灰褐色の悪魔1

 「ハァー疲れた!おじさん!とりあえず今月の家賃の振り込みとその他諸々の手続き終わったよ!」


 「うむ!で、あるか!ご苦労!これでレナも心置きなく生活できるわけだな!」


 「う、うん。まぁそうだね!」


 「アイルー!元気にしているか?問題ないか?」


 「うん!大丈夫だよ!レナから教えてもらって、葉っぱでベッド作ってもらったんだけど、最初の子供達はここで育てるよ!寝心地が良くて気持ち良いんだよ!」


 「そうか。我はこの周辺の生体を調べている。東西南北に同胞の巣がある。要らぬ争いを避けるために、また、我等は仲間が居ない。戦争になっても勝ち目がない故に、なんぞ獲物を持参し挨拶に向かおうと思っている」


 「そこまで下にならなくてもいいんじゃない?」


 「いや、今は完璧に下だ。向こうから仕掛けてくるならば容赦はしないが、まぁ、向こうの女王の考えがどうなのかで決まるがな。手土産に飴玉のカケラも用意している」


 「そっか。分かったよ!私はすぐに子供を育てるからね!」


 「うむ。これからも仲間、家族のためにいっぱい元気な子を産んでくれ!とりあえずは、肉を用意してくる。希望はあるか?」


 「あっ!なら、幼生の時に食べた甘い蜜がいいな!」


 「うむ。今は仕方がない。蜜を運ぶのに手間取るからここに人間が採取した蜂の蜜がある。これを飲んでいてくれ。肉はこの蜜に寄せられたハエを捕まえたから解体した。これを食べてくれ。アイツらは良い飯だ」


 「ありがとう!」


 私は心まで蟻になったのかな?あの解体された肉片の・・・ハエ・・・美味しそうに見えてしまう・・・。


 「あぁ。レナ?後で食べさせてやる。我も疑っていたが、アレは間違いなく飯で、肉だ。美味いぞ。奴は空を飛ぶからな。中々捕まえられないが、頭を使えば簡単だ。蜜を置き、付近で待ち伏せすれば直ぐに狩れる。奴も攻撃手段は口しかないから捕獲は簡単だ。ただ、身体にしがみ付き、振り落とさられば危ないが、まぁ、我が作った身体なら問題ないだろう」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「おじさん?隣の巣までどのくらいなの?」


 「うむ。我の計算では10ナーグ・・・レナに分かりやすく言えば、10分くらい歩いた所だ」


 「へぇ〜!もう単位覚えたんだ!凄い!それに案外近くに巣があるんだね!」


 「そうだな。同じ蟻でも種の違う蟻も多い。まぁ人間のような感じで色や大きさが違う。民族が違うと思ってもらって差し支えない。攻撃的な種も居る。ファミリー以外はあまり信用するなよ?」


 「分かった!とりあえず私も魔法が使えるようになったんだよね!?」


 「そうだったな。とりあえずマナとは何かを感じろ。我に触れろ。マナをそちらに流し、活性化させる」

 

 「分かった!ってか、それにしても手?足がいっぱいあるのは便利よね〜!」


 「集中しなさい。何か感じるか?」


 「う〜ん。なんとなく・・・ポカポカした感じ?」


 「うむ。それで良い。水と火の魔法陣を刻印している。我の国とは違うから呪文も違う。即ち、想像が重要なのである!何か頭で想像して、自分なりの言葉を作れ!炎と水、別々でだ。その言葉は今後、レナが使う魔法を行使する呪文となり、長ければ長い程威力は上がる。それと、ちゃんとマナを術を放つ場所に集中させよ。我は主に右手で放つ事にしている」


 「う〜ん・・・【出でよ!炎!】」


 「バカ!そんな安易で短な呪文では・・・」


 ブォォォーーーーーーッ!!!!


