1-16【承太郎の祖父】(1)

これでよかったんだよな・・・



あいつを送って家に帰ると

家の前に柚希ゆずきが立っていた。



柚希ゆずき?」


「帰る頃かと思って!

今日もしずくちゃんと勉強?」



「あぁ。それも今日で終わりだから

あいつにはもう会わないよ」



「もういいのその事は、

わたし承太郎じょうたろうにずいぶん甘えてたって気づいた。


承太郎じょうたろうに対する気持ちは甘えだったんだって気づいたから。」



「・・・」



「父にねっ、私の気持ちをちゃんと伝えたの。


歌がやりたいって、

そしたらすごく喜んでくれて。



・・・わたしずっと勘違いしてた。


父はわたしがやりたくないことを

やってることに怒ってたってわかったの。



・・・でね。

音楽の植野先生が歌のコンクールを勧めてくれていて、


それに出ようと思う!」




柚希ゆずきの表情は晴れ晴れとしていた。


「そうか。良かったな。」



「最初に承太郎じょうたろうに伝えたかったから待ってた!


この間は自分の気持ちを押し付けるようなことしてごめんなさい。」



「あぁ」



「あれは気にしないでっ 


承太郎じょうたろうを好きでいることがわたしの支えになっていたみたい


恋愛感情じゃないよきっと 




色々相談にのってくれてありがとう。

じぁまた明日!おやすみ」



「あぁ。おやすみ」




家の門を入ろうとすると



「あっ。そう言えばしずくちゃんて狼飼ってるの?


なんかいつも近くにいるから」



「おまえ見えるのか!」


「見えるのかってなに?」


俺の他にも記憶があるやつがいるのかっ?




「いやなんでもない・・・」


「そう。おやすみなさい」



なんか少し寂しいなっ。

でも、昔の柚希ゆずきに戻ったみたいでよかった。


大きな荷が下りたって感じだな。



さっき狼って言ってたが、

柚希ゆずきも仲間なのか?


・・・



家の立派な門の前に立って


まじまじとデカいと感じた。



あいつにもう会うつもりはないって

言っちゃったじゃないか・・・


何だろうかこの気持ち


自分から遠ざけといて、あいつに会いたいと思うなんて



うちは爺さんが一代で会社を築き上げて

今では大企業の仲間入りだ


家には家政婦がいて、

専属のドライバーもいる。


俺はいわゆるお坊ちゃんてやつだ



俺は別にそんな生活は望んでいない。



親父や兄貴たちみたいに野心なんてないし

なんでこんな立派な家に生まれてきたのか少し不思議だった。



修学旅行から帰ってから『あの星』のことは 

断片的に少しづつ思いだしていた。


自分の記憶なのか夢なのかわからないが



こういうのを前世の記憶っていうのか?


良くわからないからとりあえず『あの星』としておく。



『あの星』では俺たち家族は

あいつの家に使え身の回りの世話をしていた。


子供の頃から一緒に育ち、いつしかお互いに好意を寄せていた。


だが身分が違いその恋は叶えられなかった。



俺は目の前にある大きな家を眺めて


身分さえあれば叶ったと思っていたのかもしれないと感じた。



自分の記憶なのか夢なのか、

まだよくわかんねぇ~けど



俺がこの家に生れてきた意味が少しわかった気がする。



このままあいつに関わらないと言うことは

あり得ない事なのかもしれない。




玄関の扉を開けると


承太郎じょうたろう坊ちゃん、会長がお呼びでございます。

今から車をだしますので・・・」


山田さんがそう言って出迎えた 



「爺さんが・・・?俺に?」



少し離れたら山のふもと辺りに爺さんの家がある。



爺さんは親父に仕事を任せてからあまり表には出ないし


口を出してこない、ましてや俺に用事なんて珍しい。



いったい何事だ。

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