第11話 超能力者の世界

木曜日。

朝から自分の席に着き、謎のグラサン男の正体がなんなのかについて考えてみた。

家に帰った後、じいちゃんとしずかに聞いてもそんな知り合いはいないって答える。

じゃあ、あいつは誰なんだ?

どうして、パラレルスフィアのことを知っているんだ?

答えは出ず、考えが堂々巡りしていた時に――。

「アキラ、これ見ろよ、これ」

 前の席から大吾がうざいくらい肩をバシバシと叩いてきて、自分のスマホを見せてくる。

 人が色々と考えることがあるっていうのに。

 キレるのをなんとか抑えながら、大吾の言う通りスマホの画面を見てみる。

 そこには『古代人の正体はなんと宇宙人だった!?』ってタイトルの動画が流されていく。

 実は古代人がああだったんじゃないか、こうだったんじゃないかとそれらしい考察が流れていき、それっぽい画像や映像が出される。

 古代人が宇宙人ねえ。

 まあ、でもありえない話ではないだろう。

 古代人がどこからやってきたかは謎だ。

 彼らがなぜ今日に至るまでの文明の基礎となる技術を会得していたのかは謎だし、ましてやあのパラレルスフィアだ。

 あれが一体何のために作られて、どういう代物なのか。

 未だにわかっていない。

 ただ人の願いを叶える道具だとしか……。

 あのグラサン男の言葉を思い出す。

これ以上、厄介な羽目になるなら使うなか……。

でも、こんな便利で楽しい力を使わないなんておかしいだろ。

だって、なんでも願いが叶うんだぜ。

「それでどうだった? これ、新発見じゃね?」

「ああ、そうかもな」

「なんだよ、テンションひっくいな。興味なしかよ。お前のじいちゃんは考古学者だってのに」

「じいちゃんがそうだからといって、俺も興味あるわけじゃないから」

「まっ、それもそうだよな。でもよぉ、大発見だと思わねえか?」

「本当の事だったらな。でも、そんな文献は見つかっちゃいないんだろう」

「まあな。でも、宇宙人だとしたら色々と納得できるっていうかさ」

古代人が宇宙人だった説なんかよりも、俺は宇宙飛行士になって宇宙人と交流したい。

長年の夢だし。

ハッと気付かされる。

パラレルスフィアさえあればこの夢も叶うんだ。

アレに願えば。使うか、パラレルスフィア。

実はあのグラサン男が登場してから、鞄の中に入れておいた。

誰かに盗られないようにと。

しずかのことを信頼してないわけじゃないけど、自分の思い描く理想の世界にする力なんて代物があったらどんな手を使ってでも他の人から狙われるのは間違いない。

自分で持っていた方が安全だろ。

それに――ファンタジー世界にいた時の志保の様子を思い出す。

世界改変を行えば記憶は消える。

あのグラサン男の記憶も消える。

鞄の中からパラレルスフィアを取り出す。

グラサン男からパラレルスフィアを奪われる前に世界改変を行おう。

今度は宇宙飛行士になって、宇宙人と楽しく話でもしよう。

『ル・クシェンテ』

世界改変をさせるための言葉を唱えて、白い光がまたしても俺を包んだ。

目を開けるとどうしてか、俺は机を枕替わりにして寝ていたようだ。

「よっ、起きたかアキラ」

「だいご? なにがあったんだ? なんか、ひどく眠いけど」

 目をこすりながら答える。

 どうして俺は寝ていたんだ?

「そりゃ、仕方ねえよ。昨日も俺たちは宇宙人の乗る巨大ロボットと戦っていたんだからよ」

「……どういうことだ?」

「忘れちゃったのかよ。俺たち超能力の訓練をするところだろ」

「いや、言っている意味がわからないが」

 周りを見てみるも大吾以外は誰もいない。

 さっきまでの騒がしかった朝の喧騒は嘘のようだ。

 大吾はいつの間にやら、一番前の席の机の上に置かれていた数本ある空き瓶のうちの一つを持ち上げる。

 おそらくはワインボトル。容器はガラスでできているため透明で、ラベルはすでに剥がしてある。中身が入ってないところをみると綺麗に中を洗浄済みだ。

 大吾は急にその瓶を俺に向かって投げてきた。

 危ねっ、なにすんだ!?

