第10話 赤ずきん

あけおめ、ことよろ。(特に冬コミ頑張った方、お疲れ様でした)

とりあえず3話くらい更新予定。


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「赤ずきんちゃんが危ない?」

惑星調査官から貰った通信機スマホで、転生マッチ売りの少女から緊急連絡が来た。


 この人、見た目幼女なんだけど前世看護師で頭が良く童話や絵本に詳しいんで、俺たち転生者の司令塔みたいな感じになってるんだよね。


『ええ、あなた達が今いる所のすぐ近くの街なんだけど、赤ずきんと思われる女の子が見つかったの』


「それで何が危ないんです?」


『赤ずきんのお話はペロー童話とグリム童話が有名なんだけど、基本的に女の子が大人の言うことを聞かずふらふら遊んでいたら悪い狼に食べられるよっていう教訓話なの』


 確かに赤ずきんの話って、母親からおばあさんへのお使いを頼まれた女の子が悪い狼にそそのかされて道草をして……って話だよな。


『問題なのは後半なの。すべての話で共通してるのは、悪い狼におばあさんと女の子が食べられたところまで。ペロー童話だとそこで終わってるのよ』


 要するに猟師が出てきておばあさんと女の子を狼のお腹の中から助けるというエピソードを追加したのはグリム兄弟で、それ以前の話では存在しないらしい。


 絵本を元としたこの世界では、不確定要素のキャラクターは現れない。


 つまり、このままでは二人とも悪い狼に食い殺されて終わり……と。


 それはヤバイ!



「浦島太郎と愉快な仲間たち、行きまーす!!」


 ポーズを決めながら叫ぶ俺。



「おじさん、なんだか痛い」


「それはお主が言っていた決め台詞と言うものかの? それでこれはどこが面白いのじゃ?」


「やめてっ!真面目な顔で聞かないでっ!!」



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「え? どうしたの猫亀様?」

赤ずきんちゃんを陰ながら護衛するため、急いで彼女が居るという街に行って遠くからその姿を見たとたん猫亀様が変になった。


 なんだか汗垂らしながら震えてる?


 いつも冷静沈着な猫亀様がどうしたの?



「あの娘は……、いや、あの娘の前世は、吾輩の妹だった猫だ」


「「は?」」


 俺と乙姫は、変な声を出して固まってしまった。


 赤ずきんちゃんが転生者で前世が猫?


 しかも猫亀様の妹?


 いやマジな話、この世界って情報量多すぎないか?



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



 俺たちは赤ずきんちゃんを数日監視し現状を分析していたが、思った以上にストーリーが進行していた。



 現在の状況としては……


・猫亀様の見立てによると、赤ずきんは前世の記憶を思い出している


・だが前世が猫のため赤ずきんのお話等は何も知らない(当たり前だ)


・明日の朝、赤ずきんは母親の焼いたパンを持って、森にひとりで住んでいるおばあさんに届けに行く


 と、なっている。



 原作の通りなら、人目の多い街中を過ぎた所で狼が声を掛け、赤ずきんに道草するように唆し、おばあさんの家に先回りしておばあさんを食い殺し、その後やって来た赤ずきんを食べるという展開となってしまう。


 確実に赤ずきんとおばあさんを助けるためには、おばあさんの家で待ち伏せて、狼がおばあさんを襲ったところを現行犯で捕まえるのがベストかな。


 さすがに何もやってない状態の狼を襲うのは、こっちが犯罪者になっちゃうからなぁ。



 明日、俺たちは二手に分かれる予定だ。


 まず俺と猫亀様が赤ずきんちゃんを陰ながら護衛。


 そして乙姫が森の中にあるおばあさんの家で待機する。


 万が一、俺たちが狼を見失った時のためだ。


 狼が赤ずきんちゃんと話しおばあさんの所に行ったら、猫亀様はそのまま護衛を続け、俺は狼の跡を付ける作戦だ。



 完璧な布陣のハズなんだが、猫亀様が「胸騒ぎがする」と言っている。


 猫亀様の勘は、もはや未来予知に近いものがあり無視出来ないんだよなぁ。



 それにしても猫亀様、赤ずきんちゃんに兄だと名乗り出なくて良いのかね?


 前世で何かあった……?



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



 翌日、予定通り赤ずきんちゃんはおばあさんの所にパンを届けに出発した。



「ことりさんー、おはようー♪ ちょうちょさんー、こんにちわー♪」


 ……どうやら赤ずきんちゃんは、かなり個性的な女の子のようだ。


 出会った小鳥やチョウチョに独特な歌で挨拶しながら歩いている。



「わたしはー、はじめてひとりでおつかいにいくのー♪ わくわくどきどきー、もりのみちぃー♪」


 ……なんだろう? この不自然さ。声と表情が合ってない?


 歌は楽しそうなのに、表情はびっくりしている? いや困惑している?



「おばあさんー、まっててねー♪ るんるんうきうきー、おつかいだー♪」


 まるで今の状況を誰かに説明しているかのような歌詞と、ダンスでもしているかのような動き。


 一応ミュージカルっぽいと言えなくもないけど、声と表情と行動のすべてがアンバランスすぎて、幼稚園児の演劇以上のぎこちなさがすごい。


 通りすがりの街の人たちも驚いている。


 なんだこれ?



