第13話 宇宙人=古代人
『緊急事態、緊急事態、宇宙人がコスモロイドに乗ってこの街に攻めてきました。超能力者各員は戦闘態勢を取ってください』
教室へと戻り、学生鞄の中にパラレルスフィアがあるのを確認すると急に外からアナウンスが流れ始める。
ついにお出ましってわけか。
学生鞄を肩に下げて、教室を飛び出していく。
コスモロイドがどんなロボットかは知らない。
どれくらい巨大なのかも。だから、最悪のケースを想定する。
もし校舎を踏み潰すようなことがあったとしたら、俺はパラレルスフィアを瓦礫の中から探し出さないといけない。
その前に回収しておくんだ。
別にパラレルスフィアを使って今すぐこの世界からおさらばしたっていいんだが、まだ俺はこの世界の謎を解いちゃいない。使うのはお預けだ。
この世界の宇宙人やロボットがどんなのか見てみたいし、超能力でロボットと戦ってもみたい。せっかく訓練したからには使ってみたいって思うだろ?
それにパラレルスフィアがどうしてこの世界に連れて来たのか疑問だ。
俺は宇宙飛行士になって宇宙人と交流したかったのに。
謎を解くまでは戻せない。
『現在、中野坂上駅までやってきています。サイコレンジャーは至急、向かうようにしてください』
いや、向かってるけどよぉ。やっぱサイコレンジャーってダサすぎやしねえか。
駆け足で廊下を走りさり、階段を手すりを使って飛び降りる。
でも一度はやってみたかったんだよな。廊下を全力疾走することと、階段を飛び降りるのを。
校舎に誰もいないからこそできるっていうか。
教室のある三階から一階までを全力で駆け抜けて校舎を飛び出す。
誰もいない、行き交う車すらない異様な道を走っていき、信号のつかない横断歩道を渡っていく。障害が一つもない道路を走るのもいいもんだ。
全力のショートカットほど気持ちのいいもんなんてない。
見上げると空はどんどん濃い紫色へと変わっていく。
もうじき夜になる。
街灯が少しずつ点き始めていき、夜闇を照らしていく。
たまたま見上げてみると、とんでもないものを見た。
そいつはまさしく宇宙人が乗ってきた巨大ロボットというのにふさわしい。
コンクリートを連想させる灰色の球体のボディ、中央には巨大な緑色のレンズに覆われた巨大なカメラがついていて、あちらこちらを見回して、なにかを探している。四つのライトが前の角に一つずつ付いていて、辺りを照らす。頭に三本の角のようなものが備えられていて、四脚で堂々と歩いていく。
ロボットの下部には砲台が備え付けられていて、それがピンクの光熱液を放射していく。
光熱液を浴びせられた建物はどんどん溶解していき、原形すらなくなっていく。
いやいや、無理だろ。あんなもん喰らったら一発でお陀仏じゃねーか。
そういえば、大吾から教わった超能力があったな。
サイコバリア。あれなら防ぐことができるのか?
にしても、こんな殺るか殺られるかの世界だとは思わなかった。
なんで、こんな風に改変されたんだ?
上の方を見ていて、前方のことを俺はまったく見ていなかった。
いきなり硬い物にぶつかった。
慌てて転んでしまって、前を見るとそこにはさっきのどでかいコスモロイドよりも一回り小さい十メートル程の大きさのロボットがいた。形状はまったくといっていい程同じだが、一つ違うのは下に砲台がないことだろうか。どうやら、俺はこのロボットの脚にぶつかってしまったようだ。
向こうは俺の事情なんて気にも止めずに脚で踏み潰そうとしてくる。
エアスイミング!
