第8話 準備

どうやら、大吾の話を聞く限り、この世界には生まれ持った職業適性によって、振り分けられる魔力量が決まっているらしい。

 まず、俺の勇者の魔力量だが、この中じゃ三番目に高い。

 魔法使いや僧侶には劣る。

 志保にいたっては武闘家であるため、魔力はゼロだ。

 武闘家の志保に魔力なんていらないしな。

 次にしずかだが、僧侶という職業は魔法使いの次に魔力が高く魔法の連発も可能だ。

 最後に魔法使いの大吾は言うまでもなく、魔力量がこの中でも一番多い。

 各職業についての説明を受けた後は、いよいよ魔法の講義をされる。

 魔法には大体七つの属性があって火、水、土、木、金、闇、光。

 それぞれの魔法を使ってみて適性を試す。

試してみた結果、その中でも俺は水と光の属性が得意なようだ。

ただ、俺の得意分野の魔法はちょっと変わってる。

 水といっても得意なのはその中でも氷属性の魔法で、光属性の魔法でも得意なのは電撃魔法。

 氷と雷。

 それこそがどうやら俺の得意とする魔法らしい。

 大吾はというと、光と闇魔法以外の五属性の魔法が使えるエキスパートだ。

 それなりに安定して魔法が使えて、高威力。

 いくつかの魔法を教えてもらった俺は夜に備える。

 村にいた女の子の話じゃ、ヴァリス村の北にある山の中腹にある開けた場所がレッドドラゴンの住処らしい。奴が戻ってくるのは夜とのことだから、待つことにした。

 なんなら、もっと遅くになってから行って、寝静まっているところを奇襲したっていい。

 しずかが辺りを照らす光の玉を生み出す魔法が扱えるから、俺たちは夜間でも存分に戦うことができる。もっとも、その光の玉のせいでレッドドラゴンが起きちまう可能性はあるが。

 なんにせよ、俺たちは日が沈むのを待つことにした。

 あっ、村の女の子ならすでに隣村の両親の元へと帰したぞ。

 あの女の子の目的はうさぎのぬいぐるみを見つけることだったし、レッドドラゴンを取り逃がした時にヴァリス村までやってこないとは限らないしな。

 仮眠をとり、日が沈むのを確認してから北の山へと向かった。

 魔物に合わないことを願いつつ、周囲を警戒しながら少しずつ山を登っていく。

 道なき道を歩き、闇の中を進み続ける。わずかな明かりと共に。

 こっちであってんのかなと思うも女の子の話を信じ続ける。

 木々を避け、土を踏みしめ、先へ先へと進んでいく。

 そして、ついに俺たちは女の子が言っていた開けた場所へとたどり着く。

 大きな赤い竜が横たわって寝ていた。

 全長は目測で三十メートルくらいだろうか。赤い鱗に覆われて、大きな蝙蝠のような翼。木の幹の如く太く長い尾。象のごとくでかい四本の足。顔はフィクションでよく見かけるドラゴンそのものであった。違うのは角が山羊の角みたいに折れ曲がっていることだろうか。

 これがレッドドラゴンか。想像以上にでかいし、強そうだ。

 レッドドラゴンがこっちに気付かない隙に俺たちはひそひそと作戦会議をする。

「ここまで近づいたけどどうする? こっちから魔法で一斉に攻撃する? あたしはなんにもできないけど……」

「志保はここまで十分戦ってくれたし、相性が悪いからしょうがない。俺たちだけでなんとかするよ。レッドドラゴンが起きる前に魔法を最大火力でぶつける、それでも倒れなかったら、あとはなるようになることを祈るだけだ」

「ほんと、適当なんだから。まっ、あたしはそれでもいいけどね」

「戦ってみなきゃわかんねえよな。任せろ、オレの魔法でレッドドラゴンなんて軽く一捻りしてやんよ」

 志保と大吾が快く返事をする。しずかはというと、すでにメイスと鋼の盾を下ろして、魔法を唱える準備に入っていた。

 待ってろよ、レッドドラゴン。てめえが寝ている隙にキッツイ目覚めの一撃をお見舞いしてやるからな。

 俺、大吾、しずかが両手を前に掲げ、魔法を撃つことに集中する。

 身体の中の全ての魔力を一点に集めて、魔法陣を展開させていく。

「準備はいいか、お前ら。オレの合図に合わせるんだぞ、3」

 大吾が声をかけて、カウントダウンを始める。

 俺もしずかももう限界ってくらいまで魔力を溜めている。

「2」

 この一撃でこいつを葬る。

 その覚悟で魔力を両手の先まで貯める。

「1」

 もう魔法を放とうとする直前になって、周囲の異様さに気付いたのかレッドドラゴンが目を開ける。緑色の目が俺たちをジッと見据える。

 しまった、気付かれた。

 でも、もうここまできたらどうしようもない。

 魔法を撃つしかない。

「0」

「アイスクル・スピア!」

「シャイニングレイン」

「ブレイバード・アロー!」

 氷の槍と光線の雨に火の鳥をもした炎が一斉にレッドドラゴンの元へと向かっていく。

 直撃し、地面の砂が巻き上がって煙が辺りを覆う。

 やったか!?

 そう思って、俺たちは両手を下ろす。

 突如、煙を裂く雷鳴のような咆哮が轟く。

「グォオオオオオオオオオオオオオウウウウンンンン!」

 煙の中から緑の目がこちらを捉える。

 レッドドラゴンは翼がはためかせて、空へと飛んでいく。

 それから、こちらへ向き直る。

 まずい、アレが来る。ヴァリス村を滅ぼした炎が。

「逃げろおおおおおおおおおおおおっ!」

 叫んで、他の仲間たちへと避難を促す。

 レッドドラゴンは俺たちに向かって、口に貯めた猛火を吐き出していく。

 慌てて一目散に逃げる俺たち。

 はっきり言って、俺たちはレッドドラゴンのことを舐めていた。

 いや、ドラゴンという生き物のことがよくわかっていなかった。

 飛び立つかの竜は俺たちを睨みつける。

 完全なる敵認定。

 やべえな、こいつは。

 死ぬかもしれないってのに俺はどうしてだかワクワクしていた。

 胸が高鳴り、呼吸が早くなる。

 ずっと、この瞬間を待っていたのかもしれない。

 こんな冒険を、こんな戦いを。

 そういや大吾が言ってたな。

 レッドドラゴンを倒せばドラゴンスレイヤーとして称えられるって。

 ああ、なってやるよ。俺たちが――ドラゴンスレイヤーに――。

 長い夜が幕を開ける。

 俺たちとレッドドラゴンの激しい攻防が、今宵始まる。

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