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



 赤ずきんちゃんは鳥や虫を見つけるたびに歌いながらあちこちふらふら道草しつつ歩いていたが、なんとか森の手前まで来た。


 少し離れた場所でそれを見ている俺たちは、なんだか某テレビ番組はじ○てのおつかい見てる気分。


 ここまで来ると他の通行人が少なくなり、今は赤ずきんちゃん一人だけだ。



「こんにちはー、かわいいお嬢ちゃんー♪ 楽しそうにどこに行くんだいー?♪」

突然声がして、物陰から狼が現れた。


 予想していた通り狼が待ち伏せしていたようだが、こっちも出てくるなり子どもの学芸会レベルの明らかな演劇・・を始めた。


 俺たち何を見せられてるんだ?



「こやつは!!」

狼を見たとたん、猫亀様が背中の毛を逆立てて叫んだ。


「こやつの前世は、猫だった吾輩と妹に怪我をさせた犬だ!」

えええ、待って、情報量が多すぎる!


 つーか猫亀様、すごく真面目に重要なこと言ってるんだけど、やんのかステップやりながらなんで、なんだかほっこりしてしまった。



「こんにちはー、オオカミさんー♪ おばあさんのところへー、ひとりでおみまいにいくのよぉー♪ えらいでしょー?♪」


「へぇー、それはすごいねぇー♪ おばあさんはー、どこにすんでいるんだいー?♪」


「この道をー、まっすぐいったー、大きな木が三本あるところよー♪」



 俺と猫亀様は少し離れた草むらの影から見ているため、客観的に見て、赤ずきんちゃんと狼は観客もいない道の真ん中で演劇やってる変な人たちだ。



「そうなんだー♪ あぁそうだー、この脇道を入ったところにー、きれいな花畑があるよぉー♪」


「見てみたいけどー、でもダメよぉー♪ 道草したらー、おかあさんにー、おこられちゃうわぁー♪」


「花畑の花でー、花束を作っておばあさんに贈ったらー♪ きっとおばあさんが喜ぶよぉー♪」


「そうねー♪ オオカミさんー、しんせつにありがとぉー♪」



 そう言うと、赤ずきんちゃんは脇道に入って行った。



「クックックー、うまそうな子だー♪ ここで襲うとー、通行人にー見つかるなー♪ おばあさんの家でー、まちぶせだー♪」



 赤ずきんちゃんを見送った狼が、堂々と犯罪予告を喋っている。


 でも、とても本気で言っているとは思えない。村祭りの素人演芸より数段ひどい演技だ。


 と言うか、大声で歌ってるから、これ赤ずきんちゃんにも聞こえてるよね?


 あ……、赤ずきんちゃん戻って来た。




「あのー……」

赤ずきんちゃん、すごく困った顔で狼に話しかけてる。


「あ、こんにちは、赤ずきんちゃん」

お、ふたりの口調が普通になってる。


「オオカミさんもわたしと同じで、身体が勝手に動いてたんですか?」


「うん、君もだね?」


「はい、無理やり止めようと思えば出来そうだったんですが、止めると何がおこるか分からない感じがして……」



 あー、やっぱり物語の強制力ってヤツで動かされてたのか。



「私もだよ。でもこの後、赤ずきんちゃんのおばあさんを食べる展開になりそうなんだよねぇ。さすがにこれはやれないなぁ」


「あの、オオカミさん、以前どこかで会ったことありませんか?」


「無いはずなんだけど、なぜか私も君と会ったことがある気がしてるんだよね」



 へ? ひょっとしてこれって……



「あの、もしかしてオオカミさん、生まれる前のこと覚えてませんか?」


「え? と言うことは君も?」


「はい、こことは違う世界で猫として生きてました」


「私は犬だったよ。目が見えない人が歩くのを助ける仕事をした後、引退してのんびり生活してたんだけど、ある日庭でお昼寝してたらひどい地震があってね。大きな壁が倒れてきて死んじゃったんだ」


「やっぱり! その時、猫をかばったでしょう!」


「え! それじゃあ君ってあの時の?!」


「はい、よく一緒にお昼寝してた野良猫です」


「あー、助けられなくてゴメンね」


「そんなこと言わないでください! ……あの時、あなただけなら逃げられてましたよね?」


「それは……」


「壁が倒れて来た時、真下に居たわたしはショックで動けなかった。あなたは逃げられたのに、わたしを守って一緒に下敷きになった」


「結局助けられなかったんだから、やっぱりゴメン……」


「そんなことより、ちょっと良いですか?」


 そう言うと赤ずきんちゃんは突然狼に抱きつき、背中に飛び乗って頬ずりを始めた。


「んふー、もふもふー」


「お、おい、いきなり何を……」


「懐かしー、前世と同じだー! わたし、あなたの背中でお昼寝するの大好きだったんですよー」



 俺と猫亀様は、あまりの急展開について行けず、ふたりを呆然と眺めているだけだった。


 つか、今この状況で声かけたら、ラブラブカップルの邪魔するただのウザいヤツじゃん。



「本当にあの時の猫なんだね」


「そうですよー。前世ではお昼寝してるあなたの背中に勝手に上がって遊んだりしてごめんなさい」


「そうだったね。たまにお兄さん猫とケンカして大変だったなぁ」


「あははは、そうでしたねー。お兄ちゃん叩こうとして、うっかりあなたの背中に爪立てちゃって、びっくりしたあなたが立ち上がってふたり共転げ落ちたこともありましたねー」


