第11話 お菓子の家

今回は少し趣向を変えて、独立した絵本作品として描きます。


――――――――――――――――



むかしむかし

何年も不作で苦しんでいる

国がありました。


雨が降らず作物は育たず、

食べ物がなくなって

いくつもの町や村が消えていきました。



そんな国のとある森のそばの一軒家に

ヘンゼルとグレーテルという

仲の良い兄妹がいました。


おかあさんは二人が小さいころに

亡くなっていましたが

木こりのおとうさんと貧しいながらも

つつましくくらしていました。



しかし、日に日に生活は苦しくなって行き

やがてその日の食事にも事欠くようになって

兄妹は、いつもおなかを空かせていました。


妹のグレーテルは言いました。


「わたし、魔女になりたい」


「魔法でお菓子をたくさん出して

 毎日お腹いっぱい食べるの」



その国には、古い言い伝えがありました。


*****

どこかの森に

『お菓子の家』

と呼ばれる家がある


そこは柱も壁も屋根も床も

すべてがお菓子で出来ていて

いつでもすきなだけお菓子を

食べることができるステキな家


でもそこには

悪い魔女が住んでいて

見つかると殺され

食べられてしまう怖い家

*****


「わたしが魔女になったら

 人殺しなんてしないわ」


「お菓子の家を作って

 お兄ちゃんやみんなに

 食べさせてあげるの」



ある日その木こりの家に

ひとりの痩せこけた女の人がやってきました。


「どうか、パンをひとつおめぐみください

 もう3日も何も食べていないのです」


かわいそうに思った木こりはパンを与えました。


「町はそんなにひどい状態なのかい?」


「はい、食べるものがなく

 餓死した人がたくさんいます

 私も口減らしで追い出されてしまったのです」


パンのお礼を言って家を出た女の人は、

何歩も歩かないうちに倒れてしまいました。


木こりは困ってしまいましたが

見捨てることができず家で寝かせました。


気がついた女の人はお礼を言った後

木こりに言いました。


「辛いでしょうが子どもさんたちの

 これからを考えた方がいいですよ

 そのうちここにも人さらいがやってきます」


「さらわれた子どもは奴隷にされて死ぬまで

 働かされ最後は食べられています」


「いま町には、子どもの姿は

 どこにもありません」



それを聞いた木こりは驚き、悩みました。



「今のこの国では、弱い者はもちろん

 強い者もなかなか生きていけません」


「全滅したくなければ

 口減らしはしかたのないことです」


「安心してください

 わたしはすぐに出ていきます」


「あなたや子どもさんたちの目につかない

 ところまでできる限り離れますから……」


「気に病まないでください

 誰が悪いのでもありません」


「たぶん……時代が悪いのです」



木こりは悩みましたが

どうすることもできませんでした。



そしてそんな木こりの姿を

物陰からヘンゼルが見ていました。



女の人が出ていった数日後

木こりはヘンゼルとグレーテルを

森の中に連れて行きました。


そしてあとで迎えに来ると

言い残して去って行き

夜になっても戻ってきませんでした。


グレーテルは泣き始めましたが

ヘンゼルは慌てず月が出るのを待ちました。


父親の姿から自分たちが捨てられると

考えたヘンゼルは、あらかじめ

月の光を受けて光る白い石を

ポケットいっぱいに集め

森の中へ入ってから帰りの道しるべとして

その石を落としていたのです。


やがて月が登ると、光る石を目印に歩き

無事家にたどり着くことができました。



木こりは子供たちの帰宅を

