第52話 仮面舞踏会再び
学園では珍しい、優雅で華やかな噂が飛び交っていた。
「王族主催の仮面舞踏会が開催される」という通知が、生徒たちの心を沸かせている。
――主催は、王国第三王子・アルト=グランレイド。
名門家系が集うこの舞踏会は、表向きは貴族子弟の親睦の場、だがその実、情報と力を探る者たちの“仮面の戦場”でもあった。
「仮面舞踏会か。面倒そうだな」
ルナはため息をつきながら、机に頬杖をつく。
「でも、王族の招待だよ。断ったら失礼にあたる」
ゼノが冷静に応じる。
そんな中、イアは黙って窓の外を見ていた。空には白い月。
仮面の下で探られるのは、自分の素性――“世界”であるという本質なのかもしれない。
「イア。出るの?」
ロゼが問いかける。
彼女はすでに、王宮からの“別枠”の招待状を持っていた。
「うん。たぶん、必要なことだから」
そう答えたイアの声は穏やかだったが、その奥にあるのは警戒と観察の意志だった。
舞踏会当日、王都城の大広間は煌びやかな光に包まれていた。
水晶のシャンデリア、貴族たちのきらびやかな衣装、仮面の下で揺れる思惑。
そしてその中に――“彼女”が立った瞬間、空気が変わった。
純白のドレス、黒銀の仮面。
その姿に、場が静まり返る。
(……あれが、イア?)
第三王子・アルトも、すぐに彼女を見つけた。
しかし彼は軽率に近づかず、周囲の者に観察させるだけにとどめた。
だが、そんな王族の腹の内を感じ取る者もいた。
ロゼは、すでに一歩先を見ていた。
(王家は気づき始めている。イアが、ただの学生じゃないって)
だからこそ、先に動く必要があった。
舞踏会の中盤、ロゼはイアを誘う。
「……仮面のままでもいいから、少しだけ踊ってくれる?」
イアは一瞬だけ迷い――頷いた。
音楽が流れ、ふたりのステップが交差する。
一歩、また一歩。
静かに、しかし確かに、周囲の意識が彼女に引き寄せられていく。
(やっぱり、ただの人間じゃない。何かが“満ちて”いる……)
だが、その時。
――空間がわずかに揺れた。
「これは……」
イアの目がわずかに細まる。
舞踏会の外、城の地下に眠っていた“もうひとつの神代装置”が、目覚め始めていたのだ。
(ここにも旧時代の残響が……?)
イアは仮面の下で目を閉じる。
世界の“記憶”が、また一つ、目を覚ます――。
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