第7話 ファンタジー世界での戦闘

「ふわあーあ、ねみぃ」

 城から出て城門の前で四人で集まることにしたら、どうやら俺が最後だったみたいだ。

 寝るのが遅かったからな。

 俺が眠さのあまり眼をこすっていると志保が心配して声をかけてくる。

「アキラ、なんか疲れてない? 大吾も眠そうだし」

「レッドドラゴンと戦うことを考えたら眠れなくて、眠れなくて」

「ほんともう子供なんだから。これじゃ先が思いやられるよ。アキラはいい加減、アタシみたいな面倒見のいい女の子が一緒にいてくれることを感謝した方がいいよ」

「してるって……」

「どうだか。……大体してるなら、もっと態度で現わしてくれもいいじゃん……」

「態度で現わすってどうすればいいんだよ」

「うるさい、知らない、話しかけないで」

 またもやプリプリと怒る志保。

 年頃の女子ってなに考えてるかわかんねえ。

「そういえば志保はこのクエストを受ける気でいるのか?」

「もちろん報酬がもらえるんだから受ける気に決まってるじゃん」

「でも、相手はドラゴンだぜ。危険な目にあうけどそれでもいいのか」

「冒険者稼業なんてやってる時点で、危険なんて承知の上だよ。覚悟してる。それにね、あたしだってみんなと冒険するの結構楽しいし」

「……なら、クエストが終わるまで戻さなくていいか」

 二人が楽しんでないなんて思い込んでたのはただの俺の杞憂だったみたいだ。

 そうだよな、こんな世界来たら楽しみたいよな。

「何の話?」

「別になんでも。それで、レッドドラゴンってどこにいるんだっけ?」

「そう聞いてくると思って。あたしが地図を大臣から借りてきたよ」

 志保が手に持っていた古い紙で描かれた地図をみんなの前に広げる。

 中央に簡素な城の小さな絵が描かれており、そこから西に赤で×印が描かれている。

 小さいメモが描かれており、ヴァリス村と書かれている。

 この村にレッドドラゴンが現れたんだっけか。

 目的の場所がわかったのなら、あとはそこに行くだけだな。

「とりあえず、全員荷物を持ったか? 忘れ物はないか?」

「あたしは別に必要なものはそんなにないから大丈夫」

「オレもそこまで持ち物はねえよ。この愛しの杖ゾルロッドちゃんだけあればいい」

 杖をちゃんづけして、頬ずりする大吾。

 パラレルスフィアによって人はここまで変わるのか。ちょっと気持ち悪いな。

 元々、オカルト好きの変なやつとはいえ。

「わたくしも特にありません、ご主人様」

「よーし、じゃあレッドドラゴン退治に向けて出発だ!」

 期待に胸を膨らませながら、俺たちは歩み出した。

 


 城門から出歩いて、道なりに進んで十分ほど経過したくらいだろうか。

 さっそく、俺たちの前に魔物が現れた。

 現れたのは五匹のゴブリンたち。猿と同じくらいの背丈で武器や鎧に防具を身にまとっている。目は敵意に満ちていて、俺たちを襲う気満々だ。

 辺り一帯に緊張感がただよう。どちらかが先に動けばおのずと向こうも動き始める、そんな一触即発の雰囲気があった。

 これだよ、こういうのを待っていたんだよ!

 俺は勇者の剣に手をかける。

 さっそく、俺の初戦闘を試すときだ。

 剣を抜き、ゴブリンとの間合いを計る。

 徐々にジリジリと歩み寄ってくるゴブリンたち。

 他の仲間たちが動きやすいように指示を出す。

「俺が斬り込む! 他の三人は相手しそこねたゴブリンたちと戦ってくれ!」

 そう言い捨て、俺は勇者の剣を両手で持ち、振りかぶって突っ込んでいく。

 ゴブリンたちも俺の動きに合わせて向かってきた。

 勇者の剣を振り下ろそうとするも、向こうの方が動きが俊敏だった。

 しまった、間に合わない!?