心から喜びました。

本当は捨てたくなどなかったのですから。


しかし翌日、木こりはもう

時間がないことを知りました。


人さらいどころか

凶悪な強盗団が近づいて来ていたのです。


彼らに見つかれば、一家全員

殺されるしかありません。



木こりは最後のわずかなパンを

子どもたちに全部持たせると

また森の中へ連れて行き、

置き去りにしました。


もし自分が生き延びることができたら

探しに行くつもりでした。


ヘンゼルは前回と違い突然のことで

光る小石を準備できず

しかたなくパンをちぎって

目印の代わりにしました。


しかし小石と違ってパンのかけらは

森のたくさんの鳥たちがついばんでしまい

二度と見つけることができませんでした。


でも、それは幸運なこと

だったのかもしれません。


なぜならもしその時

家に帰っていたなら……

悲しく恐ろしいものを見ることに

なったでしょうから。



ヘンゼルとグレーテルは父親から

もらったパンで飢えをしのぎながら

3日間森の中をさまよい、

偶然ぼろぼろの家を見つけました。


元は炭焼きが仮住まいとして

使っていたもので、

今にも崩れそうなひどい状態でした。


しかし毒虫や毒ヘビ、狼などに怯える

森での放浪生活に疲れ果てていたふたりは

夢中で駆け寄りました。



その家には目の悪い老婆が

ひとりで住んでいました。


老婆は最初驚いていましたが、

ふたりを家の中に誘い

食事やお菓子をくれて、

ベッドで寝かせてくれました。


でも数日後、ヘンゼルとグレーテルは

恐ろしい事実を知ることになります。


この老婆の正体は、子どもをおびき寄せ

殺して食べる悪い魔女だったのです。


ふたりは逃げ出したかったのですが

この家を出て森に入っても

餓死するか狼に食べられるだけと

わかっているため

どうしようもありませんでした。


それに相手は魔女です。

どんなに逃げても魔法で連れ戻されたら

終わりなのです。



魔女はヘンゼルに家の周りの畑仕事を、

グレーテルにパン焼きなどの家事を命じ

働かせました。



魔女は言いました。


「お前たち、なんて軽いんだい

 まるで羽根みたいじゃないか」


「これじゃあ食べごたえもないし

 太らせてから食うしかないねぇ」


「いいかい、これからは毎日

 わたしが言う量、必ず食べるんだよ」



目の悪い魔女は太り具合を確かめるため

ときどきヘンゼルたちの指を触っていました。


最初、ガリガリに痩せていたヘンゼルたちも

しだいに元気になり、指が太ってきました。


でもそうなると食べられてしまうと考えた

ヘンゼルたちは、指の代わりに

食事の残りの骨を差し出しました。


「なんだい、まだこんなに痩せてるのかい

 もっとしっかり食べて太りな」



そんなふうにヘンゼルたちを食べるのを

先延ばしにして数ヶ月が経ったある日、

魔女が言いました。


「もう我慢できないよ

 大壺を用意しな

 火にかけ湯を沸かすんだ」


「逃げようなんて考えてもムダだよ

 魔法で連れ戻すからね」



魔女はヘンゼルに庭の畑の野菜を

採ってくるように言い、

グレーテルに自分たちを煮ることになる

大壺の用意をさせました。


そして大壺の中が覗ける高さに台を出し

その上に上がって、中の様子を見はじめました。



大壺を覗く魔女の後ろに

グレーテルはゆっくり近づきました。


そして、言いました。



「なぜ?」



「なぜ魔女さんは、そんなに優しいの?」



魔女はゆっくり振り向き

グレーテルの方を見て聞きました。


「何わけのわからないこと言ってるんだい?」


「前にも言っただろう?

