新しい棲家
「たっだいまぁ〜!あれ!?先生!?何でここに!?」
「ふぉっふぉっふぉっ。前のファミリーに少〜し・・・。お暇させてもらったのだよ。マザーにお叱りを貰ってしまってね」
「いや、それは・・・だけど、先生もリアクに改造してもらったの?」
「おぉ!アイルー!久しぶりだ!」
「あぁ!リアク〜!会いたかったよ〜!(スリスリスリ)あれ?リアク?なんか人間の臭いが強いんだけど?」
「うむ。実は人間の協力者を得たのだ。近々、この巣の大移動を致す。アイルーなら分かってくれるとは思うが、楽園を作るためだ」
「へぇ〜!人間の協力者なんだ!?嬉しい〜!」
いや、我が妹よ。普通なら怖がる所だと思うのだが?我なら失禁するレベルなんだが?
「理解が早いな。で、だ。アイルーはこれから子の為に栄養をたくさん摂取しなければならない。此度に関しては我が人間の食べ物を用意する。と、いうか用意してきた。まず、ちよこれいと、次に飴玉だ」
「うわぁ〜!これが・・・大きい・・・」
「あぁ。先程、人間で居た時に巣の前に割っていたんだ。先生も食べてほしい。甘い蜜を作っていただきたいからです。で、ここから真剣に聞いてほしい。
当初は毎日人間の食べ物でも良いかと思ったが、それは辞める事にした。何故なら我が居なくなった折にファミリー、または同盟などを結んだ他ファミリーの同胞などが生きていけなくなると思ったからだ。
たまに、狩りと称して我が試練を与え、褒美として出す事とする。もしくは、食べ物の貯蔵が間に合わない場合や、病気の同胞や子達に食べさせるくらいだ」
「えぇ〜!」
「アイルー。分かってくれ。人間の物など、中々食べられなかっただろう?それが我達蟻界の自然の摂理だ。我らは一人では弱い。弱い故に頭が発達し、高度な連携が取れる種族となったのだ。我はそうだと考えた。
だから、それを根本から崩す生活は種族を脅やかす事だと心得よ。人間の食べ物を食べた3代向こうの子達は人間に忌避感を感じなくなり、無闇やたら人間に近付く子ができたとしよう。結末は分かるな?それに、狩りをしなくなった子や同胞、仲間は他の種族の糧となるだけだ。戦う術を自ら放棄するのだからな」
「確かに・・・」
「それと、これは未だ確定ではないが、人間の食べ物は美味い。それは我から見てもそう思う。特にこの国の人間の食べ物はな。我等がそれを食べ続けると、栄養過多で動けなくなる仲間も出てくるだろう。
狩りをサボり、仕事をサボり肉が丸々ついた仲間はあのトンボのような敵の格好の餌だ。
あれは単独で移動する敵だとは思うが、仮に仲間と連携し、巣に襲来してくれば一網打尽にされる。
我が人間に戻りどうとでもできるだろうが、我もいつかは死ぬ。我が居ない時もあるだろう。我もできる限り人間には戻らぬ。楽園を作りたいからだ。
分かってくれるか?」
「分かった!」
「質問はあるか?」
「ない!」
本当に質問はないのだろうか。我が妹ながら不安である。これからファミリーの創設となる訳だが、我は些か不安である。そもそもの巣の部屋が一つしか無くなっているというのに何も言って来ないんだが?