横に跳躍して、超能力で空を飛ぶ。
別の脚でなおも掴みかかろうとしてくるから、俺は手を伸ばす。
サイコキネシスで脚を食い止める。
意識を集中させて、フルパワーで掴みかかろうとする脚とは真逆の方向へと力をやる。
徐々にロボットの爪が真逆の方向へと折れていく。
意識を最大限にまで高め、ありったけのサイコキネシスでビルの外壁へと叩きつけた。
「なかなか俺もできるもんだ」
誰に聞かれるでもなく一人で感想を述べて倒れた先のコスモロイドを眺める。
ビルの外壁に叩きつけたせいかコスモロイドは土煙に隠れて見えなくなっていた。
とりあえず、一機撃破っと。
空から着地して下手くそな鼻歌を鳴らしながら、手をズボンのポケットに突っ込みながら、その場を立ち去ろうと背を向けると後ろからガシャリと不穏な音がした。
マズいっ!
そう思った時には別の脚に俺の身体は掴まれていた。
奴め、まだ生きてやがったのかよ。
機械に生きているって表現は変だが、俺の体感的にはそうなのだから仕方ない。
万力のような力で身体を締め付けられる。
声にすらない悲鳴が出て、痛みが全身を駆け抜けていく。
死ぬ。
このまま握りつぶされて……。
嘘だろ、こんな世界で。俺は死んじまうのかよ。
身体を締め付けられているせいで、パラレルスフィアには手が届かない。
目を閉じて最悪の瞬間を覚悟する。
ズゴォン!
まるで大砲でも撃ったかのような重低音が聞こえ、脚から身体が離される。
見ると、ロボットの球体にへこみができていた。
このせいで脚を俺から離したのだろう。
一体誰が?
「ご主人様、大丈夫ですか。安心なさってください、このわたくしがついていますから」
メイドが空を飛びながらゆっくりと登場する。
「しずか!」
俺が叫ぶとしずかは何事もなかったかのように首を横に傾けて
「はい、なんでしょう?」
なんでしょうじゃねーよ。お前、本当に最高のタイミングで来てくれたよ。
ガシャリという金属音が聞こえ、再び立ち上がろうとするロボット。
しつけーな、こいつも。
「しずか、俺に合わせろ。二人でとびっきりのサイコキネシスを奴に浴びせるぞ」
「いえすです。ご主人様。こちらの準備はとうにできています」
「お前ほど頼もしいメイドなんてこの世にいないぜ!」
両手を突き出し、コスモロイドにフルパワーのサイコキネシスを浴びせる準備をする。
「3、2、1、ハァッ!」
俺としずかの二重のサイコキネシスがコスモロイドに降り注ぐ。
ビルの外壁に再度叩きつけられ、鋼鉄の脚はグニャグニャに折れて、緑のガラスで覆われた大きなカメラは破損し、前面の角につけられたライトも粉々になっていた。
「今度こそ、本当に動かなくなったかな?」
サイコキネシスを使って、コスモロイドの脚を持ち上げたり下げたりして遊んでみる。
反応がまったくない。これはもう完全に動かなくなったな。
「そういえば、ご主人様。このコスモロイドには中に宇宙人が入ってますよ。どうしますか?」
「そういやそうだった。やべぇ、殺しちまったかな」
「必要とあらばわたくしが殺しましょうか? ご主人様を殺そうとしましたし」
「そこまでしなくていいって。たしかに殺されそうになったけどさ」
コスモロイドへと近寄る。
中にはどんな宇宙人が入っているんだろう。
コスモロイドの球体の上部には人一人入れるようなハッチがあった。
鋼鉄の蓋に覆われて、中を確認するのは難しいがなんとかなるだろう。
なんせ、俺たちには超能力があるんだから。
ハッチをサイコキネシスで反対側から押す。
これなら開くはずだ。
ガゴン。
甲高い金属音が聞こえたかと思いきや、ハッチの蓋が開いた。
これで中の宇宙人がどんな奴なのかわかるぞ。
俺は両腕を伸ばして、中の宇宙人を引っ張り出す。
引きずり出してみるとヘルメットに包まれた緑色の髪が現れる。
顔は俺たちと似ている……腕が二本あり、足が二つ。
見たこともない服を着ている。まるで深海に潜り込むときのようなウエットスーツらしきものを。これって、もしかして……。
「人間ですね」
しずかが俺の代わりに代弁してくれる。
