第42話 幕間《仮面の奥の真実――グレアの観察録》
夜も更け、舞踏会の喧騒が幻のように消えたころ。
王都の一角、ギルドの貸し部屋で、グレアは一人、窓辺に座っていた。
街の灯りは遠く、月は雲の向こう。
でも彼女の目は、まるで“何か”を見つめるように冴えていた。
机の上には、一枚のノート。
それは、彼女が密かに書き溜めている――《イア観察録》。
ページをめくり、ペンを手に取り、ロゼは静かに書き始める。
《観察日:黒薔薇の舞踏会の夜》
対象:イア(仮称/核心不明)
・舞踏会において、空間そのものを反転させる現象が発生。
・対象は魔導、召喚、空間制御、重力干渉のいずれとも異なる“概念的”な力を展開。
・反応した旧王族ノワールは「世界の心臓部」と称した。
→これは、古文書にあった“神の欠片”とされる伝承と一致。
→だとすれば、イアは単なる人間ではない。
(中略)
・ただし、本人に自覚があるかは不明。
彼女は“普通の感情”を装うが、それがあまりに自然すぎる。
本当に自然なのか、完璧な模倣か、判断がつかない。
→でも、たまに――
“懐かしそうに笑う”時がある。
その表情には、演技ではなく“帰属”のような何かが滲む。
グレアはペンを止める。
そして、ぽつりと、つぶやいた。
「ねぇ、イア。あなたは……本当に、“この世界に生まれた”の?」
沈黙が返ってくる。
だけど、イアの静かな瞳を思い出すたび、胸の奥がざわめくのだ。
彼女が傷ついたとき、世界の“痛み”が揺れるように感じる。
彼女が笑うとき、季節が優しく巡るように思える。
そして彼女が怒ったとき――自然すら膝を折るほどの、圧倒的な力。
(もしも本当に……イアが、“この世界そのもの”なら)
グレアはそっと、ノートを閉じた。
――なら、私はそれでも、あなたの隣に立っていたい。
どれほど遠くにいても、どれほど高みにいても。
「私の願いは、あなたの“隣”で、世界を見届けることだから」
その夜、窓の外では静かに風が吹いていた。
まるで、誰かの想いに、世界がそっと応えているかのように――
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