 空き瓶が大体、俺と大吾の間くらいの距離に達したところでパリンと割れる。

 辺りにはガラスの残骸が散れわたる。

「こんな風にな」

「いや、こんな風にって言われても……」

「簡単だよ。意識を集中させて、対象を見るだけでいい。それでサイコキネシスは発動する。念動力って言った方がわかりやすいか? 念じて力を発揮するんだ。こういう風に、な」

 大吾はパッと見ただけで、今度は別の机に置かれていたガラス瓶を割った。

「こんなもんだ。やってみろよ」

 いやいや、できるわけねえだろ。

 というか、この世界はなんなんだ?

 俺は宇宙飛行士になっている世界を望んだはずなんだが……。

 手の平の上に乗っかっているパラレルスフィアを見つめる。

 たしかに俺は願ったはずだよな。

 なのにどうして、俺は宇宙人と戦う超能力者ってことになっているんだ?

 このパラレルスフィアはなんでも願いが叶うんじゃなかったのか?

 サイコキネシスの訓練とかどうなってんだ?

「どうかしたのかよ。様子が変だぞ、アキラ?」

「……いや、付き合うよ。その超能力者訓練ってヤツにな」

 こうなったら、この世界の事をもっと深く調べ上げてやる。

 なぜ、こうなったのか。

 パラレルスフィアで世界改変するのは謎を解いてからでも遅くはないはずだ。


 

 パラレルスフィアを学生鞄へとしまい、とりあえず大吾の言う超能力訓練を受けることにした。超能力も使ってみたいしな。

「アキラもやる気になったようだし、さっそく訓練を始めるぞ。さっき言ったように意識を集中させるんだ。自分に眠る未知なる力を引き出すと思って」

「未知なる力ね」

 超能力ってやつは普通の人には行えない特別な力のことだ。一般的には脳から念じたものが力や様々なものへと変化する。中には飛行能力や瞬間移動とかもできたりする。

「慣れないうちは手を前に出してみるといいぜ。その方が意識をより集中させられる」

「わかった。やってみる」

 右腕を前に突き出し、左手で上腕を抑える。

 意識を集中させる。

 一点に、ただあのガラスの瓶を割るんだ。

 集中していると奇妙な感覚にとらわれる。

 ガラスの瓶との間に一本の線のようなもので繋がっているような感覚が。

 意識がガラスの酒瓶へと一点に向いていく。

 徐々に感覚が研ぎ澄まされていく。

 割れろッ!