 わたしは子どもをおびき寄せて殺して食べる

 悪い魔女なんだよ」


「優しいわけがないだろう?」



「魔女さん、どれだけ太ったか確かめると

 言ってよく私たちの指に触ってたけど、

 料理の骨って気づいてたよね?」


「気づいていながら、気づかないふり

 してたよね?」


「そしてもっと食べて太れって言って

 自分の食事を全部わたしたちにくれてた……」


「魔女さんが指に触って確かめると言う日は

 いつも食材が雨や害虫にやられて

 食べ物の量が少ない日ばかりだった」


「あれって、わたしたちに食事を

 譲ってくれてたんだよね?」



「それにわたしたちを食べるって脅して

 自分を殺させようとしてるよね?」


「パン釜に入ってパンの焼け具合を確かめる時も

 わたしを先に出した後、中にしばらく居て

 もしわたしがかんぬきを掛けたら

 簡単に殺せるようにしてた」


「今もそう……

 わざわざ煮立ってる大壺を覗き込んで

 後ろから突き飛ばせば

 簡単に殺せるようにしてる」



「わたし、この家の倉庫を見たけど

 食べ物もうほとんど残ってなかった」


「魔女さんは、これまで蓄えていた食料を全部

 わたしたちに食べさせてくれたんだよね?」


「それで、もう食料がなくなっちゃったから

 口減らしのために自分を殺してもらおうと

 してるよね?」


「それも、後でわたしたちが苦しまないように

 わざときつい言葉を使って……」



「魔女さんは自分を悪い魔女だって言うけど

 魔法なんて使ったことないよね……」



「魔女さん、いつも帽子をかぶっていて

 なぜ顔を見せてくれないの?」


「わたし、知ってるの」


「とうさんは、かあさんが病気で死んだって

 言ってたけど……」


「かあさんは目の病気で

 周りがよく見えなくなってただけで

 死ぬような病気じゃなかった」


「でも、そのために仕事が何もできず……」


「かあさんは自分から口減らしのために

 森に入って帰ってこなかったんだ」


「かあさんは病気で死んでなんかない」



「それに……

 わたしたちがこの家にたどり着いた日に

 魔女さんが作ってくれた蜂蜜ケーキの味……」


「あれは……

 あれは、昔かあさんが作ってくれてた……」


グレーテルは泣き出してしまいました。



魔女は帽子を取って言いました。


「大きくなったね、グレーテル」


「また会えるとは思ってなかったよ……」



「でも、お別れだ

 この家には三人養えるほどの食料はない……」


「庭の畑の手入れの仕方は

 全部ヘンゼルに教えたし

 あなたの家事も一人前だ」


「二人で仲良く暮らすんだよ」



「わたしはお前たちを捨てた悪い母親だ

 一緒に暮らす資格はないからね」



グレーテルが魔女のそばに駆け寄り

何か叫ぼうとした瞬間


魔女はいきなりグレーテルを突き飛ばし、

そのまま後ろに倒れ込み

煮えたぎる大壺の上に飛び出しました。


グレーテルは必死に魔女に手を伸ばしましたが

届きませんでした。



その時グレーテルの横を何かが通り過ぎました。


ヘンゼルでした。


ヘンゼルは魔女に飛びつき

そのまま大壺を超えて飛び降りました。



「かあさん、軽いな

 羽根みたいだ」



「なにやってるんだい

 わたしはお前たちを捨てた悪い母親なんだよ」



「違う……

 ぼくたちは捨てられてなんかない」


「かあさんはぼくたちを守るため

 あの時自分を捨てたんだ」


「二度も捨てさせないよ」


「ぼくたちももう何もできない子どもじゃない

 森で食料くらい探せるよ」


「三人で暮らそう」


そう言ってヘンゼルとグレーテルは魔女を……

いえ、母親を抱きしめました。




むかしむかし、何年も不作が続いて

人が人でなくなるような辛く苦しい時代に

とある森の中に一軒の家がありました。



その家は古いけれど、

蜂蜜の甘い匂いが漂い

幸せそうな笑い声に包まれていました。



綺麗な花に囲まれたその家は

まるで『お菓子の家』のようでした。




――――――――――――――――



今回の話を動画で見たい方は、こちらへどうぞ


ニコニコ動画版

https://www.nicovideo.jp/watch/sm35894990


YouTube版

https://youtu.be/6xLvxlx2F-k



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次回、【第12話 ヘンゼルとグレーテル】


明日19時更新予定です……と思ったけど、ちょっと遅れそう。

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異世界転生したら絵本の世界だった 八志河 蘭 @yatsushigawalan

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