第32話 裂け目
裂け目の入り口に立ったイアたちは、静かな緊張感に包まれていた。周囲の空気は異様に重く、地面からはほのかな振動が伝わってくる。裂け目――それはただの地割れではなく、世界の歪みそのものだった。
「ここから先は未知の領域だよ。油断しないで」
イアが声を低く響かせる。仲間たちはそれぞれ魔法陣や防護結界を展開し、瘴気に備えた。
裂け目から漏れ出す瘴気は、目には見えないが、肌を刺すように感じられた。エルが巻物を展開し、特別な結界魔法で空間を包み込む。
「これで瘴気の影響を少しは抑えられるはず」
イアは杖を構え、ゆっくりと裂け目の中へ足を踏み入れた。彼女の胸の中で、マーリンの魂核が淡く光る。それが何よりの支えだった。
裂け目の内部は薄暗く、ねじれた根のような魔力の塊が地面や壁に絡みついている。空気はひんやりと冷たい。
裂け目の瘴気は渦巻き、闇の生物たちが無数にうごめいていた。だが、そこに立つイアはまるで別世界の住人のように、圧倒的な存在感を放っていた。
「ここから先は、私の領域だ」
杖を高く掲げると、空間が歪み、漆黒の瘴気を切り裂く鋭い光刃…「ランク2光属性魔法「
「死ね――」
言葉と共に、彼女の魔力が一気に解放され、地面からは巨大な魔法陣が煌々と輝き出す。紫と白の光が交錯し、瘴気を焼き尽くす熱風が裂け目の奥底まで吹き荒れた。
怪物たちは怯み、混乱し、もはや反撃どころではない。
イアは走り出す。疾風のごとく、一体、また一体と敵を斬り伏せていく。杖を振るうたび、魔法が炸裂し、爆炎や氷結の波動が周囲を支配した。
巨大な瘴気の獣が一歩踏み出すが、イアは冷ややかに振り返り、掌から放たれた紫の雷光が一閃。その一撃で獣は痙攣し、粉々に砕け散る。
その瞬間、イアの全身が光に包まれた。魂核の輝きが頂点に達し、彼女自身が魔力の化身となる。
全属性魔法使い一時的な
空間を断つ斬撃が幾度も繰り返され、闇の生物たちは一瞬にして消滅した。
裂け目の奥底から、黒い巨大な影が浮かび上がる。
「まだ終わっていない…!」
それは瘴気の源、闇の王だった。
イアは一瞬もためらわず、杖を高く掲げ、叫んだ。
「マーリンの魂と共に――全てを終わらせる!」
巨大な魔法陣が全方向に拡がり、次元さえも切り裂く光の柱が裂け目を満たした。
ランク6光属性魔法「
闇の王は叫び、光に飲み込まれて崩れ落ちる。
やがて裂け目は静まり返り、瘴気も消え去った。
息を切らしながらも、イアは澄んだ瞳で空を見上げた。
「これが、私の力……。誰にも止められない」
無双の戦いを終え、彼女はただ一人、世界の闇を切り裂いた光の剣だった。
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