貴族学園編
第37話 ノーア魔導学院
名門「ノーア魔導学院」――それは、帝都の中心部に聳え立つ、選ばれし者たちの学び舎。貴族の子弟、王族の末裔、そして一部の特例的な推薦者のみが通うことを許される、格式と権威の象徴。
そこに、ある日ひとりの転入生が現れた。
名は「イア」。
身分不明。推薦状あり。だが素性は完全にブラックボックス。
銀色の髪、どこか浮世離れした雰囲気。
教師たちの間でさえ、彼女の詳細な履歴は共有されていなかった。
「転入生、イアです。ご迷惑をかけないように努めます。よろしくお願いします」
教室に響くその声は、どこか穏やかで――だが、深層に触れれば触れるほど、底知れぬ何かを感じさせた。
生徒たちは一瞬ざわついたが、すぐに静まり返る。誰もが、その場に立つ彼女から、無意識のうちに目を逸らしていた。
「イアって……どこの家の出なんだ?」
「聞いたことないわ。あの制服、貴族特例枠の転入生ね。でも推薦元が不明なんて……」
「まさか、裏社会の出身?」
「バカ。あんな気配、ただ者じゃないよ。少なくとも、俺よりずっと上だ」
強者たちの集まる魔導学院においてすら、彼女の存在は異質だった。
とはいえ、イア本人は――そんな周囲の視線にまるで気づかないかのように、ただ静かに席へと歩いていく。
(この場所にも、裂け目の波動がある……どうやら、この学院の地下に“鍵”が隠されているようだね)
学院に潜入したのは偶然ではない。
彼女は“異常な魔力震”を察知し、その震源がこの地にあると突き止めていた。
だが――それだけではなかった。
「イアさん。これ、時間割です。あと、寮は西棟の三階で……えっと、私、レティ=アルストリアって言います」
声をかけてきたのは、同級生の少女。栗色の髪に、控えめながら芯の強そうな瞳。どこか怯えたような態度は、貴族学院に馴染めていない証でもあった。
「ありがとう、レティ。寮まで一緒に行こうか」
「えっ、あ、うん! い、一緒に……!」
(ふふ、人と話すのって……なんだか久しぶり)
世界そのものである自分が、誰かと“関係”を築く。その新鮮さが、ほんの少しイアの頬を緩ませた。
だが、その背後では――
学院最上階の「特級指導室」で、ひとつの会話が交わされていた。
「……やはり、動き出したか。“彼女”が」
「ああ。《世界核》を守るべき存在の一柱――“旧時代の監視者”が、ついに目覚めたらしい」
「問題は、彼女が“どこまで”知っているか、だ」
「油断は禁物だ。あれはただの転入生じゃない。神すら気づかぬ“座標”だとしたら……この学院ごと飲み込まれるぞ」
闇はすでに学院の奥深くに巣食っていた。
そして、それに気づいたイアもまた、静かに決意する。
(……わたしは、歩く。隠したまま。この世界のすべてを見届けるまで)
仮面の転入生は、今日も穏やかな笑みを浮かべていた。
だがその裏に潜むのは、世界そのものが持つ“無限の意志”だった。
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