしてパラレルスフィアを使うなと言ったのだろうか。
アイツはなにかを知っていた気がする。
パラレルスフィアについて重要ななにかを。
だが、肝心のアイツはどこにもいない。
それにもう疲れた。この世界にいるのも。
何も得られないようで、一つだけ得られたものもある。
パラレルスフィアを使っても理想の世界になるわけでもないらしいってことだ。
いったい、こいつはなんなんだろうな。
そもそも、世界ってこんなに簡単に変わるもんだっけ?
……まあいい。帰るとしよう。
学生鞄の中に仕舞われていたパラレルスフィアを取り出す。
いつもの呪文を唱える。
俺を元の世界に帰してくれ。
『ル・クシェンテ』
パラレルスフィアの中から玉が出てきて、世界が真っ白に染まる。
白い光がすべてを包み込んだ――。
やがて、光が消えたと思ったら、肩を叩かれる。
「ねぇ、アキラくん。聞いてる?」
「えっ、あっ、はい」
周りを見渡してみるともう放課後で亜希先輩が隣を一緒に歩いていた。
手にはパラレルスフィアを持ったままだ。
これはいったいどういう状況なんだ?
とりあえず、俺はパラレルスフィアを鞄の中へとしまう。
「ええと、なんの話でしたっけ?」
「もうしっかりしてよね。帰りに明日デートに行くって約束したじゃない」
「で、デート? だっ、誰と誰が」
「わたしと君とだよ」
「え、ええええええええっっっーーー!?」
「なにをそんなに驚くのかな。だって、わたしたち付き合ってるじゃない。君はわたしの彼氏でしょ?」
「ま、まってください。それって俺のことですか」
「アキラ君以外に誰がいるの? もう、しっかりしてよね」
な、なんでこんな世界になったんだ?
いや、俺はたしかに亜希先輩と付き合えたらいいなと思ったことは何度もあるが……。
落ち着け、俺は元の世界に戻ってきたはずだよな。
それでどうして亜希先輩と付き合ってることになってるんだ。
な、なにがどうなっているんだー!
と、とりあえず落ち着こう。
俺は今、亜希先輩と一緒に帰っている。
それでいて、なぜか彼氏彼女の恋仲になっている。
なにがどうなっているんだ?
考え込んでいるうちに俺の家のある住宅街へと着いてしまう。
「じゃ、わたしはこっちだから」
「あっはい。で、では、またの機会に」
家路へと就く亜希先輩。去っていく先輩に後ろ髪を引かれる思いを抱きながら、俺も自分の家に帰ろうと足を進める。
「あ、そうだ」
途端に先輩の声がして振り返る。
亜希先輩は華やかな笑顔を浮かべて、
「明日の映画館のデート、わたしね、楽しみにしているから」
どうやら、俺は明日映画館に行くということを今初めて知ったが、そんなことなんてどうでもよくなるくらい浮かれていて、つい俺は
「任せてください! 最高のデートにしてみせますから」
とこれまた無責任にそんな返事をしてしまう。
くぅー、これが惚れた弱みってやつなのか。
スキップでもしそうなくらい浮かれていると目の前にまたあのサングラスの男が現れた。
「なーに、デレデレしてんだよ、嬉しいことでもあったのか?」
「うるせえな。あんたはいったいなんなんだよ」
こいつ、俺がいい気分に浸っている時ほど現れる気がする。
「また、使っちまったんだろ。古代人の秘宝――パラレルスフィアを」
その発言を聞いて、思わず背筋が凍った。
こいつ、今なんて言った?
パラレルスフィアとか言わなかったか?
「どうして、お前がパラレルスフィアについて知っているんだ、答えろ」
「そんなに怒んなって。いいじゃねえか、他人がてめえの秘密を一つや二つを知ってようとよ。もっと大らかに生きようぜ」
「大らかになんてなれるわけないだろ」
こいつはどうしてパラレルスフィアのことを知っているんだ?
古代人の秘宝の存在を知っていることもだし、俺が持っていることも確信しているようだ。
「なんでお前、記憶を保持してるんだ」
「なんでって、そりゃ記憶くらいあるだろ。忘れっぽい奴でもなけりゃ、大事なことは覚えてるもんよ。それとも、お前は忘れちまったのか、そのパラレルスフィアのことをよ。
まっ、俺から一つ忠告するとしたら、大規模に世界改変をするとその代償ってのはきっちりついてくるぜ。やるなら、小さい改変の方が世界に影響は出にくいってもんだ。
まっ、もう遅せえだろうけどよ。」
サングラスの男はまたも言いたい放題言って去っていく。
「待てよ!」
「待ちませーん」
俺が制止を呼びかけるとサングラスの男は一目散に走って逃げていった。
なんなんだ、アイツは。
大体パラレルスフィアって名前を知っている事自体おかしいんだ。
だって、その名前をつけたのは“俺”なんだから。
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