「あったねぇ。あの時は落ちた所にサボテンの鉢植えがあって、ふたり共怪我したよね。大丈夫だった?」


「はい、たいしたことないのにお兄ちゃんが大騒ぎしちゃったんですよねぇ。ホントご迷惑おかけしました」


「いや迷惑なんて思ってないよ。私も元気な君たち見ていて楽しかったし」


「でもお兄ちゃんって庭にあった植木鉢や水槽倒して、それをあなたがやったようにごまかしててサイテーでした!」


「はははは」


「特に許せなかったのは、ゴミ箱や排水口を漁ってドロドロ状態のままあなたの背中に登ろうとしていたこと。もうサイアク!」


「前世のことだよ。もう許してあげなさい」


 優しく微笑みながら話すオオカミ。それを見る赤ずきんちゃんの顔は火照ったように赤くなっていた。


「……オオカミさん、……ありがと」




 少し離れた物陰でふたりの会話を聞いていた俺たちは、ゆっくりとその場を離れた。



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「誤解じゃ! 物を倒したりゴミ箱を漁るのは野良猫の本能的な行動であり……!」

俺がチベットスナギツネの顔で猫亀様を見ていたら、なんだか必死に言い訳はじめた。



 とりあえず通信機スマホで乙姫とマッチ売りの少女に連絡しよう。


「撤収ー!撤収ー!撤収ー!! 赤ずきんちゃんは大丈夫。最高の騎士ナイトに守られてて問題無し。浦島太郎はクールに去るぜ」



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『ミュージカルの絵本だったのね』

俺と猫亀様が乙姫と合流し、マッチ売りの少女に通信機スマホで詳しい経緯を報告したら、こんなことを言われた。



『絵本って子どもに読み聞かせるだけじゃなく、いろんな用途があるの』


『幼稚園や保育園の生活発表会でやる劇の、絵付きの見本として作られたものがけっこうあるのよ』


『ミュージカルみたいな調子で描かれていて、そのまま舞台で読んで、絵の通りに演技すれば良いように作られてるの』


『まさかそんなのまで再現されてるとは思わなかったわ』


『それにしても身体が勝手に動く……ね、物語の強制力ってやっぱり私たちが想定してた以上に強力なようね……』



「どうしたの? 何か問題でもあるの?」

乙姫が聞くと、マッチ売りの少女は困ったような声で答えてきた。



みんな転生者の協力で、この世界のことが少し解って来たの』


『これまでの検証の結果、今のところ判明したルールは以下の4つ』



『(1)この世界は私たちの前世の絵本の世界を再現しようとしていて、基本的に絵本の通りのストーリーが進行する』


『(2)ただし元となる絵本が複数あり、それらの登場人物に相違がある場合は、不確定要素キャラとして登場しない』


『(3)その絵本の世界に転生者が居た場合は、その転生者はその世界内で自由に行動出来るが、子どもや犬・猫のような自我があまり確定していない転生者の場合は、強制力の影響を受ける』


『(4)その絵本の世界に転生者が居なかった場合は、他の絵本の転生者が何をやっても物語の強制力が発動し、絵本の通りのストーリーが進行してしまう』



『とにかく(4)が強力なの』


『絵本って、けっこう悲惨な内容の物が多いんだけど、その中の誰かを助けようと思って私たち他の絵本の転生者が何かやろうとした場合、ストーリーに影響が無ければある程度自由に出来るんだけど、ストーリーを変えようとするとものすごい強制力が働いて、予測出来ない現象が起きるのよ』


『今回の赤ずきんちゃんの場合は、転生者が二人いたからストーリーが変わっておばあさんも赤ずきんちゃんも助かったけど、もし転生者がいなかったら私たちが何をやっても元のストーリーのまま進行して二人は殺されてたでしょうね……』


『以前あなたたちがシンデレラを助けた行為は、ストーリーを変えようとしたのではなく補完した行為なので問題無かったけど、基本的に悲惨なストーリーの絵本をなんとかしようと思ってもどーしようもないの』


『絵本ではさらっと流されるエピソードでも、現実となったこの世界だとたくさんの人が苦しむことになっちゃう……』



「あー……、なんかそういう国でも見つかったのか?」

俺が聞くとマッチ売りの少女は、ため息をひとつついて答えた。



『あなた達が今いる所の近くの国なんだけどね、どうやらグリム童話の世界みたいで……』


『転生者が居なくて、滅びそうなの』




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次回、【第11話 お菓子の家】


明日19時に、少し趣向を変えて絵本作品として更新予定です。

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