「で、だ。少しだけ卵を産むのを待ってほしい。今、安全な所に巣を移動しようとしているのだ。人里離れた場所ならば誰にも邪魔されない。人間の都合で巣を壊されたりもしない。そう思うのだ」
「了解〜!リアクに任せるよ〜!」
「そうか。同胞の雄はどうだった?王たる器だったか?」
「うん!カッコよかったよ!3人で争い勝った雄なんだ!羽も綺麗で飛び方も他とは違ってた!」
「そうか。それは良かった。とりあえず、最初の子供達はこれから作る国の・・・楽園の礎となる子達だ。少数精鋭。丈夫な子を頼むぞ」
「了解〜」
〜3日後〜
「ねぇ〜?リアク〜?まだ〜?」
「いや、もう少し待ってほしい。レナが嘘を吐く訳がない。何かと人間は制約が多いものだ。お!?感じる!アイルー!連絡が来た!今から向かってくる!」
「はいはーい!気をつけてね〜。先生!そこのちよこれいと取って〜」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「待たせたな」
「うわ!?ビックリした!」
「それはすまぬ。で、もう準備はできたのか?」
「ほら!この紙がそう!これから私達の土地!正確にはまた後日に郵送で私の家に郵便物が届くと思うけど、元の持ち主も喜んでいたって聞いたよ!値段も200万で買えたよ!」
「うむ。ふくざわ殿が200人か。中々だな」
「何が中々かは知らないけど。ってか、どうやってここまで行けばいいの?私だけ別行動?」
「いや、大丈夫だ。私に触れていなさい」
「うん?触れて・・・」
「あら?リアク〜お帰り〜!」
「え!?ちょっ、ちょっと変身するなら行ってよ!?あれ!?私の身体は!?」
「案ずるな。例の袋があっただろう?マジックポーチだ。あの中にある。例のゴブリンの魔石を割ると戻れる。何度も言うが、巣の中では辞めてくれ。壊れてしまうからな」
「いや、それは分かっているけど、あの中にお金入れてるなら言ってよね!?わざわざ支払いのお金を銀行から下ろした支払ったんだから!」
「いや、土地の金は我が払うと言ったであろう?レナは我に例の質屋からの金を我に渡したから持っていないと思ってな。いや、そんな事はもういいだろう。紹介致す。女王のアイルーだ。アイルー?この者が人間のレナだ。我が作った身体で蟻になってもらった」
「レナちゃんね〜!よろしくね〜!」
「え・・・・」
「うん?私おかしい?」
「いや、可笑しいとかじゃないけど・・・おじさん以外の蟻を初めて見たけど、なんというか・・・友達と話しているみたいで・・・」
「な?言ったであろう?人間も蟻も変わらないと」
「私は人間がどうとかは分からないけど、これからはレナも私の家族だよ!困った事があったら言ってね!相談も聞くし、しんどい時は休んでもいいからね?自分ができそうな仕事してくれるだけで助かるよ!」
「あ、は、はい!って・・・あれ!?」
「うむ。それが蟻の感情である!これが女王であるアイルーが持って生まれたものだ。いや、選ばれた者にしか与えられない何かだ!とりあえず、レナ?例の山を頭で思ってくれ。そのままこの巣ごと転移致す」
「え!?そんな事もできるの!?」
「当たり前だ!我は元大賢者で大魔術師で・・・」
「毎回その件を言うの?長い!はい!思ったよ!おじさん!」
「うむ。すまぬ。よし!ここだな、アイルー!先生!我に触れていてくれ!」
「はーい!」「リアク君。準備は大丈夫だ」
「よし!転移!」
バシューーーーン
「ここが・・・」「良い場所だ」
「うむ。レナ?大丈夫か?」
「なんか気持ち悪い・・・」
「軽い魔力酔いだ。転移は強力な術だからな。すまぬ。少し休んでいろ。直に良くなる。アイルー?先生?少し離れていてくれ。巣を拡張致す」
(ゴボゴボ ゴボゴボ ゴボゴボ)
「さっすがリアク!もう部屋がいっぱいできてるじゃん!」
「我にかかれば他愛無い!よし!できたぞ!アイルーは1番奥の部屋に入ってくれ!我は寝心地の良さそうな葉っぱを探してくる!先生は今はアイルーの横の部屋を使ってください」
「分かった。その前に・・・自己紹介をしていなかったね。見ての通り、居候のただのアブラムシだ。レナ嬢と言ったね?元は人間なのだろう?よろしく頼む。私は雄でもあり、雌でもあるのだ。少し待ちなさい・・・(ブルブル)うむ。調子が良い・・・来る・・・(ピト)滑り良し。粘り良し。飲みなさい」
「キャァァァァ〜〜〜!!!」
「レナ!先生に失礼であろうが!」
「少し・・・刺激が強過ぎたようだね。謝るよ。他の子達は喜んで私の蜜を飲んでくれるから勘違いしていたみたいだ。やはり人間は私なんか・・・私の種族なんか・・・グスン・・・」