 「きゃぁっ!やったぁ!おじさん!出た!出た!私も魔法が使えたよ!」


 「レナ!今のは何を想像した!?何であんな短い呪文で高出力の魔法が放てるのだ!?」


 「え!?火たがらガスバーナーのイメージだったんだけど・・・」


 「ガスバーナーだと!?それはなんだ!?」


 「なんだ!?って言われても・・・」


 「他にも思い浮かぶ事はあるのか!?」


 「うーん。水は・・・【出でよ!水!】」


 ピチャピチャピチャ


 「出た!出たよ!」


 「・・・・・・・」


 なんという事だ・・・。水は普通だが炎だけあのような青い炎を出すとは・・・。


 「あっ!昔映画で見た事のある炎も出るのかな?【出でよ!隕石!】」


 グゴッゴッゴッゴッゴッ


 「ぬぉっ!!レナ!辞めろ!止めろ!クッ・・・【忘却】」


 シャポッ


 「あれ!?消えた!?」


 「(ペチン)レナ!止めろと言ったではないか!あんな魔法どうやって出した!?明らかに火と土の複合魔法のコメットではないか!」


 「え!?火球をイメージしたんだけど・・・」


 「ハァー・・・とにかく、魔法とは危ないのだ」


 「そうなの?想像が大切って言ったから・・・でもごめんなさい!」


 「うむ。まぁ良い。今後、魔法は我が居る時だけに致せ。その力を得て力で相手を平伏させるのは良くない。

 かつて、我も黒魔術の深淵を覗いた時に思った事だ。新たに得た力がどうしても使いたくなる気持ちはよく分かる。が、そのまま突き進めば残るは一人ぞ。

 どの種族も必ず仲間は居る。孤高のような生き物にも必ず番が居るであろう?それと同じ摂理だ。よく覚えておきなさい」


 「はーい」


 「さて・・・同胞の違うマザーの者達に挨拶に行こうか。まずは西からだ」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「侵入者か!?ここはマザーヘカリー様の棲家だ!警告は1度のみだ!立ち去れ!」


 「待て待て。我は襲うつもりで来たのではない。こちらはレナ。我はリアク。最近、引っ越して来たのだ。東に少し向かった所にある大きな杉の木の下にこれから巣を構えようとしているのだ。近所になるから挨拶をと思って、我が女王のアイルーに頼まれた。マザーヘカリー殿に御目通り願いたい」


 「ハッハッハッ!若い女王か!ならまだ兵も少ないだろう!襲ってくれと言っているのか!?」


 「(ペチン)我が兄弟がすまない。住居 鎮護兵 隊長のコッポルという。貴様は下がっていろ!」


 「隊長!すいません!ですがしかし・・・マザーが・・・」


 「(ペチン)二度は言わん!それ以上言うなら食ってやる」


 「・・・御意」


 「度重ねで見苦しい所を見せた。挨拶に来る同胞は久しぶりでな。で、マザーに会いたいと?」


 「あぁ。家の決まり事はその家により変わるだろうから我は何も言わない。ただ本当に我等は挨拶に来ただけだ。手土産も持っている。人間の幼生が食べている飴玉のカケラだ。少ないが受け取ってくれ」


 「久しぶりに見た。その匂いは紛う事なき飴玉だ!リアクと、レナと言ったな。着いて来てくれ」


 「おじさん?なんだかここ・・・」


 「言うな」


 「気になるか?レナ?そうさ。つい先日襲撃されてな。仲間をかなり失った。ここに残るは鎮護兵と傷付いた労働蟻と兵隊蟻ばかりだ。今、見回り隊に飯を取って来てもらっている所で閑散としている。本来ならこの辺ではそこそこのコロニーと言えるくらいの家族だったんだがな」


 「そうか。負けたのか?」


 「あぁ。あれには敵わない。空からやって来る悪魔だ」


 「種族はなんだ?」


 「俺達は灰褐色の悪魔と呼んでいる。暑い季節の時によく来るのだが、去年くらいから寒い季節でもいきなり襲ってくるようになったのだ。俺も老齢だ。次に襲われた時は俺が囮となりファミリーを助けるつもりだ」


 「そうか。我も少し調べてみよう」


 「辞めておけ。まだ若い女王だろう?木の近くにだけは巣を作るな。あの悪魔は見ている。見回りの兄弟達が獲物を持ち帰り歓喜している所にやって来る。

 まぁその事はもう良い。この先がマザーが居る所だ。粗相のないようにな」


 灰褐色の悪魔と・・・。空からというなら鳥か?まぁ良い。こちらにはレナが居る。あの物知り箱に聞けば分かるであろう。


 「おじさん!どうせまたスマホに聞こうとしてるんでしょ?」


 「さすがレナだ。よく分かったな」


 「はいはい!帰ったら調べるよ!それにしてもおじさん・・・なんかマナのような感じが・・・」


 「レナも分かるか?そうさ。このヘカリーというマザーも中々に凄い」


 「よく来ましたね。可愛い同胞よ。私はヘカリー。このコロニー・・・とは言えなくなったけど、この家の女王よ。こっちは側近で私のお世話をしてくれているカイラ。カイラ?客なのよ?何か出してあげて」


 「すいません。貯蔵庫には・・・」


 「そう・・・」


 「御配慮痛みいる。が、我等には不要です。お気遣い無く。寧ろ我等の方が土産が少なすぎた気がするくらいでございます」


 「人間の飴玉だったかしら?子供達に食べさせるわ。ありがとうね。で、あなた達は挨拶に来たの?聞けば東に少し向かった所にと聞いたわよ?」


 「えぇ。そこで新たに巣を作り、家に拡張し、コロニーにしようと目標にしています」


 「そう・・・目標があった方がいいわよね。けど、悪魔が居るの。来て早々に言うのもアレだけど・・・引っ越しした方がいいわよ。悪魔の話聞いたでしょう?」


 「確か、マザーヘカリー様の兵の善戦虚しくと・・・」


 「善戦なんてしてないわよ。あれは一方的な殺戮。私の子達の声が聞こえなくなるのがこんなに悲しくなるなんて・・・皆からの緊急フェロモンが出されたけど助ける事が出来なかった・・・マザー失格よ・・・。コロニーと言われるくらいになり、意気揚々としていたのが地獄のような感じ・・・」