 俺が剣を振り下ろすよりも先にゴブリンたちの剣や斧やらが俺の身体に到達する方が速いだ

ろう。完全に目測を見誤った。――やられる、そう思っていた。

「ファイヤーボール!」

 大吾の声が響き渡り、ゴブリンに火の玉が直撃する。

 先頭にいたゴブリンに当たったため、連鎖的に他のゴブリンたちも後ろに倒れていく。

「抜け駆けとは感心しねえなぁ、オレにもやらせろよ」

 大吾のいつにもなく頼もしい声が聞こえてきて、勇気をもらう。

「おらあああっ!」

 掛け声とともに、近くにいたゴブリンめがけて勇者の剣を振り下ろす。

 剣を振るうとゴブリンの身体はスパッと斬れて動かなくなる。

 まずは一匹と。

 ホッと一息つこうとした瞬間、立ち上がったゴブリン二匹が俺目がけて襲ってくる。

 右と左の左右からの同時攻撃。

 対処しようにも俺は今、剣を振り下ろしたばかりだ。

 バックステップで避けようとするも、向こうが飛び掛かてくる速度の方が速い。

 完全にナメていた。ゴブリンたちのことを。

 どうせ、低級モンスターだから大したことないと思ったのが間違いだった。

 俺はもっと真剣に勝つことを考えるべきで、複数の相手との戦闘に慣れていないのなら突っ込むべきじゃなかった。後悔するもゴブリンたちの持つ武器の刃は確実に俺の元まで届こうとしている。ゲーム感覚で考えすぎた。

「まったく仕方ないんだから、アキラは」

「大丈夫ですか、ご主人様?」

 志保が右からきたゴブリンをかぎ爪で引っ掻き、しずかが左からきたゴブリンをメイスで叩き潰す。二人の見事な連携プレイ。

 ああ、そうだ。俺は別に一人で戦っているわけじゃない。

 困ったら、仲間を頼ったっていいんだ。

 起き上がってくる二匹のゴブリンたちに向けて駆け寄っていく。

 勇者の剣を肩の辺りまで持っていき、一閃。

 横薙ぎにして斬りつける。

 現実世界ではありえない俊敏な動き。

 おそらく、この世界での勇者という役割(ロール)が俺自身の限界を超えさせたんだ。

 どこまでも、どこまでも強くなれる。

 そんな想いすら抱かせる渾身の一撃は残りの二匹のゴブリンたちを葬り去るには充分だった。

 この一撃をもって確信する。

 俺たちはこの世界でも通用することを。いける、いけるんだ。

 俺たちならどんな敵にも勝てる。


 俺たちの戦いはこれからだ!