宇宙人の正体は俺たちと同じ人間だった……。
俺らと同じ人間だって、マジかよ……。
衝撃的なんだが。俺たちは人間同士で争っていたのか。
いや、もしかしたら、姿形が人間と同じってだけで中身は全然違ったりして。
実は人間に変身しているだけで、本当は別の姿をしてたり……。
にしても、身体を揺り動かしてみてもグッタリとしている。
「どうも気を失っているみたいだな。とりあえず、話かけてみるか。おーい、聞こえてるかー」
「……駄目なようですね」
「もう一度、揺さぶってみるか。たぶん、まだショックで気を失ってるだけだと思うから」
肩を何度かゆすってみるも目覚めることはない。
まさか、殺しちまったってことねえだろうな。
ゆすり続けていると「……あっ」とかすかに声が聞こえる。
邪魔だからヘルメットを取ってみるか。
取ってみるとそこには緑色の髪をした彫りの深い顔をした男性が気を失っていた。
顔を覗き込んでみると、眉は整えられており、まつ毛は長い。
とてもじゃないが宇宙人とは思えない。
指でつついてみると、途端に宇宙人が目を開ける。
「おわっ」
驚いて声を上げるも向こうはなに一つ答えない。
どうしたもんかと思っていると宇宙人が口を開く。
「俺たちの秘宝を持っているのはお前か?」
秘宝という単語が出てきて、すぐに直感した。
パラレルスフィアのことだ。
こいつらが狙っているのはパラレルスフィアなんだ。
合点がいったぜ。パラレルスフィアを狙っているのなら、この日本に巨大ロボットを持ち込んでくるのも納得だ。
なんせ、こいつがあれば自分たちの思い通りとなる理想の世界にできるんだからな。
「さあ、なんのことかわからないな」
「とぼけるな。お前ら、未来の人間が持っているのは知っている」
「未来の人間?」
なんのことを言っているんだ?
お前たちは宇宙人で、未来ってことは……。
途端に今朝した大吾とのやり取りを思い出す。
古代人ってのは宇宙人だったんじゃないかっていうやり取りを。
宇宙人は古代人だったのか?
そういえばと気付く。
どうして俺とこの古代人だか宇宙人だかと俺は言葉が通じるんだ?
おかしくないか?
仮にこいつが古代人だとしたら、今と話す言語は違うだろうし、宇宙人だとしても言語が同じはずがない。
パラレルスフィアが作り出した世界だからか?
「いいから持っているのか、持っていないのかだけ答えろ」
「ああ、持っている。これのことだろう」
俺は学生鞄の中にしまってあったパラレルスフィアを取り出す。
黄金色のサッカーボールのような二十面の球体を見せる。
男は「おおっ」と感慨深そうに言って、それからこう言った。
「その球をもう二度と使うな。いいな、約束だぞ」
「……なぜ、これを使っちゃいけないんだ?」
「不幸が起こる。そいつはまだ完成しちゃいない。なんでも願いの叶う理想の世界に変えてくる神の如き力ってのは俺たちには過ぎた代物だったのさ」
「どういう意味だ」
「いずれ分かる。後悔と共にな」
言い終えると男は再び気を失った。
どういうことだ? パラレルスフィアはまだ完成していない?
男からもっと話を聞きたいと思っていたが、揺さぶっても起きない。
どうしたもんかと思っていると、
「サイコレンジャーの皆さん。至急、巨大コスモロイドの元まで応援に来てください。このままでは民家の方までやってきてしまいます」
声のする方を見ると電柱に取り付けられた拡声器から応援を呼ぶアナウンスが流れる。
「他の方はもうすでに応援に行っているかと。ご主人様はどうされます?」
パラレルスフィアを使って元の世界に戻るっていう手もある。
でも、俺はせっかく超能力を覚えたんだ。まだまだ、使い足りない。
それに……このおっさんからもまだ全然話なんて聞けちゃいやしない。
ひとまず、あの馬鹿でかいコスモロイドを止めることから始めるとするか。
俺の目の先には巨大なコスモロイドが街を悠々と移動している姿が見えた。
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