 「残念です」


 「ねぇねぇ?マザー・・・ヘカリーさん?」


 「馬鹿者!そこに直れッ!貴様がそのようにマザーを呼ぶとは何者だ!」


 「カイラ!下がりなさい!貴方はレナって名前だったわね。どうしたのかしら?」


 「ありがとう!マザーは反撃しないのですか?」


 「ふふふ。悲しい気持ちなのに貴方は面白い話し方するのね。まるで旧来の仲間みたい。その答えは否よ。あれには勝てない。絶対にね。あなたも見れば分かるわよ。ただし、それと目が合えば死ぬ事になるけどね」


 「そっか・・・」


 「だからお前はその話し方はなんだ!」


 「カイラは辞めなさい!貴方もそろそろ新しいファミリーを作る時期なのよ?こんな話し方でイライラしてどうするの。共存しないと私達は生きられないのよ。こんなだから私は未だ貴方の巣立ちを許可しないのよ。ところで貴方達はどこのマザーから産まれたの?家?コロニー?」


 「私達は・・(ゴホンッ)」


 「我等は少し遠く離れた場所です。南に歩いて20日以上は最低掛かる場所。コロニー・・・と言えるか言えないかくらいの場所と。それで御勘弁を」


 「安心しなさい。襲ったりしないし、そんな事私はしないわよ。けど、母巣を言わないのは好感が持てるわよ。マザーの事を思っているのね」


 「はい。裏切れません」


 「良いマザーから産まれたのね。残念ながらもう貴方達とは会う事はないでしょう。あの悪魔は根刮ぎ食べる。大食感の悪魔。次は私も食べられると思う」


 「マザー!?私がそんな事させません!」


 「カイラ。貴方は本当に巣立たないといけない。私は古いマザーなの。私に連なる子孫を増やすのが貴方の役目。疑いから入る事は悪くない。私が教えたからね。けど、一定以上の疑いは相手に警戒され仲良くなれず、コロニーになるまで拡張できないわよ」


 「マザー・・・」


 「おじさん!どうにかできないの!?」


 「もし・・・よろしければ我の考えをお聞きいただきたい。前代未聞の事ですが」


 「何かしら?子を沢山亡くした私を、かつて栄華を誇ったこのコロニーから脱出するなんて嫌よ。私も子の所へ向かうのが運命なの」


 「もし、そのお考えが変わるなら今の我の女王の巣に来て頂きたい」


 「ふふふ。そんな事は無理よ。私の矜持が許さない。私の一族は誇り高いの。次代のマザーの逸材も今は少し難があるけど育ってくれた。ね?カイラ?」


 「(グスン)」


 「そんな何も無く敵に食われる最後をお望みか?」


 「言うわね?今のような言葉は他の巣や家、コロニーのマザーに言わない方がいいわよ?私は気にしないけど」


 「いや、反撃したくないか?我とレナが居ればそれは可能だ。あぁ。間違いなくな」


 「ふふふ。私がもう少し若ければそう思ったでしょうけど、私は先も言ったように古いマザーなの。残りの寿命も長くない。

 もう子も産めなくなっているからね。本当ならカイラにコロニーを譲ろうと思ってたけどそうもいかなくなってね。

 新女王の名前は?」


 「アイルー」


 「そう。良い名前ね。伝えてちょうだい。マザーは子を増やす事だけじゃなく、襲撃には常に気を付ける事。コロニーになるまで時間は掛かるでしょうが、そうなっても安心しない事とね。もてなしもできなくて悪かったね。さぁ。もう帰りなさい。またいつ来るか分からないからね」


 「「・・・・・・」」


 「新女王アイルー、リアク、レナの巣に幸あれ」


 「マザーヘカリー様。良い旅路を。レナ。帰ろう」


 「ちょ、おじさん!」

 

 「うむ。俺のマザーは凄かっただろう?そんな寂しい顔をするな!」


 「・・・コッポル。良い旅路を」


 「うむ。お前達も繁栄あれ」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「ねぇ!おじさんってば!」


 「なんだ?」


 「『なんだ?』じゃないわよ!どうする気!?見捨てるの!?」


 「見捨てたくはない。我の考えではアイルーの相談役にでもなってもらおうと思っていたのだが、我は前の時代、そのまた前々、前々前と色々と生受け分かった事ある。あれは覚悟した目だ。

 そりゃ生きれるなら生きたいだろうが、あのマザーヘカリーは生きるという生き物の摂理を外れ、子が居る所に行きたいと願っている。その生き物の摂理を超えるくらいの惨劇を目の当たりにしたのだろう。

 その決意をした者は何を言っても変わらん。我もそうだ。妻の為、仲間の為とな。だが誰も居なくなれば生きる事が嫌になるものだ。その者に我は何も言わない。ただ見送る事が最善だ。仮に無理に助けても生きる屍となるのが常だ」


 「そっか・・・」


 「まぁ安心しろ。我と同じ星の摂理なら次の生が何になるかまでは分からないが転生は必ずする。記憶は無くなるがな」


 「分かったよ。私は灰褐色の悪魔を調べてみる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る