 連戦につぐ連戦を重ねて、俺たちはついにヴァリス村へとたどり着いた。

 ここに来るまで、道中さまざまな敵と戦った。

 コボルト、オーガ、ワイバーン、スライム、ミノタウロスなどといった多種多様な魔物と戦ってようやくここまで来れた。

 俺が勇者の剣を振るい、志保がかぎ爪で魔物を切り裂いていき、大吾が魔法で遠距離から攻撃、しずかはメイスで殴ったり、

 だけど、ヴァリス村を見て、開口一番こう言わざるを得なかった。

「なんだよ、これ」

 真っ黒に焼け焦げた村。

 この村はきっと木造でできていたんだろう。木でできた木造の家は軒並み焼き焦げて、そこら中、焦げ跡しかない。人っ子一人見かけることすらなかった。

 三十以上の家がすべて焼き払われていた。

 それなりに繁栄していたであろう家がすべて損壊してもはや見る影もない。

大きな村だったにも関わらず、ここまでのことになるとは。

「ひっどい惨状だけど、みんなどこにいったんだろうね」

「逃げ出したんじゃないか。ほら、こんだけの事態だし。オレだって逃げるね」

志保と大吾が話すなか、俺は誰か一人でも生存者がいないか探した。

この災厄を生き延びている人が誰か一人でもいたらと願う。

 だって、こんなのひどすぎるじゃないか。

 探し回って、ようやく焼け焦げた家の隅に隠れていた十歳くらいの女の子を見つけた。

 白いうさぎのぬいぐるみを抱えて、俺を不思議そうに眺めていた。

「よかった、生存者がいた」

 俺がホッと一息ついて胸をなで下ろしていると、後から二人がやってきて、俺の肩を掴んで後ろから女の子を覗き込んでくる。別に俺の肩を掴む必要はないだろうに。

「うそっ、ホントに女の子がいるじゃん」

「なあ、キミ。お父さんやお母さんはどこいったんだ? オレらがそこまで連れて行ってやるよ。大丈夫、オレ達は別に怪しい人じゃないからさ」

 女の子に声をかける志保と大吾。いや、俺の肩から手を放せってーの。

「パパとママは隣の村にいるの。この子を一緒に連れて行きたくて」

 うさぎのぬいぐるみを持ち上げて俺らに見せてくる。

 なるほど。ぬいぐるみを持ち帰るためにこの村まで戻ってきたのか。

「この村でなにがあったんだ? お兄さんやお姉さんたちに教えてくれないか?」

「ある日、村にねドラゴンがやってきたの。男の人たちがドラゴンを弓や槍で攻撃するんだけど空を飛んでるから、全然当たらないの。ただ、向こうは炎を吐いて攻撃してくるからやられっぱなし。きっと、あのドラゴンは魔法でしか攻撃を当てられないと思うの」

 魔法でしか攻撃を当てられないという女の子の言葉を聞いて、急に大吾が俺の前に出てくる。

 うんうんと頷きながら、

「そうかそうか、魔法でしか倒せないのか。なら、お嬢ちゃん、オレ達に任せな。こういったことには慣れているし。オレみたいな凄腕の魔法使いがいればレッドドラゴンなんてわけないし、すぐに討伐してやるぜ」

 呆れつつも、でも女の子の話を聞く限り、ここは大吾が一番活躍しそうだなと思う。

「というか、俺と志保はどうやって戦えばいいんだ」

「あたし、魔力なんてもってないんですけど……」

「俺も魔法のこと全然知らないぞ」

「あー、志保ちゃんはともかく、アキラには俺が魔法を教えてやるよ。志保ちゃんはドラゴンが降りて来た時に攻撃すればいいから」

「まっ、アタシにできることはそれしかないよね」

「でも、大吾。しずかはどうする? しずかもメイスしか攻撃手段ないぞ」

「おいおい、忘れちまったのかよ、アキラ。しずかちゃんは魔法が使えるだろ」

「は? そうだっけ?」

 俺がしずかの方を見るとしずかの方もなんのことかわからないらしい。

 どうやら、この世界ではすでにしずかは魔法を使った後のようだ。

「やってみます」

 しずかはそういってメイスを地面に下ろして、両手を突き出して構える。

 魔法を向ける先は近くのゴツゴツとした岩だ。大きさは3mくらいだろうか。

「シャイニングレイン」

 ぼそっと呟くしずか。

 道中、大吾が使ってた魔法の真似か。

 光の光線を雨のごとくたくさん出して、敵を攻撃する魔法だったな。

 大吾は空に飛ぶ魔物を撃ち落とす時に使っていたが、しずかはどうだろう。

しずかの手の平から先に巨大な魔法陣が展開されていく。

そこから一気に黄色い光の光線が雨の如く降り注いだ。

しずかの放ったソレは大吾の放った魔法の光線よりも大きく太い。

対象の岩にはでかい穴が次々に開いていく。

いやいや、まてまて。本職より強い魔法ぶち込んでるじゃねえか!?

穿たれた岩にはもう原形がほとんどなく、一風変わった芸術品のごとく、ほっそりとした岩がそびえ立っていた。ティッシュを細くねじった時があるだろ。あんな感じだと思ってくれればいい。もはや、岩はどうやって立ってるのかもわからないほどだ。

「どうですか」

「相変わらずだな、しずかちゃん。さすがはオレの弟子だぜ」

 いや、いつから師弟関係だったんだよ、お前ら。

 というか、しずかってメイスで殴るより魔法の方が得意だったのかよ。

「これ、大吾より魔法使いとして上なんじゃ……」

「魔法には向き不向きがあるから。しずかちゃんは光属性の魔法が得意ってだけだよ」

「そういうもんなのか」

「そういうもんだよ。たぶん、アキラも色々魔法を使ってみたら、大吾より得意な分野があると思うよ。何事も向き不向きってやつがあるからね。まっ、あたしには魔力そのものがないから魔法自体使えないけど」

 俺も魔法を使ってみたら、あんな風にできるんだろうか。

 しずかの放った光魔法を見て、内心ワクワクが止まらなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る