「あぁ〜!分かった!分かったって!飲めばいいんでしょ!飲めば!(ゴグッ)え!?あれ!?甘い!?ってかかなり美味しい!?嘘っ!?」
「で、あろう!?レナ!分かったか!?これがアブラムシ先生の力だ!」
「良かった・・・私は嫌われたのかと思ったよ」
「アブラムシさん?いや、先生?何でこんな美味しいものを・・・」
「うむ。私は戦う術がないからね。まぁリアクが幾分か強い身体にしてくれたけど、私は捕食される側で、人間には駆逐される側だからね。けど、生きる為には仕方がないんだよ。
戦えないから人間の作る作物の液を少し頂いているんだけど、人間はそんな私達種族が憎いみたいで・・・ははは。それが私達アブラムシだよ。
けど、こうして理解のある蟻ファミリーと一緒に過ごす同胞も居るんだよ。私もその数少ない居候組さ。その代わり、蟻の幼生に私の蜜を飲ませてあげたり、家に敵が来たりすれば教えてあげたりするんだよ」
「へぇ〜!共生してるんだ!?初めて知った!あ、もう一杯貰える!?かなり美味しかった!」
「そうか。気に入ってくれたみたいで良かった。(ブルブル ピト)出来立てだ。飲みなさい」
「ねぇ〜、レナ?貴方はどこで寝泊まりするの?」
「え?それは分からないけど」
「そう?なら私の横においでよ!色々と人間の話を聞かせてよ!リアクに言っても私や先生は絶対に人間に今代?はなれないらしいから!」
「おじさん?便利な魔法でも無理なの?」
「うむ。これも生命の真理ではあるのだが、生ある者は魂がある。その魂はその代その代で何になるかは決まっていない。
そして先代の記憶やスキル、経験などはリセットされまた新たな生を授かるのだが、過去、アイルーや先生が人間に生まれた事があったとしてもリセットされている故に、人間の器を用意したとしても乗っ取りが成功するかは分からない。いや、寧ろできないと思って良い。人間の美的感覚なんかも分からないだろうし、蟻の顔の人間になるかもしれない、逆に身体が蟻の顔が人間になるかもしれない。
そもそものこのイリュージョンは禁忌に近い術なのだ。我は簡単にしているからそう見えないかもしれないが、中々に難しいのだぞ?」
「そうなんだ?ふ〜ん」
アイルーといい、レナといい、何故こうも反応が冷めているのだ。かなり高度な魔法を使っているというのに・・・もっと聞いてきてくれても良いと思うのだが・・・。
「まっ、いいじゃん!私は今の蟻の女王で大満足してるし、リアクも居るし、先生も居るし、初めて人間の友達ができたんだから!ね?レナ!」
「う、うん・・・そうだね!私も蟻の友達は初めてかな!?」
「そう!そう!じゃあ初めてだからマブダチだね!私達は死ぬまでマブダチだよ!さっきも言ったけど、レナが悩む事があれば聞いてあげるし相談にものる!逆に私が悩んでたりしたら話聞いてね!どんな事があっても私はレナの仲間だよ!」
「ありがとう・・・」
「レナ?種族は違えど、そういう絆や縁は大切にしなさい。人間の友達も大切だが、本当に悩んでいる時に側に居てくれる者こそ本当の仲間というものだ。
かつて我にもそう思っていた者も居た。あれは7代前か・・・。
妻に小遣いカットされ、昼食も碌に食べられない時に、毎日食わせてくれていた友が居たのだ。我は親友だと思っていた。
ある時、共に災害級モンスターを討伐に行った折に、若かった我達は到底太刀打ち出来なかってな。ついぞや、その友が倒れてしまい、我はもしもの時の為に残していた上級ポーションを友に飲ませたのだ。
その刹那、我はモンスターに右手を喰われてしまった。
友はそんな我を見て助からないと判断し、『メリッサの面倒はオレが見る!隠し財産の場所を言え!必ず渡してやる!』と言ってくれてな。我も今際の時だったが、一度は愛した妻を一人にさせるのは申し訳ないと思い、我の隠していた少しばかりの財産の場所を友に言い、後事を託した。
次代の生は少し年代が進んでしまったから、どうなったかは分からないがあいつの事だ。上手くモンスターから逃げ妻を見てくれたと思う」
「いや・・・おじさん、それって・・・」
「うむ。皆まで言うな。分かる。あれこそ真の親友なのだとな」
いや違うよ。おじさん・・・。間違いなくおじさんを見捨て、奥さんを寝取り、おじさんの少しの隠し財産をもネコババしようとしていたのだろう・・・と。言えない。涙流してそうに話すおじさんには言えない・・・。どんだけおじさんは純粋なのよ・・・。
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