第41話 舞踏会と、夜に囁く旧王族

王都・エルトラヴィス。

魔導光の灯る夜の都に、選ばれし者のみが集う秘密の舞踏会があった。

仮面で素顔を隠し、名も身分も問われぬ一夜限りの宴――それが、“旧王族”が主催する《黒薔薇の舞踏会》。


イアは、真紅のドレスをまとっていた。

まるでこの世界の夜そのものを切り取ったような存在感。


「似合ってるよ、イア」


隣に立つのはグレア。いつもよりぐっと大人びた黒のドレス。横髪に銀の飾りを差し、瞳には警戒と興奮が揺れていた。


「でも、気をつけて。この舞踏会、“情報戦”って噂だよ。強者が力で語る場じゃない。――正体を隠す、仮面の駆け引き」


「大丈夫だよ。仮面なら、私は慣れてる」


イアは静かに微笑んだ。

そう――《この世界そのもの》である彼女が、最も得意とするのは“観察”と“真実の見抜き”。


 


舞踏会の中心では、各地の魔導貴族、軍上層部、そして《現王政に属さない一族》たちが、優雅に言葉を交わしていた。


その中に、ひときわ異質な存在があった。


仮面の奥から、かつての王の“血”を思わせる気配――

主催者、《旧王族》の末裔、ノワール・ファルメル。


彼はイアに近づき、目を細める。


「……やはり、“あなた”ですね」


「……何の話だろう?」


「我々は知っている。この世界の因果が、いま再構築されつつあることを。

かつて《世界の心臓部》が人の姿を取ったと伝わる伝承。――あなたは、それだ」


イアの微笑みは崩れない。


だが、舞踏会の空気は確実に変わり始めていた。


 


ノワールが指を鳴らすと、舞踏会の床が揺れた。


空間が反転し、舞踏会場は一瞬で“遺構”へと変貌する。


「これは試練ではありません。ただの“確認”です。

我々旧王族は、あなたが《世界そのもの》ならば、証を見せてもらいたい」


 


ロゼが即座に魔剣を構えるが――


「下がってて、グレア。少しだけ、“力”を使うよ」


 


次の瞬間、空気が震える。


空間が“理解”を拒み、重力すら歪む。


イアの足元から、白銀の世界光が立ち昇る。


言葉も、理屈も、魔法さえも及ばない。

――それは、ただの「在る」という真実だった。


ノワールが膝をつく。旧王族の眷属たちも、一人、また一人と崩れ落ちていく。


「これが、“世界の核心”……っ……!」


イアはただ静かに、夜の帳の中、告げる。


「私は――この世界を愛してる。ただそれだけだよ」


その言葉に、遺構が光に包まれ、空間が元に戻っていく。


 


舞踏会は、誰も何も言えないまま、幕を閉じた。


ただ、ノワールだけが跪きながら、確信していた。


――この世界は、彼女によって守られている。

そして、彼女こそが、真の王であると。

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