 そう願った瞬間、パリーンと派手な音を立てて、ガラス瓶が割れた。

「っ、ホントに割れた……」

「おめでとう。まずはサイコキネシスができるようになったな」

 最初から使えることを考えるとどうやらこの世界での俺は生まれながらにして超能力者だったようだ。

「他に超能力が使える奴はいるのか?」

「いるぜ。志保ちゃんにしずかちゃんに怜先輩が」

「俺の知り合い、全員いるじゃねーか」

「たまたま、俺たちこの五人が超能力者ってだけで、超能力が使えない人もいるから」

「それでなんで俺は超能力の訓練をしてるんだ?」

「お前だけ覚えが悪いからな。補習だ、補習」

「くっ、そいつはどうも……」

 おかげで超能力のことが勉強できて助かるけどな。

 ただ、俺だけ補習ってのはなんとも癪に障る話だ。

「次はサイコバリアを教えてやるよ。こいつは敵の光線から身を守るために必要な能力だからな。ちゃんと覚えないと死ぬかもしれない」

「待ってくれ、死ぬかもしれないってどういうことだ? そんなに危険な相手なのか?」

「危険に決まってるだろ。なんせ、相手はロボットなんだから」

「ロボットだって?」

「そいつらがオレらに殺人光線を撃ってくるんだよ」

 にわかには信じがたい話だけど、ファンタジー世界を経験した俺なら今のこの状況を信じることができる。きっと、巨大ロボットも現実に存在しているのだろう。

 てことは、覚えておいた方がいいな。

「それでやり方は?」

「利き手を前に出す。腕を伸ばして、丸い円をイメージするんだ」

「こ、こうか?」

 見様見真似で大吾と同じことをする。

 とてもじゃないができるとは思えないが。

「自分を覆い隠すような縦長の楕円を思い浮かべるんだ。自分を覆う盾をイメージする。超能力に必要なのはイメージだ。イメージが全てを決める。やってみろよ」

「わかった、やってみる」

 脳内で縦に長い楕円が自分の右手の前で拡がっているイメージを思い浮かべた。

 イメージする。あらゆる攻撃を受け流す盾を。

 その結果、右手の前に青白い楕円が現れた。

 これがサイコバリアってやつなのか?

 青白い縦長の楕円はやがて縦に長く拡がっていく。

 楕円の盾は俺の全身を隠せるほどの大きさになった。

「できたじゃねーか、そうそれがサイコバリアだ」

 少しでも集中を切らせば、消えてしまいそうな感覚すらする。

左手で青白い円を触ってみる。

 触れてみると陶器のような感触でツルツルだった。

 どれくらいの防御力があるのか試しに叩いてみると鋼のような硬さで、叩いた手がしびれてくるほどだ。

 いくら超能力といえども、こんな盾を自分で生み出したって事実には驚嘆せざるを得ない。

 にしても、こんなのが必要だなんて、どんな強敵と戦わないといけないんだよ。

「な、なあ、これどうやったら消えるんだ? 一生、このままってことはないよな?」

「集中を切らせばサイコバリアは消える。逆に言えば、集中さえ切らさなければサイコバリアは残るってこと。戦闘中は余計なことを考えるなよ」

「わかったよ、大吾教官」

 腕を払い、サイコバリアを霧散させる。

 俺が教官っていうと大吾は嬉しそうに

「アキラ訓練生も大分わかってきたじゃないか。――なんてな、ハハっ。」

 冗談にノッてくれる。

 こいつ、ほんとノリがいいよな。

「もう教わる事はないのか? これで全部か?」

「いいや、最後に飛びっきりに重要なヤツがある。――超能力で空を飛ぶことだ」

「それって、超能力なのか……?」

「もちろん超能力の一つだ。エアスイミングって言うんだけどな。サイコキネシスの応用だ。自分の身体を超能力で持ち上げるんだ。そこから、身体を超能力で前進させたり後進させるんだ。向かい風と送り風ってあるだろ。あの時、身体って風が来る方向に向かって動いたりするだろ。それの強化版だと思えばいい」

「……よくわからんが、自分の身体を風船みたいに思う感じか。風で揺らされるように、身体を動かす」

「風船は勝手に宙にどんどん浮いていくけど、まっ大体そんな感じだ。校庭に行こう、そこで志保ちゃんやしずかちゃんや亜希先輩が待ってるから」

「なんでまたそんなに集まってるんだ?」

「おいおい、忘れたのかよ。俺たち五人合わせて、宇宙人の侵略から地球を守る超能力戦隊サイコレンジャーだったろ」

「えっ、ああ、そっ、そうだったのか」

「そうだよ。俺たちの超能力で地球の平和が守られるか否かが決まるんだ。手を抜くなよ」

 なんだこの世界。むちゃくちゃじゃねーか。

 宇宙人がロボットに乗ってきて地球侵略しにきて、それを俺といつもの二人としずかと亜希先輩が戦隊を組んで、超能力で地球を守ってるってだって……。

そんなの、そんなの……めちゃくちゃおもしろそうじゃねえか!

でも、これだけは言わせてくれ。

 サイコレンジャーって名前はマジダセェ! 子供かよっ!


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